古くは2002年、世界初の“ケータイナビ”を開発し、その後も携帯電話、スマートフォン向けにナビサービスを提供し続けるナビタイムジャパン。クラウド型カーナビの草分け企業のひとつである同社は、現在でも『NAVITAIME ドライブサポーター』と『カーナビタイム』というふたつの自動車向けナビサービスを提供し、この分野をリードしている。
“ナビゲーション”を武器に急成長し、老舗となったナビタイムジャパンは、クラウド型カーナビ戦国時代にどう臨むのか。ナビタイムジャパン代表取締役社長の大西啓介氏と、同社のドライブ事業 事業責任者の森田巨樹氏に話を聞いた(以下敬称略)。
◆カーナビタイムとドライブサポーターの棲み分け
----:ナビタイムジャパンでは「ドライブサポーター」と「カーナビタイム」というふたつのナビサービスを提供しているわけですが、これらはどのように棲み分けているのですか。
大西:カーナビタイムとドライブサポーターは、容量と機能のトレードオフで棲み分けています。カーナビタイムは“ハイエンドカーナビ”として機能面で最も優れたものを用意しており、基本的な地図データもすべてアプリ内に収録している。これにより通信圏外でも基本的なナビ機能は利用できます。一方、ドライブサポーターは“エントリーモデル(アプリ)”という位置づけで、地図はすべてクラウド側にありますし、UIデザインの面でも初心者向けの内容になっています。
----:カーナビタイムとドライブサポーターのユーザー構成比率や、会員数はどのようになっていますか。
森田:詳細は公表していませんが、圧倒的にドライブサポーターの方が多いですね。カーナビタイムは容量がGB単位になっているなど、Wi-Fi環境がないとダウンロードできませんので、お使いいただいているのはハイエンドユーザー中心です。
大西:クルマに特化し、先進的な機能はカーナビタイム中心で実装しています。他方で、コンテンツ面では両者はほぼ同等という対応にしています。
◆ナビタイムの強みは「位置精度」と「地点情報」
----:カーナビタイムおよびドライブサポーターにおける、競合他社に対する優位性はどこにありますか。
森田:自車位置精度には自信を持っています。これはカーナビタイムで特に顕著なのですが、センサー情報とマップマッチングなどのチューニングを継続的に行っており、この部分では他社に負けないものになっていると自負しています。また、自車位置精度が向上したことで、例えばリルートの速度や精度なども向上しています。
----:実際にテストをしますと、トンネルを出た直後のGPS信号の再補足なども、かなり高速化された印象を受けています。
森田:そこもチューニングしています。我々は他社のカーナビアプリや車載カーナビとの比較テストを徹底的に行っており、フィールドテストに多くの時間を割くようにしています。そして、このフィールドテストをもとにチューニングを施していますので、位置測位の精度に関しては他社に負けない自信があります。
-----:『ドコモ ドライブネット』などは、外部のセンサーユニットで測位精度の向上を図っていますが、ナビタイムではそのような考えはないのですか。
森田:ありません。スマートフォンの内蔵センサーもどんどん進化していますので、そちらを活用する方向で研究開発を進めています。スマートフォン内蔵センサーとソフトウェア的なアルゴリズムで高精度化を実現していく、という考えですね。
-----:位置精度以外でナビタイムの強みはありますか。
大西:POIの鮮度ですね。今年はドライブ系のPOIを重視していまして、単純に施設情報などが充実しているだけでなく、「大型車対応の施設はどこか」といった付加価値性の高い詳細情報も増やしています。
-----:POIデータの更新頻度も高いのですか。
大西:更新頻度としては1日5回ですね。新たな情報が入れば、すぐに更新する体制を整えています。基本的な施設情報だけでなく、詳細な情報のアップデートをこまめに行っています。POI(データのメンテナンス)に関しては専属の部門がありまして、全国のタウン誌をはじめ様々な情報を集めて、日々データのアップデートを行っています。検索結果として表れる情報の質の部分には、自信を持っていますね。
森田:例えば、新規で登録する店舗情報だけでも、1ヶ月に数千件あります。これは開店情報だけでなく、お店が閉店した時などもきちんと登録している。施設情報の鮮度は、正確さでもありますので。
-----:今後の部分で注力している機能・要素などはありますか。
森田:ドライブ系のサービスは冬期の需要が減少します。そのため冬のドライブを支援するコンテンツを充実したいと考えています。積雪情報やライブビューカメラの情報などですね。
◆プローブ情報は着実に進化
----:クラウド型カーナビですと、プローブ情報を用いた高度渋滞サービスも競争領域ですが、この部分でナビタイムの現状はいかがですか。
大西:まずプローブ渋滞情報の対象道路は、2011年と比べて約4倍以上に広がっています。プローブ情報の収集量も増えていて、都内などでは、ほぼリアルタイムで渋滞情報が生成できるようになっていますね。
----:プローブ情報は渋滞予測にも用いられていますよね。
大西:ええ。それによって渋滞予測精度も上がっています。現在ですと、目的地到着予測時間の誤差は、だいたい±5分程度に収まるようになってきました。到着予測時間の正確性は、(カーナビの)使い勝手を左右する部分でもありますから、ここは力を入れています。
----:プローブ関連で今後さらに力を入れる分野などはありますか。
大西:プローブ関連の機能に関しては、ほぼ完成したと考えています。むろん収集するプローブデータの量や、渋滞予測の精度向上は今後も引き続き行いますが、その先の取り組みとしては、プローブ情報を用いた新ビジネスに注力したい。ここは先に立ち上げた交通コンサルティング事業等がひとつの例で、すでに実績が上がりはじめています。
◆ナビタイムのエンジンを多くのクルマに拡げたい
----:今後、カーナビ関連のビジネスをどのように拡大していくのでしょうか。
大西:B to Cでカーナビタイムやドライブサポーターの利用者を増やすことはもちろんですが、今後は自動車メーカー向けのビジネスを拡大していきます。すでに輸入車向けを中心に、リアルタイムコンテンツやナビゲーションエンジンそのものをOEM提供するビジネスが始まっています。また、フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン様向けには、ドライブサポーターのVW版『Volkswagen Drive App』を提供するという提携も行いました。
----:自動車市場の「本丸」に進出していく、と。
大西:もちろん、それには様々な提携の形があると思います。今後もスマートフォンでカーナビアプリを使うというニーズは増えると思いますが、一方で、車載器型のカーナビを求める市場も成長します。ここ(車載器型市場)をナビタイムとして狙っていきたい。
我々の強みは「ナビゲーションエンジン」と「コンテンツ」ですので、これを自動車市場に拡げていく。様々なメーカーと提携し、いろいろな製品の形で、我々のサービスを多くのユーザーに届けられればと考えています。