【ヤマハ MT-09 新型】デビュー10周年で立ち返った原点、「Torque & Agile」をカタチにしたデザインと走り

ヤマハ MT-09 新型の開発メンバー。左から電子システム担当の稲葉さん、PLの津谷さん、パワートレイン担当の川名さん
  • ヤマハ MT-09 新型の開発メンバー。左から電子システム担当の稲葉さん、PLの津谷さん、パワートレイン担当の川名さん
  • ヤマハ MT-09 新型
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  • ヤマハ MT-09 新型プロジェクトリーダーの津谷晃司さん
  • ヤマハ MT-09 新型パワートレイン担当の川名拳豊さん
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  • ヤマハ MT-09 新型の電子システム担当、稲葉明紘さん
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ヤマハの新型スポーツネイキッド『MT-09 ABS』が2024年4月17日に発売される。「東京モーターサイクルショー2024」でも注目の一台となったMT-09。マイナーチェンジでありながら、デザイン、乗り味を大きく変えた。開発者インタビュー前編では、プロジェクトリーダーの津谷晃司さんに開発コンセプトや、改良のポイントを聞いた。

後編では、パワートレイン担当の川名拳豊さん、電子システム担当の稲葉明紘さんにも加わって頂き、さらに新型の魅力を深く掘り下げる。

◆デビュー10周年で立ち返った「原点」

ヤマハ MT-09 新型ヤマハ MT-09 新型

----:前編では、モデルのコンセプトや、その実現のために施された車体各部のアップデートのことを中心に話を伺いました。後編となる今回は、デザインやエンジン周辺の作り込み、電子制御のことを教えてください。

まずデザインですが、歴代のMT-09は、いずれもヘッドライトやポジションライトがもたらす「顔」の印象が際立っていました。初代(2014年)が異形の角目、2代目(2017年)が鋭い二眼、3代目(2021)が単眼といったように印象が目まぐるしく変化。今作もまた、他の何にも似ていません。どういった狙いがあるのでしょう。

津谷:デビューから10年が経過し、今一度、このモデルの原点に立ちかえりました。当初から掲げてきた「Torque & Agile(トルク&アジャイル)」をカタチにするには、切り詰めた車体前後のオーバーハングや、フロントマスクと燃料タンクがもたらす塊感は要件として外せず、それを再度追及。ハンドリングだけでなく、造形によってもライディングの自由度を表現しています。

従来モデルのライトは、正面から見ると非常にコンパクトですが、前後長はそれなりにあります。また、ポジションライトの光をきれいに分散させるために採用していた導光棒を廃し、LEDの球をそのまま埋め込むなど、新たな印象を技術面で成立させています。

ヤマハ MT-09 新型ヤマハ MT-09 新型

----:そんなフロントマスクに次ぐ存在感が新作の燃料タンクだと思います。塊感もさることながら、これほどまでに鋭いエッジの処理は、かつて無かったものですね。

津谷:このモデルの開発と、新たな設備の導入がタイミングよく重なったおかげです。我々は高意匠成型機と呼んでいるのですが、これによって、プレスを打つ際の幅や角度に大幅な自由度が生まれました。たとえば、エッジの曲げ部分はR5(曲率半径5mm)程度まで追い込むことができ、これは従来の成型機の5分の1~6分の1といった数値を実現しました。今回、ハンドルの切れ角確保やライディングポジションの最適化、容量維持のため、燃料タンク上面を低くし、そのぶん横幅を広げていますが、こうした造形もこれまでの機械では成し得ず、ヤマハとしては初の技術です。

◆トルク感を楽しめるチューニング

ヤマハ MT-09 新型ヤマハ MT-09 新型

----:そんな燃料タンク上面に、ダクトのようなものがありますね。これは機能パーツのひとつでしょうか。

川名:アコースティック・アンプリファイヤ・グリルというサウンドチューニングのための構造です。スロットルを開けた時に発する吸気音というのは、加速感と直接リンクし、ライディング時の高揚感に大きく影響します。そのため、これまでも同様の取り組みを行っていましたが、今作では吸気ダクトの数と形状を見直し、ライダーの耳に届く音域を変更しました。低回転域では音を抑制し、高回転域になるにつれて、吸気音が大きく、クリアになるようにチューニングしています。エンジンの伸び感やトルク感をより楽しんで頂けるサウンドを実現しており、その違いは誰にでもご体感頂けると思います。

----:トルク感を楽しめるとのことですが、エンジンスペックに変更はありませんよね?

