自動運転に欠かせない「HDマップ=高精度3次元地図」、データ収集走行に同乗

将来に向けて準備が進む自動運転。車両には数多くのセンサー、それとリンクするシステムが搭載されるが、そこで重要なのが自動運転でベースとなる高精度3次元地図データ(HDマップ)だ。今回はそのデータを制作するダイナミックマップ基盤(DMP)のデータ収集現場に同行した。

HDマップは2023年、高速道から一般道にまで拡大。準備は急ピッチで進む

自動運転の要素技術に数えられる高精度3次元地図(HDマップ)。自動運転や先進運転支援システム(ADAS)が自己位置の正確な認識や、信号機などの地物情報を参照するためのマップとして、高い期待が持たれている。高度な自動運転レベル2を実現する日産のプロパイロット2.0、レベル3のHonda SENSING Eliteですでに搭載されており、今後はレベル4以上の実用化においていっそう存在感を増すことになる。

DMPはこのHDマップを製作するため2016年に誕生し、その後、国内の自動車メーカー10社に加え、ファンドや地図メーカー、測量会社、計測機器メーカーなど“オールジャパン”の出資によって2017年に事業会社へ移行した。

すでに高速道路など自動車専用道路でのHDマップを約3万2000km整備済みで、さらに2023年度には一般道にまで広げることを発表。その実現に向けてDMPでは「HDマップ」を制作する作業が急ピッチで進められ、今年4月からは雪の影響が小さくなった北海道からデータ収集をスタートさせた。そこから順に南下し、すでに北日本を終えるなど作業は順調に進んでいるという。

今回はそのデータ収集の現場に密着する機会を得ることができた。DMPによれば、過去にはTV番組が取材で入ったことがあるものの、それ以外のメディアでは初めてのことになるという。

取材現場は、千葉市内にある幕張本郷駅から千葉県総合スポーツセンターまで片道約10kmを往復するルート。往路は京葉道路を、復路は国道14号線を経由した一般道となっていた。取材車は三菱『アウトランダーPHEV』で、このルーフに載せられているのが今回の取材対象となる三菱電機製の「モービルマッピングシステム(MMS)」だ。これは、自動車などに搭載した各種計測機器により、高精度な3次元空間情報を取得する計測システムを指す。

計測システムはおよそ1億円、これを載せた10台の車両で日本全国を計測中

システムには、GNSS (Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)をはじめ、ジャイロセンサーや磁界センサー、気圧センサーなどを備えたIMU(慣性計測ユニット)、全方位カメラのほか、Li-DAR(ライダー)などのレーザー計測器を前後に装備。さらに右後方の車輪にはオドメーターを検出するためのセンサーが備えられていた。このシステムの価格はおおよそ1億円! DMPではこの車両を10台前後用意して、データ収集をしているところだという。

このシステムによって取得できるのは、道路面および信号機などの構造物を含む道路周辺の3次元座標を点群データで、あわせて走行時の環境を連続カラー画像で取得する。そして、この点群データと画像データを合わせた「高精度3次元点群データ」こそ、HDマップを生成するための重要な素材となっているのだ。

この日の体験で同乗したのは助手席側。前席は特に一般車両と違いはない。しかし、後ろを振り向くと、そこには測位状況を監視するためのPCが1台と、周辺を監視するためのカメラ用モニターが1台が設置されていた。PCには三菱電機が制作した計測用ソフトがインストールされており、そこにはカメラで捉えた映像をはじめ、衛星の測位状況やデータ収集状況などが一元管理されている。これを後席のオペレーターが常に監視することで、データ収集におけるエラー状況をチェックしているのだ。

この日、担当していただいたのはDMP技術統括部の土田直之氏と、山中伸氏のお二人。私のような初体験者でも理解できるよう、実際に走行しながらその都度、計測状況を説明していただく形を採った。

