普段は目にすることのないカーオーディオのスピーカー。その振動板周辺には経年劣化しやすい材料が多く使われていて、気づかないうちに劣化してボロボロになっていることもある。
今回は、旧車オーナーならちょっと気にしてほしい、古くなったスピーカーの現状とその対処方法について調べてみた。
輸入車・日本車を問わず、いわゆる旧車、ヴィンテージカーの価格が高騰して久しい。ひと昔前までは普通の中古車の価値しかなかったクルマが知らぬ間にお宝化し、長年所有してきた愛車が価値あるコレクションになってしまったというラッキーな方も少なくないだろう。
ボディの塗装やメッキパーツの劣化、ゴム部品のひび割れなど、旧車には気にしなければならない箇所が多々あるが、ドアやダッシュボードなどのグリル裏に潜んでいるスピーカーのことは、たいてい忘れ去られている。まあ、わざわざ内張りを外して点検するのも面倒くさいし(特に欧州系の旧車は、概して今のクルマより内張りの脱着が面倒な車種が多い)、スピーカーというのは劣化が相当進行してもわりと普通に聴けてしまうから、よほどの不具合が出ない限り気づかれにくくて当然なのだ。
◆愛車のスピーカーの状態、気にしたことがありますか?
実は、そんな旧車スピーカーの異変に気づいてカーオーディオ店を訪ねるオーナーが、このところ徐々に増えているという。
今回ご紹介する2台のスペシャル・フェラーリ、『360モデナ・チャレンジ・ストラダーレ』(2004年式)と『488ピスタ』(2019年式)も、純正スピーカーの点検・交換のために取材店舗にやってきたクルマたちだ。どちらも今や大変なプレミアがつく希少車だが、装着されたスピーカーユニットのグレードは当時の中の上ぐらいの欧州純正品レベルなので、ここはあくまで「2004年式と2019年式の中古車の実例」と考えていただきたい。
今回取材に対応してくれたのは、千葉県木更津市にあるカーオーディオ専門店「フォーカル プラグ&プレイ本店<木更津アウトレット前>」。高級カーオーディオブランド「BEWITH」のメーカーであると同時に、フランス「FOCAL」のカーオーディオ製品の輸入販売元でもあるビーウィズの直営店で、フェラーリのようなスーパースポーツカーへの取り付け実績も豊富なショップである。同店ではこのような顧客に対し、劣化した純正スピーカーの撤去や新品交換・グレードアップといったソリューションを「スピーカー・レストレーション」として提供していくという。
◆走行距離400km&屋内保管でもスピーカーはボロボロ
まずは360モデナのほうから見ていこう。こちらのオーナーは「久々にオーディオの電源を入れたらスピーカーの音が歪んで聴きにくい」とのことで来店された。聞けば新車時から空調の効いた屋内で大切に保管され、走行距離はなんと400km(!)というコレクション車である。
詳しい方はご存知のように、この“チャレスト”は通常の360モデナをベースに軽量化が図られた限定車で、本来純正スピーカーが付くべきドアの内張りが、カーボン製の専用品(スピーカー穴なし)になっている。そのため純正システムにはドアスピーカーがなく、「ダッシュボード左右下部に小さなトゥイーターが2個」+「センターコンソールに前向きに装着されたウーファーとドローンコーン(ウーファーの背圧で駆動される駆動部のない振動板)がそれぞれ1個ずつ」という特殊なシステム構成。スピーカーグリルを外してみると、ウーファーもドローンコーンもウレタン製のエッジが完全に崩壊している。ウーファーのほうはかろうじて振動板が残っていたものの、ドローンコーンのほうは支えを失った振動板が外れて下に落ちてしまっていた。
グローバル化が進んだ最近のクルマではあまり見かけなくなったが、概ね80~90年代までに開発された車両(特に欧州車)の純正スピーカーには、高温多湿な日本の気候に合わない素材を使ったものが多々あり、特にウレタン系素材や接着剤がダメになりやすい。音が悪くなるだけならまだしも、劣化した樹脂素材はべたべたになって周囲に散らばり、放置しておけば貴重な内装にダメージを与える危険も。さらにこの時代はフレームも鉄製が多く、ひどいサビが出ているものもしばしば見かける。傷んだスピーカーは必要なければ取り去ってしまったほうが安心だし、オーディオの機能を残しておきたいのなら、内装は加工せず新しいスピーカーに取り替えるのが愛車のためにベストなのは言うまでもない。
