【VW パサートTDI 3800km試乗】長距離ドライブ耐性に「全振り」したようだ[前編]

VW パサートTDIのフロントビュー。熊本・阿蘇カルデラの外輪山にて。どれだけ地味に作れるかにチャレンジしているかのようなルックスは、実は初代から受け継ぐパサートの伝統。
  • VW パサートTDIのフロントビュー。熊本・阿蘇カルデラの外輪山にて。どれだけ地味に作れるかにチャレンジしているかのようなルックスは、実は初代から受け継ぐパサートの伝統。
  • VW パサートTDIのリアビュー。大分・久住高原にて。フロントビューと同様きわめて地味なデザインだが空力フィニッシュが良好で、走行抵抗は驚くほど小さかった。
  • VW パサートTDIのサイドビュー。ロングキャビン、ショートノーズ&デッキを地で行く実用派フォルム。
  • 前席まわり。広さは十分で、いったんコクピットに座ると降りるのが面倒に感じられるくらい収まりがいいが、運転席右足まわりは少しタイト。
  • メータークラスタやダッシュボードなどはフォルクスワーゲンらしからぬ加飾がほどこされているが、南ドイツ・バイエルンのインゴルシュタット生まれのアウディに比べるといささかほの暗い。
  • ドアには巨大なドアポケットが備わるなど実用性は十分。インナードアハンドルにはステッチ風の型が押されている。以前のフォルクスワーゲンにはあまりなかったギミックだ。
  • ポジションメモリー付き電動パワーシート。マッサージ機能も持ち、眠気防止には大変役に立った。
  • センタークラスタ上部にはアナログ時計が。

フォルクスワーゲンの欧州Dセグメントミッドサイズ『パサート』のターボディーゼル搭載グレード「TDI」で東京~鹿児島間の3800kmほどツーリングする機会があったので、インプレッションをリポートする(※本稿はWHOによるパンデミック宣言前のテストドライブのものです)。

フォルクスワーゲンの水冷モデルのトップバッターとしてパサートの第1世代モデルが登場したのは1973年。翌年発売されたCセグメントコンパクト『ゴルフ』とともに、リアに空冷エンジンを搭載するというパッケージングに固執しすぎて経営危機に陥っていた同社を劇的復活に導いたという歴史を持つモデルだ。

2014年に欧州デビュー、翌15年に日本デビューを果たした現行の第8世代は第7世代『ゴルフ』と同様、新世代の「MQB」モジュラープラットフォームで作られている。主戦場の欧州市場ではスマッシュヒットとなり、ノンプレミアムDセグメントカテゴリーにおいて圧倒的販売首位の座にあり続けている。

試乗車は最高出力140kW(190ps)級の2リットルターボディーゼルを搭載した上級グレード「TDIハイライン」。本来はもっと早くにディーゼルモデルを追加投入する計画だったが、2015年秋に発覚したディーゼル排出ガス不正事件でスケジュールが大幅に狂い、2018年にようやく発売にこぎつけた。

車両価格は1.4リットルガソリンの同グレードに対して35万円高いが、このエンジンは本国では1.8リットルTSI(132kW)と対比されるべきユニットなので、頑張った値付けとみることもできる。

試乗ルートは東京~鹿児島周遊。往路は山陰、山陽の沿岸ルートではなく、中国山地の一般道を延々縦貫するというちょっと珍しいルートを選択してみた。帰路は山陰道。九州内でも阿蘇および九州山地を走るなど、ワインディング区間は通常より長かった。道路比率は市街路2、郊外路4、高速2、山岳路2。本州内では1名乗車、九州内では1~5名乗車。エアコン常時AUTO。

インプレッションに入る前にパサートTDIの長所と短所を5つずつ列挙してみよう。

■長所
1. 険路、悪天候下でも安心して走れる豊かなドライビングインフォメーション。
2. 好燃費と大容量燃料タンクの合わせ技による長大な航続距離。
3. 中高回転域での切れ味が良く、快音を立てるターボディーゼル。
4. 長旅向きの広大な居住空間と荷室。
5. 可動式ヘッドランプや充実した運転支援システムの性能が良い。

■短所
1. クラス平均を下回る乗り心地の滑らかさ。
2. タイヤの擦過音や低回転でのエンジン音がいささかノイジー。
3. 今どきのDセグメントセダンとしてはいささか華に欠ける内外装。
4. 変速機は7段が欲しくなる。
5. ゴルフに比べて右ハンドル化のネガが大きめ。

長距離ドライブ耐性に全振りしたような印象

兵庫の日本海沿岸にて。
では、インプレッションに入っていこう。3800km走り込んでみてのパサートTDIのトータルな印象は、クルマのリソースを長距離ドライブ耐性に必要な性能にほとんど全振りしたような、ヨーロッパ型のセダンというものだった。

