プレイステーション3版『頭文字D』・・・開発者に聞く

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ドライブシミュレーターではなく『頭文字D』らしさにこだわる

自動車レースはコンピューターゲームの定番の分野のひとつだ。セガの歴史にはセガラリー、デイトナUSA、アウトランなど数々の名作がある。それらと『頭文字D』には共通の遺伝子がある。ゲームとしていかにおもしろくするか、という演出の手法だ。リアルシミュレーション系のレースゲームが競作される今日、セガは独自の道を進んだ。

「リアル志向で勝負するつもりはなかった。クルマのリアリティよりも、原作の面白さをどう再現するか。そこが第一です。先に原作に忠実であること、次にクルマのクオリティです。次世代ゲーム機で頭文字Dが出ました。でも、ゲーム画面は似てなかった。それでは納得いかないでしょう。PS3の表現力を使って、しかもアーケードからのいい部分を全部引き継いだ。そういう作り方です(新井氏)」

プレーヤーが最初に気付く『頭文字D』らしさは、「溝落とし」だろう。道路端の側溝が再現されている。藤原拓海クラスのプレーヤーなら溝落としを使いこなせる。しかし、下手なプレーヤーが溝に引っかかると立て直せない。そこでプレーヤーは気付く。「公道レースの路肩は怖い」と。サーキットには路肩に緩衝地帯があって、そこへ乗り入れるにも段差が小さい。コースをはみ出しても多少のタイムロスで済む。でも峠では路肩が命取り。そうか、これが頭文字Dの世界なんだと。

「美味い人の動画を見ると神業的です。前輪だけを溝に引っかけて走るとか(藤本)」

レース中にキャラクターのつぶやきが聞こえたり、成績に応じてストーリー場面の会話の内容が変わったりする。こうした原作の演出はライバルの走りにも与えられている。新井氏はかつて「頭文字Dはレースゲームと言うよりもキャラクターゲーム」と発言したことがある。

「実は、レースゲームで1対1で走るという分野は珍しいんですよ。レースゲームって、周回コースを20台でヨーイドン、というタイプばかりじゃないですか。そういうゲームは、プレーヤー以外の19台は障害物、という認識でいい。でも、頭文字Dは1対1ですから、ライバルの性格付けをきっちりやっています。例えば、岩城清次っていうエボ4に乗ってるキャラクターがいます。彼は必ず後追いです。原作通りなんですよ。後追いのまま踏ん張ればいいのに、途中から焦って前に出ようとして失速する。そういう走りを再現しています。そうすると、原作を知ってるプレイヤーはバックミラーを見て「やっぱり後追いできたか!」と思うわけです(新井氏)」。

「ナイトキッズの中里は原作では最後の最後にミスしますが、ゲームでもコースの後半にちょっと遅くなる瞬間がある(笑)。プレイヤーが気付いてくれるかな、と思っていますが(阪本氏)」。「中里の場合は原作通りに、フロントタイヤが……と言い訳を始めるんですよ(笑)。でも、必ず言うのではなく、レースが原作と同じ展開になった場面だけで言うんです。だから原作をよく読んでいる人はニヤニヤできるし、あとで原作を読んだ人はそこで気づくんですね。そしてどちらの人も、あぁ原作と同じ世界で遊んでいたんだな、と思えるわけです。

「原作と同じ台詞はほとんど収録してありますし、それ以外の場面の台詞も、なるべく原作のキャラクターが言いそうな台詞です(藤本氏)」

確かに、最初のレベルで登場する拓海の親友、イツキは生意気だ(笑)。勝てば増長するし、負けるといじける。こうなると、すべてのキャラクターの台詞を聴いて見たくなる。それもPS3版の良さかもしれない。アーケードではどうしても自分の好きな車、好きなコースで勝ちたくなる。クルマやコースのチョイスが偏ってしまいそうだ。しかしPS3なら勝ち負けにこだわらず、いろんな遊び方を試せるだろう。もちろん、あまりにもシナリオ通りではレースゲームとして納得できない。そのあたりのチューニングは絶妙な塩加減で行われている。

