【ホンダ ヴェゼル ハイブリッドRS 900km試乗】初期型とは見違えるくらい良いクルマになった[後編]

ヴェゼル ハイブリッドRSのフロントビュー。栃木の龍王峡にて。
  • ヴェゼル ハイブリッドRSのフロントビュー。栃木の龍王峡にて。
  • ヴェゼル ハイブリッドRSのリアビュー。栃木の龍王峡にて。
  • ヴェゼル ハイブリッドRSのサイドビュー。前後ドアとハッチゲートを全開にしてみた。リアドアの開閉角度が少し浅いが、乗降性は悪くない。
  • フロントフェイス。左右ヘッドランプとグリルを合わせてブーメラン型にデザインする「ソリッドウィングフェイス」は“目力”が弱くなるのが弱点だが、RSの場合、グリルがブラックアウトされたことでちょっと精悍さが出ている。
  • フロントシート。ホールド性は前期型に比べて大きく向上したが、座面の体圧分散設計は平凡で、少々疲れやすい。
  • 助手席側から。ダッシュボードにスエードクロスが張られ、上質感が増した。
  • カーナビの操作性はこのクラスとしては標準的。
  • シフトレバーはバイワイヤ式。i-DCDはハイブリッドとはいえ有段変速なのに何でマニュアルモードを付加できないデザインにしたのか謎。ただしヴェゼルハイブリッドの場合はRSに限らず全グレードにパドルシフトがあるので困らない。

ホンダのコンパクトSUV『ヴェゼルハイブリッドRS』で900kmあまりドライブする機会があった(試乗は2019年初冬)。前編では走りや乗り心地についてのインプレッションをお送りした。後編ではドライブの様子、ハイブリッドパワートレイン、居住性&ユーティリティ、運転支援システムなどについて触れていきたいと思う。

冬の到来を待つ奥尾瀬へ

檜枝岐村から奥尾瀬御池に向けてぐんぐん高度を上げる。1週間前は紅葉真っ盛りだったが、すでに落葉していた。檜枝岐村から奥尾瀬御池に向けてぐんぐん高度を上げる。1週間前は紅葉真っ盛りだったが、すでに落葉していた。
このドライブのハイライトは福島~新潟の原生林地帯を通る国道352号線。翌日から半年以上にわたる長い長い冬季通行止に入る前日のことだった。

軽自動車のホンダ『N-ONE RS』でこの1週間ほど前に同区間を走った時は標高の高い奥尾瀬付近こそ落葉していたものの、山裾は息を呑むような紅葉で、その様子の断片をロングドライブインプレッションでもお伝えした。

ヴェゼルで再訪してみると、山々の装いは前週とがらりと変わっていた。会津高原スキー場を過ぎ、日本一の低人口密度自治体である檜枝岐村の中心部へ向かうスノーシェッド付近から見る会津駒ケ岳(2133m)はすでに冠雪が始まっているのが見えた。

檜枝岐村中心から標高1500m弱の奥尾瀬入口へと向かう登り急勾配はすでに落葉を終え、冬の到来を待つばかりとなっていた。反対側から新潟ナンバーのクルマがやってきたので、上の状況をきくと、積雪はあるが路面はウェットとのこと。そのまま進んでいくと、外気温表示は摂氏1度に。奥尾瀬の御池駐車場は長い冬の眠りに備え、遮断機を備えた自動料金徴収機が撤去されていた。

御池を過ぎると只見川への長い下り区間。N-ONEドライブの時にはブナやシラカバの黄色い紅葉が季節風に煽られて空一面に舞っていたが、この時はすでに落葉も終わり、モミの木の枝に雪が付きはじめていた。都市生活に慣れた身には1週間と聞くと“たったの”と感じられるところだが、1年のうちの52分の1という時間は決して短くはない。季節の移り変わりが早い山に来ると、1週間の重みを実感することができる。

