全固体リチウムイオン二次電池、普及への道筋は? 研究開発動向を探る…[関西]二次電池展 11月17日開幕

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産業技術総合研究所 エネルギー・環境領域 電池技術研究部門 総括研究主幹 小林弘典氏
  • 産業技術総合研究所 エネルギー・環境領域 電池技術研究部門 総括研究主幹 小林弘典氏
  • トヨタ自動車の全固体電池搭載車両
  • 2020年9月に開催された関西展
  • 2020年9月に開催された関西展
  • 2020年9月に開催された関西展

2021年11月17日(水)から19日(金)の3日間にわたり、インテックス大阪で第8回[関西]二次電池展(バッテリー大阪)が開催される。二次電池の研究開発、製造に必要なあらゆる技術、部品・材料、装置、二次電池が出展する、西日本最大の二次電池の専門展として業界に定着している。

大阪といえば、バッテリーベイと呼ばれ、電池の関連企業が日本で最も多く在籍している地域だ。加えて、2025年に開催が予定されている大阪万博では、「EXPO 2025グリーンビジョン」を掲げ、この万博を脱炭素社会実現を加速する機会とするべく、周辺地域を巻き込んでの様々なエネルギー技術に関する実証が検討されている。カーボンニュートラルを大阪から発信するために政府も力を入れており、多くのビジネスチャンスが期待される。

コロナ禍でビジネスの起点がオンラインによりがちな今だからこそ、リアルに人と情報が集まる貴重な場となるはずだ。本展および、本展を構成展の一つとする第9回[関西]スマートエネルギーWeekは、徹底した安全対策を実施し、予定通り開催される。(10月12日現在)

2020年9月に開催された関西展2020年9月に開催された関西展

「リアルな展示会」が目玉の二次電池展、多岐にわたる業界関係者や著名人による専門セミナーも注目を集めている。

「最新次世代電池の開発と今後の展望」をテーマに行われる特別講演で、「全固体リチウムイオン二次電池の最近の研究開発動向」と題し登壇するのは、産業技術総合研究所エネルギー・環境領域電池技術研究部門総括研究主幹の小林弘典氏だ。小林氏の専門は固体電気化学で、リチウムイオン二次電池(LIB)用正極材料の開発、車載用LIBの寿命評価技術開発、全固体LIBの開発に従事する。

電気自動車(EV)普及のカギを握る次世代電池として本命視されている全固体電池の実用化に向けて電池メーカーを始め、国内外の大手自動車メーカーや国家プロジェクトが凌ぎを削っている。小林氏は、全固体電池が既存のLIBに代わってEV用電池の主流になっていくのは2030年以降になるとみている。

全固体電池が次世代電池の本命とされる要因

小林氏自身も全固体電池への期待は大きく、次世代電池の本命とされる要因を以下のように解説する。

まずひとつめは「これまでのLIBは有機電解液を使っているため、セルに異常が生じた際に発火事故が起きる可能性があるが、全固体電池は有機電解液の代わりにセラミックスである固体電解質を使うので、発火に関しては心配しなくても良くなるという安全性に関してのメリットがある」。

2つめは「従来のLIBはクルマに載せるのに、空冷もしくは水冷するための装置や余分なスペースが必要になる。一方、全固体電池は熱に比較的強いので、そうした冷却装置を取り除くことによって、電池パックとして高い体積エネルギー密度を実現できる可能性がある」。

さらに「全固体電池は高温でも性能低下が少ないため長寿命。既存のEV用電池の保証期間は約8年だが、例えば、全固体電池が車両と同等程度の寿命を実現できると、車両を廃棄するまで電池の交換が不要になるため、ユーザーの電池コストの負担が軽減される。加えて、10分程度の超急速充電の実現の可能性もある」という。まさに良いこと尽くめだが、全固体電池の実用化に向けて現在、どのような状況にあるのか。

「車載用に関していうと、固体電解質材料の開発は一定のレベルまで達してきており、各有力メーカーでは工場で量産ラインを立ち上げるところまできている」と小林氏は語る。

液体系のLIBとは異なる課題

全固体電池は高温でも性能低下が少なく長寿命というメリットがある一方で、液体系のLIBとは異なる課題があるとも小林氏は指摘する。

具体的には「液体の場合は電解液が電極中の空隙を介して、電極活物質と容易に接触できるが、全固体の場合は電極活物質と固体電解質の固体―固体界面の接触をとる必要がある。十分な接触をとるためには電極作製時並びに積層時に従来よりも高い圧力を加える必要があるが、サイクル中に電極活物質が膨張・収縮するために固体電解質との接触が悪くなる部分が生じてくる。このサイクルに伴う固体―固体界面の接触が悪くなることが思った以上に寿命や出力特性に影響しそうなのが一番の問題」だという。

さらにコストの問題もある。「既存のLIBが今、電池パックで1kWhあたり1万数千円くらいまで下がってきている状況で、いかに性能が優れた全固体電池が開発されたとしても、価格差が大きければ導入が難しくなる。初期の導入段階では、全固体電池の価格は高くならざるをえないので、当面の間は赤字を覚悟する必要があるのでないか」とも。

だが、小林氏は「既存のLIBの材料では扱えなかった電極材料を採用するなどセルレベルでのエネルギー密度を向上させることで、LIBの性能限界を遥かに超える高性能の全固体電池が実現される」とした上で、「多くの課題はあるが、商品化に必要な要素技術は一定のレベルに達している。量産設備を立ち上げつつ、これらの課題を解決することで、実用化のタイミングを早めることができる」と強調する。

トヨタ自動車の全固体電池搭載車両トヨタ自動車の全固体電池搭載車両

全固体電池がEV用に普及していくタイミングは

では実際に全固体電池がEV用に普及していくタイミングはいつなのか。小林氏は「普及の定義をどう定めるかにもよるが、まずEV用途として出始めるのが、2025年から2030年くらいの間くらいなのではないか。すぐに、大きなシェアを獲るという感じでないのでは」とみる。

一方で、トヨタ自動車が全固体電池をハイブリッド車(HV)から搭載するという方針を示している。HVはEVと比べて電池搭載量が少ないため、ベース車に対する上乗せ価格(電池コスト)がEVに比べて大幅に抑えられるメリットがある。

小林氏は「HVであれば2020年代の半ばくらいからでも搭載していける可能性はある。EVでは、全固体電池には既に述べたようにサイクルに伴い固体―固体界面の接触が悪くなる課題があるが、HVなら電池の利用範囲を制限することによってこの課題を解決できる可能性がある」と期待する。

第8回[関西]二次電池展で講演

そう語る小林氏は、11月17日からインテックス大阪で開催される第8回[関西]二次電池展(バッテリー大阪)の2日目、18日の特別講演で「全固体リチウムイオン二次電池の最近の研究開発動向」をテーマに登壇する。講演では全固体LIBの最近の研究開発動向についてより詳しく解説するとしている。

本講演の詳細はこちら

■第8回[関西]二次電池展(バッテリー大阪)
会期:2021年11月17日(水)~19日(金)10時~17時
会場:インテックス大阪
主催:RX Japan 株式会社

※10/12現在、本展は予定通り開催いたします。最新情報は展示会HPをご確認ください

二次電池展 公式HP

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《小松哲也》

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