日本でのBEVモデル初投入を機に…ボルボの日本社長がEV戦略をおおいに語る[トップインタビュー]

ボルボ C40リチャージの前に立つマーティン・パーソン社長
  • ボルボ C40リチャージの前に立つマーティン・パーソン社長
  • ボルボ C40リチャージ
  • ボルボ C40リチャージのフロントマスク
  • ボルボ C40リチャージ
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  • ボルボ C40リチャージのホイール
  • ボルボ C40リチャージの運転席

COP26にて、2040年までに世界で販売する新車すべてをEVに切り替えることを含む共同声明を採択。38カ国と複数の自動車メーカーが賛同署名した。今年3月に、2025年までに新車の半分を、2030年には100%をEVにすると発表したボルボは、中でも急進的なメーカーとして知られる。

こうした動きと歩を合わせ、11月18日にはボルボにとって日本市場で初となるピュアEV『C40リチャージ』が発表された。同モデルの欧州仕様を展示した都内のボルボ スタジオ青山において、ボルボ・カー・ジャパンのマーティン・パーソン社長がインタビューに応じた。

◆今、EVを日本市場に投入する狙い

---:今この時期に、日本市場でC40リチャージを投入する意義とは?

マーティン・パーソン社長(以下PM): そうですね、日本でC40リチャージのローンチ発表と受注開始をアナウンスできたことは、私たちにとっても非常に重要な、歴史的な日であると捉えます。ボルボ・カー・ジャパンとして初めて展開するEVモデルで、2030年には(ラインナップの)100%をEV化する、という目標に向けて、ゼロからのスタートですから。

---:まだガソリン車に乗っている日本のユーザーからは、期待の声と同時にICEへの執着もあると思われますが、いかが思われますか?

PMいえ、これまでに分かっていることですが今日、PHEVをはじめとするハイブリッドのボルボ・ユーザーは数多く、ドラマチックなほど速いペースで伸びています。彼らはサステナビリティや電動化について理解してくれています。ですから、こちら(BEV)についても成功を収められるであろうと、私は確信しています。

ボルボ C40リチャージの運転席ボルボ C40リチャージの運転席

◆サブスクのみで取り扱う理由とは

---:C40リチャージのオーダー受付が始まって、最初期の受注はまずサブスクリプションのみ、としたのは、日本市場でこの方式がいまだ、伸びるべき伸びを示していないということでしょうか?

PMというよりも、私がしたかったのはむしろシグナルを送ること。従来とまったく違ったことをすることで、我々がまったく新たな幕開けにあることを、語りかけたかったのです。我々にとって初めてのBEVである以上、従来とは違う何かであるという、強いシグナルを発信する必要があった、それでサブスクリプションから始めたということです。サブスクリプションに続いて1月からは通常の販売も開始します。オンライン受注ではありますが、通常の(所有登録としての)販売も展開していきます。

---:欧州CセグメントのBEVは今、各社から投入していますが、C40リチャージの優位性はどの辺りにあるとお考えですか?

PM思うに、まずデザインが挙げられます。非常にスタイリッシュであることがひとつ目。つづいてクルマそのものがもつ走行性能。ご存知のように(C40の中でも)よりグレードの高いバージョン、408ps仕様の「ツインモーター」を投入します。非常にパワフルな一台でありながら、インフォテイメントにグーグルを搭載しており、同クラスを見渡しても他にないユニークなポイントだと思います。

---:先ほど、オンラインでの通常販売が話題にありましたが、既存のディーラー店舗の役割とはどのようなものになるでしょう? またガソリンなどICEモデルの買取や中古車の価格維持についての方策とはどのように?

PM無論、我々は2030年までに新車を100%EV化していきますが、一方で2030年からも15年間、内燃機関エンジン搭載モデルのサービスを継続していきます。内燃機関モデルのクルマのビジネスを止めるとは申し上げていませんから。それに将来にわたっても、我々はディーラー網が必要であること、多くのオフライン・エクスペリエンスがあることに変わりはありません。我々はオンライン・エクスペリエンスを発展させることはできますが、オフラインのそれらは、サービスやアフターケアといったものは、ディーラーとともに守っていく必要があるのです。

中古車の価格については、私個人としては成り行きによる部分も大きいと思います。カスタマーたちはつねづね目敏くて、今起きていることを注視しながら、電動モデルが徐々に盛り上がっている以上、ゆくゆくはそれらを購入すべきかどうか考えているでしょう。だから我々が中古車の市場を何とかしてコントロールしようとは考えません。でももし、ボルボの中古車を2029年に購入されても、我々はメンテナンス・サービスをもちろん、もう乗られなくなるまで、提供し続けますよ。

