2月にいわゆる味見で1時間ちょっと、このクルマに乗った。その時も快適な乗り心地やスムーズな走りに感動したものである。
ただ、一つ訂正がある。2月に乗った時、このクルマのメカニズムは『パサート』のそれと全く同じ云々と書いてしまったが、実は足回りは少なくともこの「eTSI エレガンス」に関しては異なっていて、伸び側と縮み側を個別にコントロールする2バルブの「DCC pro」は、このクルマに装備されていない。大きな間違いであったが、それが無いにもかかわらず、このクルマの走行フィールは素晴らしい。
いわゆる味見的に乗った後にじっくり乗ってみると(今回は1週間)、当初の印象とは異なる部分が頭をもたげて、印象がだいぶ変わるケースがあるものだが、『ティグアンeTSI』に関しては、少なくとも走りについてはそうした部分がほとんどなかった。
◆「MQB evo」による気持ちの良いドライブフィール

DCC proが装備されていないと頭に叩き込んで乗っては見たものの、やはりスムーズで気持ちの良いドライブフィールには変わりはなかった。ということは、MQB evoと呼ばれる改良されたプラットフォームが優れている証ということになる。床下を覗いてみると、排気の取り回しが独特で、マフラーは車両最後端に横置きにレイアウトされている。これはゴルフなども同じで、VW系の特徴的レイアウトだが、FWDティグアンの場合、エクゾーストパイプがサスペンションアームの中央を通っている。AWDになるとそこにはディファレンシャルがあるから、AWDのマフラーの取り回しは違うのだろうかと想像する。
唯一印象が変わった部分はブレーキフィール。2月に試乗した時にそれを感じることはできなかったのだが、このクルマ、低負荷時には2気筒で走行するいわゆる アクティブシリンダーマネジメント(ACT)が装備されるのだが、タコメーターを見ているとアクセルオフ状態ではエンジンが停止している。即ちエンジン回転がゼロとなるケースが多い。なだらかな下りでアクセルをオフにすると、実はこの状態になる。
空走しているからだろうが、当然エンジンブレーキがかからずスピードはどんどん上がる。だからブレーキを踏むことになる。同じ道をこうした機能のないクルマで走っても、ほぼブレーキを踏むケースは無いのだが、このクルマだとどうしても踏まざるを得ない。ブレーキに足を載せると、エンジンはすぐに復活する。ブレーキの踏み代を変えているわけではないのだが、時折食いつくようにぐっと減速が強まるケースがある。回生ブレーキを装備した初期の電動車にこうしたことが在りがちだったが、まさにそんなフィールが時々頭をもたげるのが気になった。
◆優秀な燃費と、気になる使い勝手

今回はおおよそ350kmほど走ってみた。一番の長距離は湯河原までの往復で、それだけで優に200km以上走った。街中だけの走行だと燃費は車載コンピューターで精々13km/リットルが良いところだが、こうしたロングランが入ると流石に向上し、最終的には15.1km/リットルを得た。同じエンジンでパワーの低い『ゴルフ・ヴァリアント』が最終的に16.6km/リットルまで伸びたが、さすがにそこまではいかなかった。しかし、WLTCモード燃費が15.6km/リットルなのだから、それに近い数値を叩きだしたことになり、これは極めて優秀な燃費と言えよう。
使い勝手の面ではいくつか気になるところがあった。まずティグアンのギアセレクターは、ステアリングコラムの右から出るレバーによって行う。レバーの先に付くコラムを右に回してD、左に回してRに入る。Pはコラムの先端に付くスイッチを押すことで操作できるのだが、どうもこれには馴染めなかった。


元来シフトレバーが装備される部分にはダイヤルが装備されて、それはオーディオのボリュームコントロールなのである。実は我が家のマイカーは、同じ部分に付くダイヤルがギア操作をするダイヤルなので、ついそこに手が行って、回してしまうことしばし。ゴルフは同じ場所に小さなレバーがあってそれがギアセレクターなのだが、同じメーカーで異なる操作系はいかがなものかとも思う。まあ、最近の自動車メーカーあるあるの現象だが。
◆そこまで沢山ある必要があるのか?
もう一つは、各コントロール系が各所にちりばめられて、同じ操作を異なる場所で出来ること。例えば前述したオーディオのボリュームコントロールは、その本来ギアセレクターが付く部分のダイヤルでもできるが、他にも大型化した15インチディスプレーの下にもタッチスイッチがあり、さらにステアリングにもボリュームコントロールが付いている。ライトもしかり。ステアリングコラム左のレバーでも操作可能だが、ダッシュボードにもタッチスイッチがあるといった具合。

とりわけエアコンはディスプレイで操作するのかと思いきや(もちろんできる)、実はディスプレイ下にもタッチスイッチがあって、温度を変えられる。ただドライバー目線からは非常に視認しずらい。同じ操作をたくさんの場所で行えるというのは、便利であることは認めるものの、そこまで沢山ある必要があるのか?という疑問もわいた。
最後に苦言の繰り返しではあるが、電動シートアジャスターはオプションである。でも、シートマッサージ機能は標準。これはなんとなく優先順位が違う気がする。特にダイヤル式のバックレストアジャスターは非常に操作しづらい。そして、もう口が酸っぱくなったが、ナビの使い勝手は何とかして欲しい点の最右翼である。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。