【スズキ アルト 370km 試乗後編】軽さと割り切りが生んだ傑作。燃費アタック結果は…井元康一郎

試乗記 国産車
スズキ アルト 370km試乗、燃費30km/リットルに挑戦
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超軽量ボディや減速エネルギー回生機構の搭載で高い燃費性能を実現させたスズキ『アルト』。そのアルトでロングランをやれば一体どのくらいの燃費で走れるのか、東京と北関東の往復で試してみた。燃費目標は30km/リットル。トラブルに見舞われながらも瞬間燃費では50km/リットルも記録し、安泰と思われたが…。

◆30km/リットルに暗雲

渋川付近に達し、ようやく平均燃費計の数値が30km/リットルを突破したところで、今度は別の問題が発生。市街地で予想を超える混雑に捕まったため、宿泊地での約束の時間に到底間に合わない時間になってしまった。

一般道走行を諦めて渋川伊香保インターから月夜野インターまでの27.7kmを高速道路経由で行くことにしたのだが、高速に入ったとたん、急勾配の登り坂。登坂車線でトロトロ走ればエンジンの効率の悪いところを使わないですむのだろうが、究極燃費を出すためにそんなことをするのは堪え性のない筆者の性分に合わない。走行車線の流れに乗って走った結果、標高を稼いだことを差し引いてもとても勘定が合わないくらいに燃費を悪化させてしまった。

翌日、別の取材を終えて国道17号線沿線にあるダム湖、赤谷湖で記念撮影をした時点での燃費は、ワインディングロードでのドライブによるダメージも加わって26.5km/リットル。さすがにちょっぴり焦りが走る。

◆650kgの超軽量ボディがもたらすドライブフィール

ちなみに燃費以外のアルトのドライブフィールだが、まず印象的だったのは車両重量650kgという超軽量ボディがもたらす運動性能の高さ。山脈を縫って走るワインディングロードはタイトなターンが連続するというコンディションだったが、そこでのアルトの身のこなしは俊敏そのものだった。かなりきつい半径に差しかかってステアリングを切り込んでも、ほとんどロールしないままクイッと曲がるのだ。「えっ、クルマってこんなに横っ飛びするように曲がる乗り物だったっけ?」と驚くほどで、一般的なスポーティモデルともまったく異なる面白いフィーリングだ。もちろん印象はポジティブである。

快適性については、限界までコストを切り詰めなければならない軽ベーシックの限界を感じさせるもの。ロードノイズは大きめで、ハーシュネス(突き上げ)も現代のクルマとしてはきつめ。ただ、軽が苦手とする路面の荒れた山道などの悪路でもアンジュレーション(路面のうねり)によく追随するなど、大きな破綻もないのは好印象だった。

シートも車両価格の安さゆえの限界か、ウレタンのスペックはかなり低いものと推測された。ロングドライブにおいて疲れを溜め込まないためには、1時間に1回、クルマを降りて休憩するのが望ましいだろう。ただ、そのシートも悪いことばかりではない。座面やシートバックの形状は非常によく考えられて作られており、カーブの連続する山道でも思いのほか体をしっかりホールドする。

要は動力性能、ハンドリング、快適性などすべての要素において、軽ベーシックの分をこえた長距離ドライブ性能はバッサリ切り捨て、限られたリソースを短距離ドライブにおける良さに目いっぱい割いているのがアルトの個性なのだ。これは大衆車作りに徹し続けてきたスズキならではの見識と言えよう。もちろんクルマは動きさえすれば移動はいくらでもできるので、我慢すればロングドライブだって可能である。

◆燃費アタックのリザルトは…

さて、燃費アタックの続き。標高約600mの赤谷湖駐車場をスタートし、渋川の先まではひたすら下り。最新設計のクルマの例にもれず、一般道くらいの速度域でのアルトの走行抵抗はきわめて小さい。46kmにわたってほとんどガソリンを使わずディセンドできたのだが、給油後の走行距離235.6kmで平均燃費は28.5km。メーターが正しいとすると、推定消費燃料は8.26リットル。帰着予定地としている東京・葛飾までは150kmもないくらいで、総走行距離380kmで30km/リットルを達成するならあと4.4リットルしか使えない。燃費にすると残りを少なくとも32.8km/リットル以上の燃費で走らなければならない計算だ。

何とかボーダーラインを突破すべく、前橋市街の混雑を乗り越えてからは少し本格的にエコランをやってみた。バイパスでは後続車に迷惑をかけないことだけを最低条件に走行車線の流れをリードすることなく走行。行きは追い抜いていた遅いトラックが前にいても、これで大手を振って車速を落とせると喜んだくらいだ。信号からの発進加速もトラックに合わせていればエンジンの熱効率の高いところを目いっぱい使える。

走ったのが日没後だったため、往路は混んでいた国道17号バイパスや国道122号もおおむね順調で、燃費も予想より順調に回復していった。が、葛飾の国道6号線水戸街道沿いガソリンスタンドに滑り込んだ時点での表示は残念ながら29.9km/リットル。総走行距離は373.3km。あと少し信号停止なしで空走できたら30に届いたかというしきい値ぎりぎりのところで、切歯扼腕した。

が、まだ望みはある。実燃費だ。去年の早春に『ハスラー』で長距離を走った時は、3回の給油すべてで実燃費が燃費計値を上回っていた。アルトもそのパターンであればもしや・・・と、祈るような気持ちでガソリンを入れる。だからと言って満タンに手心は加えない。後ろ髪を引かれないよう、給油器のメーターは一切見ず、途中で揺すってエア抜きをしながら計測開始時と同じレベルまですり切り満タンにしてみた。さて、メーターご開帳・・・何と12.67リットル。暗算でダメだと余裕でわかる数値で涙目。実燃費のリザルトは29.46km/リットルとなった。

◆トップになってしかるべきモデル

30km/リットルアタックにはあっけなく失敗した。敗因は先に述べたものも含め、いくつもある。まずは自分に堪え性がなく、往路やワインディングでは結構踏み込んだりもしていたこと。2番目はドライブした日が最高気温38度に達する猛暑で、さすがにエアコンの負担が大きくなったこと。3番目はカーナビ、スマホ、地図のいずれも持っていなかったため、道迷いで燃費を落としたこと。せめてルートの選定が適切でありさえすれば30は行ったであろうことを思うと、反省しきりであった。

が、30km/リットルには失敗したものの、現行アルトが軽ベーシックとして想像以上に良く出来ているのにはあらためて感心させられた。燃費の良さ、山間部などの過疎地に住むカスタマーでも悪路をストレスなく走れるであろうアジリティ(俊敏性)の高さ、そして一見ド真っ直ぐながらその実ふくよかさを持つ小粋なスタイリング。スズキはフォルクスワーゲンと一旦は手を結びながらその後痴情のもつれで別居状態にあるが、アルトのキャラクターはまさにVWのAセグメントコンパクト『up!』と被る。

軽自動マーケットではバブリーなスーパーハイトワゴンが売れ線になってしまっているが、本来はこういうモデルがトップになってしかるべきだ。鹿児島の過疎地出身の筆者は、軽自動車は地方の足として絶対存続させるべしと考えているのだが、一方で軽の売れ方の現実を見ると、いびつな構造があるのも否めない事実なのだ、などという思いも頭をよぎるテストドライブだった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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