データ収集はレーザーによる3次元の点群情報を基本に、カメラからの写真情報を併用して取得することで行われる。この中にはGNSSからの絶対位置情報やオドメーター、IMUからの位置姿勢情報が含まれ、このデータを踏まえて収集したデータの位置にズレが発生していないかを確認するのだ。GNSSの測位状況は衛星の配置や周囲の環境によって常に変化しており、高速道路では防音壁なども測位に影響を与えている。この日も、PCのグラフを見ながら、その状況が刻々と変化している様子を確認することができた。

データにブランクが発生させないため、車両が真横に並ばないように走行

ここでお二人に、データ収集にあたって気を付けていることはないか、聞いてみた。

法定速度内で走行するのは言うまでもないが、高速道路ではだいたい80km/h前後で走行し、高速道路上では一日でおよそ200~300km程度は走る。一般道だと距離はもっと短くはなるようだ。

計測中にもっとも心掛けているのが、真横に車両が並ばないように走ることだという。データ収集はレーザーによるスキャンで行われるが、クルマが真横にいればその部分は陰となり、データにブランクとして反映されてしまうからだ。特に大型車が真横に来ると、これだけにとどまらず衛星測位にも影響を与える。こうした事態を避けるため、速度を抑えて走ることで周囲がどんどん追い越してくれる走りを基本としているという。ここに熟練の技があるわけだ。

一方、クルマがクルマだけに、興味本位で後をずっと着いてくる車両も少なくない。これ自体は特に問題はないが、車間を開けずにピタッとつけられるとこの場合もデータにブランクが発生する。この日も、一台がずっとついて来ることがあったが、一定の車間を空けてくれていたため、データ収集に影響は生じないとのことだった。計測車両を見つけてもあまり近づかないようにした方が良さそうだ。

一般道では、渋滞や信号などで停止するときは高架下にならないように手前で停止位置を調整し、信号のタイミングを見ながら走り出す。これは安定した測位を得るためだ。また、標識のデータも収集できるよう、車線は基本的に一番左側を走行する。ここで問題となるのが駐車車両で、その車両によってもブランクは発生してしまうわけで、そのために駐車車両が少ない夜間を選んで走ることも少なくないという。

信号機は衛星測位で高さ情報までも反映。料金所もデータ収集のかなめ

信号機や停止線なども位置情報を特定するのに重要だ。中でも信号機についてはGNSSによって高さ情報も反映しており、これら「実在地物」と、ドライバーには見えないものの車両制御に重要な車線リンク(車線中心線)などの「仮想地物」を組み合わせることで、車両に搭載されたカメラやレーザーなどでは補いきれない情報をフォローする。

自動運転では先読み走行をすることで安定した誘導をもたらすが、こうした情報の整備があるからこそ可能となるものなのだ。それだけに一般道を走行する際は、この信号機がうまく捉えられているかもチェックするのが欠かせないという。

また、一度でデータ取りができるのは2~3車線は可能ということだが、高速道路は幅が広いために上下線で別々に走行することになる。また、一般道でも、反対車線通行車両によるデータブランク回避や中央分離帯が幅広い場所では上下別々に走行することになるという。ただ、GNSSのデータが1回目、2回目と違っていると接合作業で苦労することになる。その意味でも衛星の測位状況を把握するのは重要なポイントになるということだ。

こうした中で、意外にやっかいなのが料金所で、ここには様々な機器が置いてあり、ゲートごとに遮蔽物もある。とはいえ、このゲートは地図データとして極めて重要であることからできるだけ正確に反映するしかない。結果、料金所は少なくとも2回は繰り返し通過することにしているそうだ。

計測車両を運用するスタッフの対応も一筋縄ではいかないようだ。というのも、一度、車両のシステム(MMS)に電源を入れたら計測を終えるまで切ることはできないのだ。そのため、朝から晩まで計測中は車両から離れることはできず、昼食を採るときは弁当を用意しておくか、コンビニを利用することになる。

遠くまで出張したときは、夜に解析処理を行い、再計測の是非を判定する。良好な結果が得られれば、計測を終えた夜が唯一の楽しめるひとときになるはずだが、コロナ禍はそれも許してくれない。これが悲しいと本音もチラリ。こうした作業が正常化する意味でもコロナ禍の早期収束を期待したいところだ。

《会田肇》

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