◆すべての機能を完全な状態にしておきたい
こちらのクルマについては、劣化したスピーカーを更新して再び聴けるようにしたいとのオーナーの要望で、BEWITH製スピーカーの入門ラインにあたる「Lucent(ルーセント)」シリーズを純正位置に交換装着することにした。
ウーファーのほうはBEWITHユニットをフィッティングさせるためのバッフル製作が必要だったが、もちろん車両側の加工は一切行わず、施工後の外観もグリル越しにシルバーの振動板がちらりと見える以外はノーマルのままである。特殊なシステム構成からも想像される通り、もともとの音質が「とりあえず音が出る」という水準だったため、スピーカー交換だけで突然オーディオの音がよくなるわけではないが、情報装置としての機能はこれで完全復旧。刺激的なエンジン音&排気音(ノーマルのモデナとは別物)に負けない音量で聴けるようになった。実際にこのスピーカーが活躍する機会はあまりないのだろうけれど、「大切なコレクションだからすべての機能を完全な状態にしておきたい」というオーナーの思いはとても良くわかる。
◆スーパーカーなのに意外とオーディオは安っぽい
一方488ピスタは2019年式で、こちらも現在の走行距離2000kmという新車のようなコンディションである。オーナーは「乗る機会は少ないが、純正スピーカーをもう少しよいものに交換してみたい」とのことで来店された。
488の純正オーディオは、オプション設定されていた「JBLプロフェッショナル」のサウンドがスーパーカーのものとは思えないほど素晴らしいものだったのに対し、ノーマルはまるで罰ゲームのように地味で音量も小さめだったから、それをなんとかしたい(取材車はノーマル)ということのようだ。結論から言えば、両者は純正アンプの仕様や設定が根本的に違うので、スピーカー交換だけでその差を埋められるわけではないのだが、大切なコレクションをより良い状態にしておきたいというオーナー心理は理解できる。
年代が新しく保管も完璧なだけあって、取り外した488の純正スピーカーは新品のような状態だ。エッジの材質は耐久性の高い合成ゴムでフレームは樹脂成形、振動板も加水分解や割れが発生しないペーパーコーンだから、先の360モデナのような事態にはならないだろう。ただ、ご覧のように見た目は安っぽく国産大衆車と大差ない。今回はこの純正ユニットをBEWITHの中~上級ラインである「Reference」シリーズに交換していく。
「Reference」はBEWITHの車種別スピーカーキットをはじめ、プジョー/シトロエン系のディーラーオプションとして人気のある「プラチナボイス」にも採用されるシリーズで、本格的なHi-Fi設計にもかかわらず、純正スピーカーとのリプレイスにも適した鳴らしやすさと取り付けやすさを特徴とする。360モデナの時代と違って純正スピーカーの規格共通化が進んでいるため、こちらはカスタムでのバッフル製作も必要なく、ユニット位置をかさ上げするためのマルチリングを介してBEWITHユニットをきれいに取り付けることができた。
交換後の音質は交換前と比べて、音の情報量や滑らかさに明らかな違いが感じられた。こちらも並みの488ではないスペシャル限定車のため、車内で聴くエンジン音と排気音は実に刺激的。だからオーディオを楽しみながら快適なドライブを……、という感じではないのだが、オーディオの音量を上げてもヒステリックにならず余裕があるのは、やはりスピーカー側の性能的な余裕のなせる技に違いない。それから、これは360モデナにも共通することだが、純正トゥイーターとの圧倒的なクオリティの違いも聴きやすさにかなり貢献しているようだ。
◆大事なクルマだからこそスピーカーの定期点検、意識してみたい
スピーカーは保安部品ではないし、壊れていても走行には影響がないので、日ごろその状態に目を向けられることはあまりない。しかしご紹介してきたように、ちょっと古めの欧州車を中心に素材の劣化が進行している事例は多々あり、最悪のケースでは内装や周囲のパーツにダメージを及ぼしてしまう可能性も。その意味で、機能維持のための「スピーカー・レストレーション」という考え方は目からウロコである。わざわざショップへ出向かないとしても、内張りを外せる人なら次の休日あたりに自分で点検してみてはいかがだろうか。