【ホンダ ゴールドウイングツアー 試乗】理由もなく遠くへ行きたくなる…青木タカオ

モーターサイクル 新型車
ホンダ ゴールドウイングツアー
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  • 新型ゴールドウイング開発陣。写真左、ゴールドウイングツアーの前シートに座るのが、開発責任者 中西 豊氏。
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  • 新型ゴールドウイング デザイン担当 脇田展孝氏
  • 新型ゴールドウイング開発責任者代行、中井一穂氏
  • 新型ゴールドウイング 車体担当 会田樹穂子氏
  • 新型ゴールドウイング 足まわり担当 桑原直樹氏
  • 新型ゴールドウイング 駆動系担当 横川幸生氏

発売されたばかりのホンダ『ゴールドウイングツアー』の報道試乗会が静岡県静岡市の日本平ホテルにて開催され、その乗り味を確かめると同時に開発者の声をたっぷり聞くこともできた。

◆車体の上下で、異なる表情

まずデザインを担当した脇田展孝さん(本田技術研究所二輪R&Dセンター)は「若々しく一新した」と言う。たしかに比較用に置いてある17年式(旧型)は、豪華さばかりをアピールしたスタイルで、もはやかなり古くさく見えてしまう。

それに対し、新型は洗練された印象。脇田さんは「ボディ上下で異なる機能を表現した」と教えてくれた。

「シャープでソリッドな面構成としたボディ上側は、軽快さと上質さを演出すると同時に優れた空気特性を獲得し、コンパクトな外観とともに快適性と軽快な操縦性を実現させています。そしてボディ下側はフロントサスペンションからエンジン、マフラーへとつながるメカニカルラインによってモーターサイクルらしい機能美を強調しました」(脇田さん)

「車体の幅を絞り、軽快でスタイリッシュに生まれ変わっていますが、ゴールドウイングならではの迫力や存在感を持たせるために、前後ライトのレンズは大きく幅イッパイの形状にしているのも特徴です」(脇田さん)

つまり、フットワークの良さそうな軽快なスタイルとしておきながら、フラッグシップに相応しい上質感や堂々たる迫力にはさらなる磨きをかけたということ。新しさに満ちあふれるスタイルながら「ゴールドウイング」だと誰の目にもわかるのもいい。

◆とにかく軽い!新旧の差、なんと41kg!!

試乗車として用意されたのはゴールドウイングツアーの7速DCT仕様車、つまり最上級モデル。仕事柄いろいろなオートバイに乗るが、ホンダのフラッグシップに乗るとなると特別感はハンパない。オーナーとなれば、さぞかし名誉なことだろう。

出発して、すぐに待ち受けていたのはタイトコーナーの続くクネクネ道だから少し戸惑う。1833ccもの排気量を持つ水平対向6気筒エンジンを積む大型ツアラーなのに大丈夫なのかと身構えたが、スイスイと軽快にワインディングを駆け抜けていくから思わず頬が緩む。ハンドリングは素直で、車体をズバッと深く倒し込めるのだ。

すると、ふと思う。この試乗コースは「ドッシリと乗る旧型と違って、新型はコーナーも得意なのですよ」っていうホンダ開発陣からのメッセージなのかもしれない。新型ゴールドウイング開発責任者代行の中井一穂さん(本田技術研究所二輪R&Dセンター)の言葉を思い出す。

「軽量化による操縦性の向上を感じてください。従来モデルより41kgもの軽量化を果たしています」

中井さんたち新型ゴールドウイング開発チームは、18年式(新型)『ゴールドウイングツアー』と17年式(旧モデル)『ゴールドウイング<エアバッグ>』の重さを報道陣の前で実測し、比較して見せたのだった。

まず17年式はフロント185kg、リヤ232kgとなり合計417kg、公表値のとおり。続いて、新型ゴールドウイングツアーはフロント173kg、リア203kgで合計376kgに。417kg→376kg、中井さんの言うとおり41kgもの軽量化を実現している。

◆足着き性が良いから女性も乗れる!