パワートレインのフィーリング、燃費性能は

1週間前はブナ、シラカバが金色の紅葉のトンネルを作っていたが、すでに雪化粧をまとっていた。翌日から半年以上にわたる長い長い冬季通行止が始まる。1週間前はブナ、シラカバが金色の紅葉のトンネルを作っていたが、すでに雪化粧をまとっていた。翌日から半年以上にわたる長い長い冬季通行止が始まる。
コンパクトSUVとしては旋回性が良く、かつコントローラブルなヴェゼルハイブリッドRSは、融雪で路面が濡れたワインディングを気持ちよく走るには好都合だった。コーナリング時にブレーキングで前輪に荷重をかけたりといったことを意識せずとも、ステアリング操作で素直にロールが発生するので、自然とリズミカルなドライビングになる。N-ONE RSのような素早さはないが、山岳路を積極的に走るうえで欲しくなる性能のボーダーラインは十分にクリアしているように感じられた。

ヴェゼルハイブリッドが搭載するパワートレインは、ホンダが2013年に展開を始めた1モーター内装デュアルクラッチ式ハイブリッドパワートレイン「i-DCD」。組み合わせられるICE(内燃機関)は旧型の第3世代『フィット』や現行第2世代『フリード』の高効率型ミラーサイクルエンジンではなく、Cセグメントステーションワゴン『ジェイド』と同じ最高出力132psの高出力型1.5リットルDOHC。電気モーターとの同時駆動で得られる合成出力の最大値は152ps。

RSだからといって特別なチューンが施されているわけではないが、ジェイドのハイブリッドモデルより約200kgも軽量なヴェゼルにこのパワーは十分以上。高速道路の合流など平地でのフル加速は実に気持ちの良いものだった。

タイヤはダンロップ「エナセーブEC503」。サイドウォールの柔軟性が低いのが乗り心地的にネガティブだが、エコタイヤのわりに性能は悪くない。タイヤはダンロップ「エナセーブEC503」。サイドウォールの柔軟性が低いのが乗り心地的にネガティブだが、エコタイヤのわりに性能は悪くない。
前述の国道352号線や新潟・群馬県境の国道17号線三国峠などの山岳路ではエンジンが常時機能するスポーツモードでパドルシフトを使ったマニュアル変速ドライブを行ってみたが、それも大変に楽しいものだった。ハイブリッドが苦手とする長い登り坂でも元のエンジンの出力が高いため、それほど動力性能の低下を来さないのも美点だった。

ただ、パワートレインの切れ味という点では初期型に比べて顕著に落ちた。これは他の改良型i-DCD車と同様の傾向である。初期型に比べて2-3速間(疑似1段として機能するモーター駆動のぶんを含むと3-4速間)の変速ピッチが広がったため、3速に入った時にエンジン回転数の落ちが大きくなり、そのぶん気持ち良さが削がれた格好だ。また、山岳路の登り急勾配区間では2速でしっかり速度を乗せてやらないと3速で失速気味になる。個人的には変則ピッチが均等でパワーバンドをキープしながら変速していく初期型のギア比のほうが断然好きであった。

燃費はSUVとしては十分経済的と呼べる水準にあった。計測を行ったのは2区間。奥只見ドライブでは712.0kmを走り、給油量35.07リットル、実測燃費20.3km/リットル(燃費計値20.6km/リットル)。都市部では186.5kmを走り、給油量は9.62リットル、実測燃費19.4km/リットル(燃費計値19.8km/リットル)。ガソリン代のことをあまり心配しないですむのは遠乗り派には有り難い特性と言えよう。

荷室は1クラス上、シートクッションは600kmドライブ級

リアシートバックを倒すと広大なカーゴスペースが。やろうと思えば車中泊も可。リアシートバックを倒すと広大なカーゴスペースが。やろうと思えば車中泊も可。
室内空間と荷室について。ヴェゼルのパッケージングは大変優れており、前席、後席、荷室の3要素のバランスが良いのが特徴。それは今回ドライブしたハイブリッドRSもまったく変わらずであった。今回、空港送迎で3~4名乗車+旅行荷物積載のフルロード走行もやってみたが、あらためて秀逸と思ったのは荷室。ヴェゼルはBセグメント相当のSUVだが、荷室は1クラス上のCセグメントの実用重視型SUVと同等のものがあった。