気ままに長距離を走るようなドライブへの適性は、数あるノンプレミアムDセグメントのなかでも傑出した高さと言える。さすがはフォルクスワーゲンと感心させられたのは足腰。屈強なだけでなくアンダーステアの度合いが手に取るようにわかるコントロール性を有しており、ヘビーウェット、荒れた山道など厳しいコンディションでも微塵の不安を感じることもなく走ることができた。

また、可動式ヘッドランプの照射能力、配光制御が素晴らしく、照明がまったくなく、野生動物がうろつくような真夜中の山間部でもいち早く障害物を発見できたのも同格のライバルを圧倒するポイントだった。良好な燃費と容量に余裕のある燃料タンクの合わせ技で、実航続距離も非常に長かった。居住区、荷室が広く、使い出の点でもDセグメント屈指と思われた。

前席まわり。広さは十分で、いったんコクピットに座ると降りるのが面倒に感じられるくらい収まりがいいが、運転席右足まわりは少しタイト。
そんな高いツーリングカーの資質を持つ一方で、こんなところで失点するとはという残念なポイントもあった。それは乗り心地のスムーズネスである。舗装の破損や補修箇所、路盤の段差などの不整をサスペンションやマウントラバーがゆるゆると吸収するような感触がなく、安っぽい引っかかり感がつきまとうのだ。

パサートTDIのサスペンションはGTIではないか(本国でもパサートにGTIは存在しないが)と思うくらいロール剛性がしっかりしているので、その反動かとも思ったが、下位モデルの「ゴルフGTE」などはサスペンションが固くても路面の不整を油圧感たっぷりに吸収したので、ここはもっと頑張ってほしいと思った次第だった。

ドライブしたのが「パサートヴァリアントTDI」と呼ばれるステーションワゴンであったなら、こういう特性でも大して気にならなかったことだろうが、Dセグメントの4ドアセダンはアメリカ以外ではノンプレミアムであっても高級車扱いで、乗り心地の質感に対するユーザーの要求もきわめて高い。年間走行距離が少なく、市街地走行の比率が高い日本ではなおさらだ。その一点が凡庸であるがゆえに、パサートは特筆すべき美点を山のように持ちながら、いまひとつ理解されにくいクルマになってしまっているように思われた。

徹頭徹尾、安定志向

タイヤはピレリ P7。昔のP7とは異なり、エコパフォーマンスタイヤとなった。
では、細部についてみていこう。まずはシャシーの性能・特性について。パサートTDIハイラインのサスペンションは前マクファーソンストラット、後4リンク式ダブルフィッシュボーンという、パフォーマンス志向の強まっているDセグメントセダンとしては標準的なパッケージ。タイヤはエコパフォーマンスモデルのピレリ「P7」で、サイズは235/45R18とたっぷりとしたもの。1.5トン台の車両重量を支えるのには十分なスペックで、実際の走りも大変良いものだった。

それを前提として性格的な話をすると、パサートの操縦フィールは指一本ぶんのステアリング操作にクルマがリニアに反応するといったスポーツセダン的ではなく、徹頭徹尾、安定志向だった。スポーツカー的な面白みには欠ける一方、コーナーを何百、何千とクリアするような超ロングドライブにおいては相当の速度域までクルマがドライバーの意図に反した動きをせず、神経をすり減らされるようなことがないという長所のほうが圧倒的に勝っていた。

そんな穏やかな特性の源泉は、四輪のグリップの状態がつかみやすいことにあるのではないかと思われた。コーナリング中、前タイヤが切れ角に対してどのくらい斜め滑りしているのか、後輪のグリップがどう変化しているかが、意識せずとも全部ドライバーに伝わってくる。

とくに優れていたのはアンダーステアのインフォメーションで、コーナーで横Gが強まっていくのに比例してザラザラとした前輪の感触が高まり、タイヤが鳴くかなと思うのとほぼ同じタイミングでタイヤが鳴きはじめる。今、グリップ力の性能の何割くらいを使って走っているかが手に取るようにわかるのは、ロングツアラーにとっては大変重要な項目だが、この点に関してはパサートは強豪ぞろいのDセグメントの中でも出色と言えた。

メータークラスタやダッシュボードなどはフォルクスワーゲンらしからぬ加飾がほどこされているが、南ドイツ・バイエルンのインゴルシュタット生まれのアウディに比べるといささかほの暗い。

確信を持って走れるのは本当に心強い

実は今回のドライブでは、そんな特性をモロに体感するシーンがとりわけ多かった。一番は往路の中国地方。瀬戸内、山陰のいずれでもなく中国山地中核部を一般道で縦貫するルートをチョイス。岡山の津山、広島の三次など、盆地では至ってのどかな旅だが、その盆地を結ぶ東西方向の道路インフラは中国自動車道以外は貧弱で、山越えのたびに厳しいコンディションのワインディングロードが出現する。