「さっき記者さんがアーケード版をプレイして接戦になったとき、格闘ゲームみたいだ、とおっしゃいましたよね。その通りで、実際にはあんな(ガチンコでクルマをぶつけ合う)レースはありません。逆に言うとそこが頭文字Dの特長であり醍醐味です(藤本氏)」

原作通りと言えば、公道の再現も原作通りだ。「抜く場所が数カ所しかないんです。他の場所でペースを上げつつ、肝心な場所でどう判断するか。前にいるクルマにとってはブロッキングするか、あるいはラインを重視してさらに前へ行こうとするか。ですね。完璧にブロックしても隙が出ることもある。後ろにいるクルマはそのチャンスをちゃんと活かせるか、あるいは隙を誘えるか。その駆け引きが勝負を左右します。ストーリーモードでは会話などで演出を加えていますが、ネット対戦の人間同士のレースでも同じことが言えます」

不思議なことに、ネットワーク対戦の雰囲気も峠の緊張感に似ている。初めて一緒に走るライバルがどんな腕を持っているか解らない。この緊張感がリアルだ。しかも、対戦のマッチメイクは実力の近いプレーヤーを組み合わせるため、一方的なレース展開になりにくい。勝てないかもしれない、と思う一方で、きっと勝てるとも信じられる。まさに藤原拓海の心境になれる。

「マッチングシステムは"走り屋ランク"とPING値を判断しています。走り屋ランクは実力の近い人を選ぶため。PING値はネットワーク用語で、自分のコンピューターと相手のコンピューターの間の信号伝達速度です。この数値が低いとタイムラグが小さい。快適に遊ぶための仕様です(藤本氏)」

セガの得意な演出方法としてブーストシステムがある。アーケード版では後ろにいるクルマにはブーストがかかって、前のプレーヤーに追いつきやすくなる。セガラリーやデイトナUSAなど、セガの大ヒットレースゲームではお馴染みの手法だ。これもPS3のネットワーク対戦モードに搭載している。「ただし、PS3版は設定でオフにできます。知っている人同士でガチンコ対戦をしたい場合は切って競えますよ(藤本氏)」

「でもね。切るとおもしろくなくなっちゃうんですよ。上手い人同士が対戦すると、スタート時に右と左のどちらにいるかで勝敗が決まってしまうんです。それくらい峠は厳しい。車種による差は性能差ではなくキャラクターの差にしています。(新井氏)」

サーキットは追い越しを楽しめるように設計された道だが、公道はそんな要素は加味されない。もともと追い越しを考慮していない道でレースをする。したがって、ブーストがなければ最初に前に出た方が勝ちやすい。それを良しとすればドライビングシミュレーター系のゲームになり、エンターテイメント性は希薄になる。

「僕らとしては、レースゲームというよりも、最高の"イニシャルDごっこ"をさせてあげたいんですよ。だからどちらかがずんと前に行って、お互いにひとりぼっちで走るという展開にはしたくない。そうかといって、壁にぶつかっても縁石に乗り上げても、何となくゴールできてしまうゲームにもしたくない。イニシャル Dらしいレースができるゲームを作っているんです(阪本氏)」

縁石が怖い、側溝が怖い、インのガードレールにギリギリ近づけるヤツは"神"。そんな『頭文字D』の世界観がよくわかる。『頭文字D』の面白さは、行くぞ、と気合いを入れスイッチが入る瞬間が来る。その"集中する快感"を体験できることだ。原作のキャラクターたちと同じ気持ちだと言えるだろう。自分がゲームに入ったというか、クルマと一体になったというか。そんな状態になると、相手にどんどん近づける。あらゆる演出が自然な形でプレーヤーを真剣にさせていく。

(C)しげの秀一/講談社 (C)SEGA All manufacturers, cars, names, brands and associated imagery featured in this game are trademarks and/or copyrighted materials of their respective owners. All rights reserved.

《杉山淳一》

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