約400リットルの容量自体、全長4.3m級のSUVとしては相当に広いほうだが、容量そのもの以上に好印象だったのが形状。深さと奥行きのバランスが良く、空間もスクエア。長期旅行用の大型スーツケースは横積みするしかないが、1週間以内の旅行に使うような少し小さめのスーツケースであれば厚みのあるもので3つ、少し薄手のものであれば4つを並べて搭載可能。バックドア付近の両脇はトリムがボディパネルに向かって深く掘られており、大型テントやゴルフバッグなども十分積めそうであった。

リアシートはこのクラスとしてはとても広い。リアシートはこのクラスとしてはとても広い。
居住区では後席の足元空間の余裕の大きさが出色。またホンダ車の常として後席のアイポイントが前席に対してかなり高く、後席に乗っていても視界はとても良い。初期型はせっかくこのようなスペースを持ちながら、リアサスペンションからの突き上げがきついのに閉口したものだったが、後期型のこのハイブリッドRSでは突き上げ感は大幅に緩和されており、普通に長時間乗っていられるようになった。

前席はハードに体を固定するわけではないが、ゆるいなりに体の軸線のブレをうまく抑制する作りになっていた。初期型のシートはホールド性が悪く、体がブレブレだったので、嬉しい進歩だった。ドライブ中はRSのウルトラスエード+合成皮革の表皮のおかげかと思っていたが、後で初期型の写真と見比べてみたら形状そのものが変わっていた。ナイス改設計である。

ただし、シートクッションの耐圧分散の設計は緻密とは言えず、疲労感や大腿部のうっ血感は、1週間ほど前に似たルートを走ったN-ONE RSより強かった。ここが良ければヴェゼルはワントリップ1000km超のドライブにも向くクルマになっていたところだが、現状では体感的に600km級。もちろん我慢しさえすればいくらでも走れるが。

フロントシート。ホールド性は前期型に比べて大きく向上したが、座面の体圧分散設計は平凡で、少々疲れやすい。フロントシート。ホールド性は前期型に比べて大きく向上したが、座面の体圧分散設計は平凡で、少々疲れやすい。

トップランナーではないがよくしつけられた運転支援

運転支援装置は単眼カメラとミリ波レーダーで構成される「ホンダセンシング」。先行車追従クルーズコントロール、ハイ/ロービーム自動切換えヘッドランプ、ステアリング介入型の車線逸脱防止、レーンキープアシスト、各種アラートなど標準的な機能を持つが、先行車追従機能が全車速ではないなど、トップランナーというわけでもない。

性能自体はまあまあ。先行車追従は対象車両の加減速に対して少しだが過敏。もう少し滑らかな車速維持でもいいのではないかと思った。対してレーンキープアシストなどシャシー側のコントロールについてはステアリングへの介入は適切で、かつステアリングから手に伝わる違和感も少ないなど、よくしつけられていた。

ちなみにレーンキープアシストをステアリングスイッチで簡単にオン/オフできるのは、ドライブ中は結構便利。山岳路の片側一車線道路などでは、センターラインや路側帯のラインに接近するたびに警報が鳴ったり修正が入ったりするのは鬱陶しいもの。走り好きなエンジニアの多いホンダらしい仕様策定と言えよう。

まとめ~ライバルはいるか

ヴェゼル ハイブリッドRSのリアビュー。栃木の龍王峡にて。ヴェゼル ハイブリッドRSのリアビュー。栃木の龍王峡にて。
クーペライクなスタイリング、優れたパッケージングを持つ半面、発売当初はクルマの味付けは生煮え、メカニズム的にもリコール連発という、決して褒められない部分もあったヴェゼルだが、モデルライフ途中で乗り心地の悪さをはじめユーザーから不興を買っていた弱点を解消するための大改良を幾度も行ってきた結果、今では初期型とは見違えるくらい良いクルマになっていた。