人里離れた場所では夜になると照明がなく真っ暗闇で、鹿やイノシシ、タヌキなどの野生動物がところどころでたむろしている。クルマによっては低速走行ですら恐怖を覚えるくらいの環境である。京都北方から岡山の津山まで利用した狭隘国道、429号線はその最たるもの。その後も広島、島根、山口と、頻々と悪路に遭遇した。

そんな道でモノを言いまくったのが前述の長所である。「この先に動物がいたとしてこのくらいのスピードなら十分減速できるな」という確信を持って走れるのは本当に心強いもの。また、ステアリング操作に応じて配光が変わる可動式ヘッドランプの性能が秀逸で、暗闇でも動物などを素早く照らし出してくれた。

島根の山岳路を行く。ヘッドランプは明るいだけでなく照射範囲の広さ、照射ムラのなさ等々、満点という感じであった。さすがはロングツーリングの国の製品である。
本来、そのような隘路では大柄なクルマだと持て余す傾向があるが、パサートはドライブしにくいどころか、中国山地ステージを走っているときは乗っているのがパサートで助かったと、クルマへの感謝の気持ちがわいたほどだった。

険路以外のドライブでも、郊外路から高速道路まで至って平穏そのもので、ツーリングマイレージを重ねれば重ねるほど優位性が発揮されるという感じだった。路面の良いワインディングロードはフォルクスワーゲンが得意とする対角線ロールのチューニングが同社のCセグメント、ゴルフ以上に決まっている感じで、操縦フィールが大変自然。十分な性能のシャシーとタイヤのおかげで絶対的な速力も申し分なかった。

高速道路のクルーズも昔のフォルクスワーゲン車のような感動的な直進感は少々薄れたが、緊張を強いられるようなシーンは皆無だった。

“隠れ高級車”には届かない乗り心地

鳥取の山中にて。パサートTDIは走りの安定性はDセグメントの中でも屈指の高さであったが、速さにリソースが振られすぎな感もあった。
これで乗り心地の平滑性が良ければ、パサートはデザインは地味だが中身は秀逸という“隠れ高級車”として誰にでもおススメできたところなのだが、残念なことにその点については凡庸であった。舗装の破損で出来た小さな段差やひび割れ、キメの粗い箇所などを通過するときはゴワゴワ、ガタガタ感が強く出るのだ。

雑味は低速時だけでなく全車速域で感じられたが、とりわけネガティブに作用したのは静かさと乗り心地が強く求められる市街地走行だった。高いロール剛性の中にも滑らかさ、当たりの柔らかさが保たれた乗り味では、過去に4000kmツーリングを行ったCセグメント『ゴルフGTE』のほうがずっと優れていた。アンジュレーション(路面のうねり)やギャップの乗り越えのさいのバンピング(縦揺れ)はしっかり抑制されていただけに惜しい。

最近のフォルクスワーゲン車はタイヤの標準空気圧が高めで、パサートTDIも280MPa(約2.8kg/cm2)と、タイヤ幅が235mmもあるわりにはかなり高圧だ。一方、少人数乗車で乗り心地を重視したいときは250MPaにしろと書かれている。旅行中、両方の空気圧を試してみたが、250MPaでも乗り心地の改善は限定的で、ダンピングの効きという点では280MPaに劣るという感じであった。

装着されていたピレリP7はサイドウォールの丸みが強く、見た目には柔軟性がありそうだったが、実際には変形を抑えることを極度に重視した設計なのだろう。操縦性の素直さには後ろ髪を引かれるが、もう一歩コンフォート寄りのタイヤを試したくなるところだ。

パサートTDIは「走りの良さ」に振りすぎ?

この第8世代パサートについては未経験だが、過去に個人旅行中レンタカーで乗った歴代の欧州仕様パサートは、今回のパサートTDIよりずっと乗り心地が柔らかかった。

サスペンションの豊かなストロークを大きく使い、アンジュレーションを乗り越えるときは車体が煽られたりしながらも、ステアリングの修正をまったく必要としないまま高速道路をばく進する。路面の細かい不整から大きめのギャップまでを全部ばね下でボコボコと吸収し、乗り心地だけならベンツ『Cクラス』より良い…というのが、本来のパサートのキャラクターだった。

現行パサートの日本版はガソリン車もサスペンションが固めだったが、パサートTDIは「走りの良さ」に振りすぎなのではないかというのが正直な印象だった。

本拠地のヨーロッパ市場ではパサートはすでにビッグマイナーチェンジが行われており、日本にも遠からず導入されるであろう。後期型は日本仕様についても“ドイツ車といえばロール剛性の高いサスペンション”という日本のステレオタイプなドイツ車観におもねらず、本来のセッティングのものが送り込まれてくることを望みたくなるところだ。

VW パサートTDIのリアビュー。大分・久住高原にて。フロントビューと同様きわめて地味なデザインだが空力フィニッシュが良好で、走行抵抗は驚くほど小さかった。

《井元康一郎》

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