未来の首都圏鉄道網はどうなる?…「交政審」議論の現状は

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9月5日に開かれた交通政策審議会鉄道部会の第5回小委員会。「蒲蒲線」や「都心直通線」に関する意見の聴取や議論が行われた
  • 9月5日に開かれた交通政策審議会鉄道部会の第5回小委員会。「蒲蒲線」や「都心直通線」に関する意見の聴取や議論が行われた
  • JR東日本が第4回小委員会で説明した羽田空港アクセス線のルート。東京貨物ターミナル~羽田空港間などに新線(赤点線)を建設するほか、既設の車庫線(青点線)や休止貨物線(浜松町~東京貨物ターミナル)を活用する。新宿・渋谷方面(西山手ルート)と東京方面(東山手ルート)、新木場方面(臨海部ルート)から羽田空港に直通する列車を走らせる。オリンピックの開催に間に合わせるため、羽田空港新駅の手前に「暫定駅」を設けて臨海部ルートのみ暫定開業することも検討されている。
  • 京急の羽田空港国内線ターミナル駅。JR東日本の構想では、同駅とほぼ同じ位置に羽田空港アクセス線の駅を設置することが想定されている。
  • 東京貨物ターミナル駅に隣接している東京臨海高速鉄道りんかい線の車両基地。JRの構想ではりんかい線と車両基地を結ぶ車庫線の活用も盛り込まれている。
  • 東急多摩川線を走る電車。蒲蒲線は多摩川線矢口渡駅の蒲田方で分岐して地下に潜り、東急蒲田駅付近や京急蒲田駅南側を経て京急空港線の大鳥居駅まで伸びる。ただし東急と京急は軌間が異なるため、途中駅での乗換えが必要になる。
14年ぶりに首都圏の新たな鉄道網整備について議論を行っている国土交通大臣の諮問機関「交通政策審議会(交政審)」。8月に発表された都心部と羽田空港を結ぶJRの新線計画が注目を集めているが、今回の議論は「既存施設の活用」が今まで以上に重視されることになりそうだ。

現在の首都圏の鉄道網整備は、交政審の前身である運輸政策審議会(運政審)が2000年にまとめた答申「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について(運政審18号答申)」に基づいて進められている。同答申では2015年を目標年次として、同年までに開業や工事着手、また整備を検討すべき路線が盛り込まれた。

この答申はあと1年で目標年次を迎えるため、今年5月から運政審18号答申に代わる、新たな基本計画の策定に向けた議論がスタート。6月からは、鉄道事業者など関係者からのヒアリングを行う「東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会」(委員長・家田仁東京大学・政策研究大学院大学教授)が始まり、9月5日までに5回開かれた。

今回の議論で大きな焦点の一つは、2020年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックや、訪日外国人観光客の利便性向上などを念頭とした「羽田空港アクセスの改善」だ。8月に開かれた第4回の小委員会では、JR東日本が東京貨物ターミナル~羽田空港間に新線を整備し、既設の貨物線や車庫線なども活用して新宿・東京・新木場各方面から羽田空港へ直通する「羽田空港アクセス線構想」を説明した。

同構想では「整備効果」として、現在モノレール乗り継ぎで46分、京急乗り継ぎで41分かかる新宿~羽田空港間が約23分に、東京~羽田空港間はモノレール乗り継ぎで28分、京急乗り継ぎで33分のところを約18分に、新木場~羽田空港間はモノレール乗り継ぎで41分のところを約20分と大幅な時間短縮が実現することや、羽田空港アクセスの大幅な輸送力増強となることを掲げている。

9月5日に開かれた第5回小委員会では、東京都交通局と京成電鉄、京浜急行電鉄(京急)、東京急行電鉄(東急)からのヒアリングを実施。東急と京急の蒲田駅を結ぶ新空港線(蒲蒲線)構想や、押上から東京駅を経由して泉岳寺までを結び、京成~京急を直結する都心直結線(浅草線短絡新線)に関する説明や議論が行われた。

蒲蒲線は、東急多摩川線から京急空港線を結ぶ新線を建設して同一ホーム上で東急から京急に乗り換えを可能にし、東急沿線から羽田空港へのアクセスを向上させる計画。浅草線短絡新線は現在京成~京急をつないでいる都営浅草線のバイパス新線を建設し、羽田空港~成田空港間の所要時間を短縮するほか、東京駅付近に新駅を設け、都心部から両空港へのアクセスを改善する計画だ。

これらの計画は「空港アクセスの改善」と同時に、既存の路線を結んでより利便性を向上させるという点で共通している。家田委員長は取材に対し「人口が減っていく中では、既存のストックをさらに力を発揮できるように使っていくというのは大前提」と話す。

このほか、家田委員長は「いままであまり着目されていなかった、列車の遅れや運休に対するユーザーのニーズはまだまだある。また、高齢化社会の中では駅もゆとりのある空間などが必要ということもある」といい、「こういった(遅延対策や駅施設など)ことは、今までの答申では言われていない新しいところになる」と述べた。

東京を中心とした鉄道整備の基本計画は戦後、1955年に設置された運輸大臣諮問機関の都市交通審議会(都交審)、1970年に同じく運輸相の諮問機関として設置され、後に都交審の機能を引き継いだ運政審によって策定されてきた。当初は急激な経済成長に伴う鉄道の輸送力不足から、基本計画が策定されるたびに新路線が追加されていった。

しかし、1973年の石油ショック以降、経済成長の鈍化や経済構造の変化、建設費の高騰などに伴い、既存施設の活用にシフト。1985年に策定された運政審7号答申では、貨物線の旅客化という既存施設の活用策が多数盛り込まれた。

既存施設活用の流れは、運政審7号答申の次に策定された2000年の18号答申でも色濃く出ており、同答申書は「既設路線の改良等の事業」として貨物線の旅客化や折返し・追抜き線などの整備、鉄道駅の改良、列車の長編成化などを先に記し、その次に「路線の新設、複々線化等」の項目を置く構成となった。交政審による「ポスト運政審18号答申」も、既存施設の活用や改良を重視する方向性がさらに強まることが予想される。

交政審の鉄道部会は、2015年度には整備すべき新線や新駅、バリアフリーや防災・遅延対策のあるべき水準・方策を議論し、同年度内に答申を取りまとめる方針だ。どのような整備計画や対策が議論されていくか、今後の進展が注目される。
《小佐野カゲトシ@RailPlanet》

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