川名:数値は同じですが、トルクフルなダイレクト感を活かしつつ、低開度からでもよりスムーズにスロットルを開けていけるように各部を見直しています。

ヤマハ MT-09 新型パワートレイン担当の川名拳豊さんヤマハ MT-09 新型パワートレイン担当の川名拳豊さん

----:電子デバイスの進化はいかがでしょうか。

稲葉:YRC(ヤマハライドコントロール)セッティングに紐づく各種メニューをテコ入れしました。操作性の面では、これまで停車中しか変更できなかったメニューを、スロットルを閉じていれば、走行中でも切り替えられるようにしました。機能面では、BSR(バックスリップレギュレーター)を追加しています。

----:それはどういったものでしょうか。

稲葉:エンジンブレーキが過剰になり、リアタイヤがロックするような状態になるとトルクを調整して抑制する制御で、これによって車体の挙動を安定させることが狙いです。似た効果ではスリッパークラッチがありますが、これが機械的な制御なのに対し、BSRは電気的な制御になります。たとえば低ミュー路などで軽いロック状態になった時でも、スリッパークラッチが作動し始める前にそれを止めにいけるので、より幅広いシーンでの安定性に貢献してくれます。

ヤマハ MT-09 新型ヤマハ MT-09 新型

----:クイックシフターも進化したと聞いています。

稲葉:これまでは、スロットルを開けながらのシフトアップと、スロットルを閉じている時のシフトダウンに対応するものでしたが、今回はスロットルを閉じている時のシフトアップも、逆に開けている時のシフトダウンも許容しています。『MT-10』や『トレーサー9GT』で実績のあるシステムを、MT-09にも採用しました。

◆電子システムの進化がもたらす使い勝手のよさ

----:クルーズコントロールの標準装備や、5インチTFTメーターの採用、アプリを介したナビ機能など、快適性や利便性の向上にもかなり力が入っている印象です。電子システムの担当者としては、あれもこれもと苦労があったと推察します。

ヤマハ MT-09 新型の電子システム担当、稲葉明紘さん。こだわりの部分は「全部です!」ヤマハ MT-09 新型の電子システム担当、稲葉明紘さん。こだわりの部分は「全部です!」

稲葉:やはりコロナ禍の影響は大きかったですね。部品が入ってこない一方で、進めておかなければいけないことも多く、通常なら一段階で済む過程が何段階にも別れたりしたため、車両の状態も仕様も刻々と変化していきました。各方面の協力があって、ようやく形になったモデルが今回の新型です。

大小さまざまな改良や進化があるのですが、新作のハンドルスイッチによる操作性向上や、ハーネス類を目立たないように取り回すなど、開発過程で持ち上がった気づきを盛り込みながら改良につなげているため、使い勝手のよさを感じて頂きたいですね。

----:システムが複雑かつ高度になるということは、それを搭載するスペースや重量増との戦いでもありますね。

津谷:その通りです。結果的に、現行モデルから4kgプラス(189kg→193kg)になっていますが、ハンドリングへの影響がないよう、しっかりバランスを取っています。

ヤマハ MT-09 新型。右が欧州で発表された「SP」ヤマハ MT-09 新型。右が欧州で発表された「SP」

----:ところで、欧州ではすでに「MT-09 SP」の存在が明らかになっています。現行モデルにも設定されていた、さらなるスポーツ仕様ですが、日本への導入予定はいかがでしょうか。

津谷:時期や価格はまだ発表段階にありませんが、期待して頂ければ。

----:ありがとうございます。STDモデル、SPモデルともに試乗できる日を楽しみにしています。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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