【ヤマハ MT-09 新型】マイチェンなのに全然違うのはなぜ!? プロジェクトリーダーが語る開発のねらい

ヤマハ MT-09 新型
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  • 新型「MT-09」のプロジェクトリーダーを務めた津谷晃司さん
  • 新型「MT-09」開発メンバー。中央がプロジェクトリーダーの津谷晃司さん
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ヤマハのスポーツネイキッド『MT-09 ABS』(125万4000円)がモデルチェンジを受け、2024年4月17日に発売されることが決まった。3月22日に開幕した「東京モーターサイクルショー2024」でも注目の一台となったMT-09。今作は一体なにが変わり、どんな作り込みがなされたのか。開発エンジニアの声を交えながら、2回に渡ってお届けしよう。

前編となる今回は、プロジェクトリーダーを務めた津谷晃司さんに話を伺った。

◆「野性」と「知性」の融合を図った新型

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----:MT-09は、初代モデルが2014年にデビューしています。その後、2017年にマイナーチェンジを受け、2021年には初のフルモデルチェンジでエンジンと車体を一新。4代目に当たる今回のモデルは、そのマイナーチェンジというのが大まかな流れだと思います。とはいえ、フロントマスクを含めた外観は、まったく印象が異なり、見た目にも大幅なアップデートを感じさせますね。そもそも、どのような狙いで開発が始まったのでしょう。

津谷:モデルコンセプトは、騎馬を意味する「The Knight Horse」としました。「The Rodeo Master」を標榜する現行モデルは、荒々しい馬を手なずけるような野性味があり、歴代のMTシリーズ共通のテーマ「Torque & Agile」そのままに、力強さと俊敏さを併せ持っていました。それを洗練させ、野性と知性の融合を図ったモデルが、今回の新型です。

----:乗り味がかなり異なっているということでしょうか。

津谷:これまでのモデルは、モタード的なキャラクターが持ち味で、低速域から振り回して乗るようなイメージを押し出していました。新型でもそうした“らしさ”は活かしたまま、ただし、中高速の領域になると純粋なロードスポーツとして楽しめるよう、車体姿勢やハンドリングをアップデートしています。

◆ライポジ変更、バックステップ化、シート造形も

新型「MT-09」のプロジェクトリーダーを務めた津谷晃司さん新型「MT-09」のプロジェクトリーダーを務めた津谷晃司さん

----:具体的な内容を聞かせてください。

津谷:わかりやすい部分では、ライディングポジションの変更です。ヒップポイントを基準にすると、ハンドルバーの位置を下げ、やや前傾の度合いを強めています。とはいえ、単に下げただけでなく、ハンドルの角度を開き、なおかつ垂れ角を上げることによって、フロントに荷重がかけやすいように最適化。それに合わせて、ステップ位置を後ろに下げて上げる、いわゆるバックステップにしています。

----:ハンドルホルダーの向きとステップの固定位置を選択することによって、微調整できるのも魅力ですね。ヒップポイントに関しては、シートそのものも大きく変わり、現行の前後一体式から別体式になっています。

津谷:動きやすさという意味では、前後が境目なくつながっている一体式の方が優位に思われるかもしれません。ただし、これは一長一短で、どこにでも座れるということは、躰を支えづらいという見方もできます。先程申し上げた通り、中高速域のことを踏まえるとタンデム側をストッパーとして機能させた方が、メリットが大きいと考え、別体式によってライダーの下半身を抑えるという選択をしました。

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一方で、シート前部に関しては、現行が燃料タンクに近づくほど、せり上がっている形状なのに対し、新型はフラット。これによって、フロントに荷重をかけやすくしているのがポイントです。加えて、内股が当たる部分を片側6mmずつスリムにして、乗降性が向上。シート高自体は変わっていないのですが、足つき性のよさを体感して頂けます。自由度と安定性をバランスさせるため、ライディングポジションとシートの造形には、かなりこだわっています。

----:車体はいかがでしょう。

津谷:メインフレームやリアアーム(スイングアーム)といった主たる骨格は、現行のものを踏襲しつつ、細部を改良しています。たとえば、フレームとエンジンをつなぐブラケットの肉厚を増して剛性を上げたり、逆にヘッドパイプ周辺はステーの見直しによって剛性を少し抜いたりと、様々なチューニングを施しています。安定感を引き上げたいところ、軽快感が欲しいところを見極めつつ、かなり手を加えています。

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----:ということは、当然足まわりも異なるということですね。

津谷:はい。ストローク量などは同じですが、フロントフォーク(フルアジャスタブル)のバネレートを上げて、それに合わせて減衰特性も強める方向でリセッティング。リアサスペンション(プリロード/伸び側減衰の調整が可能)は、バネレート自体は変えていませんが、リンクの設計を変更し、トラクションの向上と旋回中の車体姿勢の最適化を図っています。

◆楽しめる範囲がより拡大したハンドリング

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----:一見しただけでは見過ごしそうですが、操作系にも手が入っているようですね。ステップは位置だけでなく、意匠が異なり、スチールのプレス材だったブレーキペダルはアルミ鍛造へ、ヒールガードと一体だったブラケットはアルミプレスの別体式へ、またシフトペダルの先端形状が丸型から楕円型になるなど、リリースではあまり深く触れられていない部分にも、こだわりが散見されます。

津谷:そういう意味では、クラッチレバーもそのひとつです。今回、アジャスター機構(全14段階)を備えたレバーを新作し、ライダーの好みや手の大きさに応じた、きめ細やかな調整が可能になっています。

----:形状や質感もさることながら、躰が触れる部分やハンドリングに影響を及ぼす部分へのこだわりは、実にヤマハらしい作り込みですね。実際に走らせた時、現行と新型で最も体感できる違いは、どういった部分でしょうか。

新型「MT-09」のプロジェクトリーダーを務めた津谷晃司さん新型「MT-09」のプロジェクトリーダーを務めた津谷晃司さん

津谷:バイクにとって、フロントへの荷重のしやすさや、その時に伝わってくる接地感はとても大切な要素です。旋回性や安定性を決める重要なファクターとも言えますが、その点、歴代のMT-09シリーズはちょっと特異な存在で、フロントを高々とリフトさせるようなアクションライディングも可能だったからこそ、熱狂的なファンがいたのも事実です。今回のモデルチェンジでは、低速域における機動性と、中高速域における安定性の両方を引き出せるハンドリングに仕上がっていますから、楽しめる範囲がより拡大しているところが新型のポイントです。

----:なるほど。後編では、エンジンや電装系、デザインについてもお聞かせください。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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