今のところボルボ・カー・ジャパンの見通しとしては、2025年までに新車販売の65%を非EVモデルとすること、逆にいえばBEVが新車販売に占める比率は向こう4年間で35%という目標を立てている。明日かいつ何時か、急に取り扱い車種がすべてEV化する訳ではない。部分的ICEモデルからの移行を、それだけ長い時間軸で捉えているからこそ、中古車についても市場に任せるという判断だ。

ボルボC40 リチャージに乗り込むマーティン・パーソン社長ボルボC40 リチャージに乗り込むマーティン・パーソン社長

◆電動化しても変わらないボルボの価値

---:BEVへ徐々に移行していく中でも、ボルボとして変えないものは何でしょうか?

PMまず筆頭に挙げるべきは、安全性について、妥協は決してしません。安全性はボルボの核ですから。電気自動車であっても現在のモデルと同じかそれ以上に安全なクルマであり続けます。また顧客に素晴らしいエクスペリエンスをもたらす点についても、変わりません。現在のボルボを見てもらえれば分かるように、カスタマー・エクスペリエンスにおいて我々はもっともリードしているブランドのひとつです。これらの価値観を今後も我々はキープし続けます。

---:中古車市場とサブスクリプションの関連について質問します。EVでは残価を設定するにあたって、(従来の内燃機関車と)どのような違いがあるのでしょう?

PM欧州で起きている状況についていえることで、まだ日本では起きていませんが、電気自動車の中古価格は欧州では非常に高値となっています。というのも生産キャパシティが限られている割に需要が高いからです。そのためEVは現在、とても市場で人気があるといえます。他方でディーゼル車は急速に値崩れしています。なぜならカスタマーたちは、将来的にディーゼルが市場では魅力的でなくなっていくことを理解しているからです。ですから私が中古車市場についてあまり心配していません。需要より台数の供給が少なめであるのは、我々も同じ状況だからです。

今回のサブスクリプション受注についても用意した(C40リチャージの)台数より申込の方が多い状況となっています。初期段階で心配はしていませんが、この先、どこで中古車としてEVの市場価格が安定するか、ですね。しかし欧州市場と同じことが日本でも起きるだろうと考えています。というのも、カスタマーは、EVこそが未来であること、内燃機関モデルは早晩、価値を失っていくかもしれないことを、ちゃんと理解しています。ですが、それがいつやってくるかは心配していません。

ボルボC40 リチャージの充電コネクタボルボC40 リチャージの充電コネクタ

◆日本でのEV普及への道筋

---:EVの急速充電インフラをボルボとして整備していくことは考えていますか?

PM:いいえ、我々が単独でやることはなく、既存のパートナーとの協調していきます。独自の充電ネットワークを作ることはしません。

---:2025年に日本市場で35%がEV、という目標は、グローバルの2025年までに50%をEVとするという目標と差がありますが?

PMええ、というのも日本市場における電動化は、他の地域よりもゆっくり進むと考えているからです。行政による補助金インセンティブ、ユーザーのマインドセットの変化といったものに、日本では時間がかかります。インフラストラクチャーの欠如も同様です。でも日本市場の利点ですが、ひとたびシフトが起きる、変わるとなったら、その変化は物凄く早いということです(笑)。ですから我々は安心して見ています。

---:日本のユーザーには内燃機関に慣れ親しんだあまり、EVに対して攻撃的に拒否する傾向も一部にあります。EV化は自動車社会を分断する要因でもありますが、カーボンニュートラルとは別に、自動車メーカーにとってEV化を進めていくメリットとは?

PMおっしゃる通り。私が強調したいことは、日本市場が2030年に100%EVになるとは、我々は口にしていないことです。ただはっきり申し上げたいことは、プレミアム・マーケットではさらに電動化が進みます。日本市場全体の中でプレミアム・マーケットがそうなるという話で、ボルボはそこでリーダーを目指しているのです。市場全体がどうなっていくかは、私には分かりません。全体の(BEV化が)10%か15%か20%か、それは我々には問題ではなく、プレミアム・マーケットこそが重要なのです。

---:これまでPHEV、MHEVを投入し、今回のC40リチャージでピュアEVと、電動化の割合が高まるにつれて、カスタマー・エクスぺリエンスの質に、変化はありますか?