この軽量な車体を担当したのが、会田樹穂子さん(本田技術研究所二輪R&Dセンター)だ。

「ギュッと詰まった凝縮感のあるスタイルにするために、まず前輪とエンジンの間にある隙間を詰めたいと考えました。そのために採用したのが、新設計のダブルウィッシュボーンフロントサスペンションです」(会田さん)

「従来のテレスコピックフォークでは必要な転舵のためのクリアランスを詰めることができ、エンジンも短縮化。ライダーの乗車位置も前寄りになって、ライディングポジションがコンパクトになると同時に前輪分担荷重も増やすことができました」(会田さん)

旋回性が飛躍的に向上していて、クネクネ道でも思い通りに車体が曲がっていく。超弩級クルーザーなら難関なはずの狭い山道も楽しく走れ、あっという間にコーナリング区間が終わってしまった。

会田さんはテストライドを重ね、足着き性にもこだわった。

「従来型は足を地面に着く前に、お尻を前にずらしてから出さなければなりませんでしたが、新型はシートと車体を絞り込んで、そのまま足が出せるようにしてあります。新型ゴールドウイングは、女性にだって乗れるんです!」(会田さん)

カタログ値ではシート高を740→745mmに上げているが、身長175cmの筆者が実際に乗ると両足がカカトまでベッタリ届く。大型クルーザーでのこの足着き性の良さはとてもありがたく、大きな安心感につながる。

◆低い回転で余裕のクルージング

清水市内を抜け、高速道路に上がると、新型ゴールドウイングは水を得た魚のようにさらに活き活きと走り、快適なクルージングを味わえた。制限速度が110km/hまで上がった新東名高速に入っても、エンジン、車体すべてにおいて余裕といった感じ。電動スクリーンを上限まで上げれば、走行風はほとんど体に当たらない。

従来型ではトップギヤ5速での100km/h巡航は2800回転だったが、新型DCT仕様車ではトップ7速での100km/h走行をわずか2000回転ほどでこなしてくれる。

試乗後、高速道路が快適だったことを駆動系担当の横川幸生さん(本田技術研究所二輪R&Dセンター)に伝えると、こう教えてくれた。

「低速側は変速の衝撃を抑えて滑らかに加速するようクロスレシオ(ギヤ比を近づける)とし、高速側は逆にワイドレシオにして巡航時のエンジン回転数を抑えています」(横川さん)

「上質な乗り心地を実現するために、変速のショックや音を徹底的に減らしました。フォークシャフト両端やマスターアームに緩衝のためのダンパーラバーを追加しています」(横川さん)

疲れ知らずで、いくらでも走れると言わんばかりに高速道路を快適に走るから、このまま東京まで『ゴールドウイングツアー』で帰りたくなってしまう。振動は少ないし、フラット6エンジンは滑らかに回る。休憩なしで走りきるなど、朝メシ前だ。

高速道路の本線から出るランプウエイを急減速しつつ車体を豪快に傾けてもステアリングが振られるようなことはないし、旋回中に大きな段差を乗り越えようとも車体は何事もなかったかのように落ち着いている。足まわり担当の桑原直樹さん(本田技術研究所二輪R&Dセンター)はこう言う。

「後輪片持ち式のプロアーム形式を継承しつつ、世界初のピボット軸構造を新たに開発しました。それはスイングアーム左側だけにフレームとの締結機能を持たせ、右側はスイングアームの保持のみが目的にした構造です」(桑原さん)

「リアサスペンションは左右リンクプレートの板厚を変え、ショックユニット上下の締結部にピロボールを採用することでプロアームのねじれを解消し、乗り心地を向上させました」(桑原さん)

ダブルウィッシュボーンフロントサスペンションばかりが注目されがちだが、リアショックやスイングアーム回りの改良も目覚ましいのだ。

◆さぁ、バイクに乗って旅に出よう

帰路につく頃には雨が降り出し、路面はスリッピーな状態になるが、ライディングモードを「レイン」に切り替えれば、安心してアクセルを開けられた。トラクションコントロールの介入度が大きくなり、トルクの立ち上がりが穏やかになるエンジンマネージメントによって、濡れた道路でもスリップの心配が要らないからだ。

ライディングモードは他に「ツアー」「スポーツ」「エコノ」とあり、筆者がもっとも気に入っているのは「エコノ」だと電装担当の手塚貴志さん(本田技術研究所二輪R&Dセンター)に伝えると、「特にこだわってつくったモードです」と、声が弾んだ。

「エコノ」は“クルージング”と呼んだ方がしっくりくるもので、7速DCT仕様車なら早いタイミングでシフトを自動で上げていき、スロットルレスポンスも穏やかに。大排気量エンジンの潤沢なトルクを堪能しつつリラックスして流せる味付けで、グランドツアラーらしさが一際光る。

長い距離を走りたくなる高い快適性、ただ理由もなく遠くへ行きたくなる味わい深いエンジンフィール、そして若い人たちも退屈させないアグレシッヴさのある新型ゴールドウイング。グランドツアラー未経験の人にも、オススメしたい。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★★
足着き:★★★★★
オススメ度:★★★★★


青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

《青木タカオ》

モーターサイクルジャーナリスト 青木タカオ

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

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