そんなヴェゼルのシャシー強化版であるハイブリッドRSは、足のいいコンパクトSUVをファミリーのファーストカーとして使いたいという顧客にはよい選択になり得るだけの商品力を有していた。Bセグメントのフィットをベースとするがゆえの性能限界はあるが、少なくともオンロードにおける走りの面ではそのネガは感じられず、むしろ良い部類に属していたし、乗り心地も荒れ道でなければ悪くはない。オフロードを走らなければ走り、ユーティリティの両面でCセグメントと同じように使えるというのはお得なポイントだ。

ただ、グレード選択では最高出力172psの1.5リットルターボエンジンを搭載し、より本格的なローダウンサスペンションを装備するトップモデルの「ツーリング」と少々迷う。車両価格はハイブリッドRSはが286万2038円、ツーリングは295万6800円と、10万円も違いはない。駆動方式はどちらもFWD(前輪駆動)、パワーとコーナリングの安定性はツーリングが上、燃費と有段変速ゆえの加速の爽快感ではハイブリッドRSが上といったところ。

フロントフェイス。左右ヘッドランプとグリルを合わせてブーメラン型にデザインする「ソリッドウィングフェイス」は“目力”が弱くなるのが弱点だが、RSの場合、グリルがブラックアウトされたことでちょっと精悍さが出ている。フロントフェイス。左右ヘッドランプとグリルを合わせてブーメラン型にデザインする「ソリッドウィングフェイス」は“目力”が弱くなるのが弱点だが、RSの場合、グリルがブラックアウトされたことでちょっと精悍さが出ている。
ライバルモデルは国産コンパクトSUVが主体となる。足の良いスタイリッシュSUVという商品特性ではCセグメントのトヨタ『C-HR ハイブリッド S ”GR SPORT”』と被る。価格差は23万円ほどC-HRのほうが高いが、GRの足と強化ボディは強敵だ。半面、実用性と加速性能ではヴェゼルハイブリッドRSが圧倒する。低燃費SUVではマツダのCセグメントディーゼルSUV『CX-30 XD プロアクティブ ツーリングセレクション』もライバルに挙げられよう。速さはないが足はいいはずだ。価格はヴェゼルハイブリッドRSの14万円高。

もう1台、ヴェゼルハイブリッドRSより足は柔らかいが驚異的に懐が深いハンドリングを持つ強敵として、スバルのCセグメントクロスオーバーSUV『XV Advance』がある。荷室が狭いのと、ハイブリッドのわりには燃費がそれほど良くないのが欠点だが、パワートレインのフィールは気持ち良いし、4x4(常時4輪駆動)でヴェゼルのわずか6万円高という価格の安さも魅力だ。

本来のフィールドであるBセグメントでは、普通のヴェゼルはともかくヴェゼルハイブリッドRSとは商品特性で正面からぶつかるモデルがあまりない。ボディサイズや室内容積、燃費、価格で直接競合しそうなのは日産の新鋭コンパクトSUV『キックス』だが、走りのグレードを持たない。マツダには『CX-3』ディーゼルのスポーツパッケージがある。室内容積や荷室容量、静粛性などではヴェゼルに大差を付けられているが、クーペSUV的な独特のスペシャリティカー的な雰囲気を持っており、前席優先でいいというカスタマーにとっては比較したくなる1台と言えよう。

夕刻、新潟の小出に到達。ここから関越トンネルではなく国道17号線三国峠を越え、猿ヶ京温泉に寄り道しつつ帰った。夕刻、新潟の小出に到達。ここから関越トンネルではなく国道17号線三国峠を越え、猿ヶ京温泉に寄り道しつつ帰った。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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