PM多くのカスタマーは初めての電動化をプラグイン・ハイブリッドを通じて経験し、それからBEVに移っていくと思います。PHEVのメリットは当然、エンジンとモーターの両方を備えていることです。BEVの方が、我々のアプローチするターゲット対象もそうですが、やや若いカスタマー層があてはまると思います。こうした層は、従来よりもずっとデジタル化されたサービスを多く求め、必要としています。たとえば予約システムを筆頭に、デジタルであることが求められます。我々はそこを強化していって、よりデジタルなカスタマー・エクスペリエンスを提供しなければなりません。だからこそC40リチャージを我々はグーグル・オートモーティブ搭載車として投入し、ボルボのアプリを通じて車両設定の様々なことがスマートフォン上でコントロールできます。こうした機能は、カスタマー・エクスペリエンスのデジタル化に資するものです。

---:今後のラインナップですが、S60やXC60などなど、現オーナーがEV版へと買い換えられるように展開されるのでしょうか?

PMえー、我々は近い将来のモデル展開を口にすることはできません(笑)。でも以前にも申し上げた通り、1年に1モデルは必ずBEVモデルを発表していきます。年によっては2モデル以上になります。それらは無論、現行モデルのオーナーの方に乗り換えの機会となります。今現在、多くの自動車メーカーが投入しているBEVは、旧い内燃機関との共有プラットフォームに基づいた、ミックスであることが多いです。が、今後登場する新しいBEVの利点は、初めからBEVであることを前提に専用開発されたプラットフォームで設計に無理な部分が無いことが、多くの利点となって表れてきます。EV専用開発となって、全体のバランスやデザインからして別物になるのです。

EV戦略について語るマーティン・パーソン社長EV戦略について語るマーティン・パーソン社長

◆ポールスターを含むグループとしてのEV戦略

---:ところで日本でのEV戦略とポールスターの関係は、どのようになりますか?

PMポールスターは(ボルボ・)グループの一部で、異なる会社ですが、テクノロジーは共有しています。でも違う会社である、ということです。日本での展開もポールスターの別オペレーションということです。

---:C40リチャージの実車に触れてみて、非常にシンプルであることが印象的です。が、日本のユーザーはテック傾向が強い方というか、例えばドアミラーはCCD化されていてもいいといった、BEVだからこそ新しいモノ感が求められませんか?

PMそうですね、でも我々はあらゆるユーザーに販売しようとは考えておりません。我々の哲学はスカンジナビアン・デザインであり、シンプルだけど機能的でよい素材を用いていること。それがスカンジナビアらしさなのです。もしシンプル過ぎるという嫌いがあっても、それをより好まれる方もいらっしゃるというところです。次なるイノベーションを載せたEVとしての未来館については、次世代プラットフォームのニューモデルにもご期待ください。

ボルボ C40リチャージボルボ C40リチャージ

◆2025年までにBEV9000台販売の達成可能性

---:では2025年まで向こう4年間でBEVの販売台数9000台という目標は、到達可能であると思いますか?

PMはい、少なくとも9000台は可能だろうという風に考えています。2030年には新車販売の100%をEV化する訳ですから、そのペースでやっていかないと(笑)。

---:オンライン受注など販売の形態も変わっていく中で、ディーラーにはどのようなビジョンを示されているのですか?

PMディーラーとは非常に積極的な対話を行っています。2025年に我々のビジネスがどのようなものになっているか? そこを語り続けています。例えばオイル交換での入庫頻度は下がりますが、軽いダメージを鈑金補修するといったニーズは変わらないと思います。またEVは重量やトルクがある分、タイヤの消耗が20%ほど早まって交換の頻度は増えます。こうした重要度の高まる作業やビジネスに注力すること、2025年に向けてディーラーがシフトしていく方向を共有することを意識しています。今日とまったく同じビジネスではありませんが、同様に必要とされ、成功することはできるのです。

今やグローバルではニューヨークとストックホルムの証券市場で資金を調達し、アジア発のバッテリー供給を確保しながらも、その一方でスカンジナビアン・デザインや欧州生産の独自性を保つことに成功し、EV化を進めるボルボ。焦らず急がず、着実に大きな変化へ踏み込んでいく戦略と経営は、ボルボが昔から貫いてきた安全性への取り組みと、決して無関係でもなさそうだ。

ボルボ C40リチャージの室内ボルボ C40リチャージの室内
《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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