経済同友会が目指す日本のモビリティの未来とは…公益社団法人経済同友会 規制・制度改革委員会 委員長 間下直晃氏[インタビュー]

経済同友会が目指す日本のモビリティの未来とは…公益社団法人経済同友会 規制・制度改革委員会 委員長 間下直晃氏[インタビュー]
  • 経済同友会が目指す日本のモビリティの未来とは…公益社団法人経済同友会 規制・制度改革委員会 委員長 間下直晃氏[インタビュー]

経済同友会とは「日本経済団体連合会(経団連)」、「日本商工会議所(日商)」と並ぶ 経済三団体のひとつである。経済同友会は終戦直後の1946年に当時の新進気鋭の中堅企業人の有志83名が結集して誕生した、今年で創立74周年を迎える歴史ある団体である。

その経済同友会から昨年末に大きなニュースが届けられた。2020年4月の通常総会を経て正式に決定されることになるが、副代表幹事に、歴代最も若い間下氏(42歳)が就任すると発表があった。

間下氏は現在ブイキューブの取締役社長であると同時に、経済同友会では「規制・制度改革委員会」の委員長も務めている。74年の歴史がある経済同友会史上最年少となる間下氏の副代表幹事就任は、設立以来の伝統や特徴を踏まえつつ、「開かれた行動する政策集団」としての役割を強め、「Think Tank」として政策を考え提言する機能だけでなく、実際に政策を実現するために行動する「Do Tank」への進化を体現しているのではないだろうか。

そのような中、間下氏に日本の規制・制度面から見たモビリティ・MaaSの今後について今回話を聞いた。

間下氏は、 1月30日開催セミナー【MaaS2020】陸・海・空~ネットワーキングセミナー~に登壇する。

開かれた行動する政策集団

---:まず、経済同友会とはどのような団体ですか?

間下氏: 経済同友会は戦後間もない1946年に、当時新進気鋭だった若手経営者が立ち上げた団体です。2020年1月17日時点で、会員数は1511名になります。経団連との違いとして、経団連は企業・団体が加盟する経済団体ですが、経済同友会は経営者個人の立場で参加する団体です。そのような特性から、経済同友会に参加している経営者が個人の考え方で様々な経済・社会課題について議論し、政策提言等を行うのが特徴です。

---:昨年4月からは、SOMPOホールディングスの櫻田謙悟氏が代表幹事に就任されました。新しい体制になって変化を感じていることはありますか?

間下氏: 経済同友会の出自は若手経営者集団でしたが、今の会員を見ると平均年齢が高くなってきました。また、経団連と同様に参加する会員に大企業の経営者が多くなってきました。そこで最近では、スタートアップ企業や若手経営者を積極的に入れていこうという方向性に変わってきました。これにより、経営者の企業規模や経営者自身の出自を含めたダイバーシティができ始めてきています。

経済同友会としてはこのダイバーシティを活かした政策提言をしていきたいと考えています。開かれた行動する政策集団を目指します。この意味は、実効性の高い提言を出し、それを各経営者がそれぞれの企業で体現していくということになります。まさに、今まで以上に行動をしていく経済団体として変化していこうと考えています。

規制の壁を取り除いて新産業革命を起こす

---:間下さんが委員長を務められている「規制・制度改革委員会」とはどのような委員会なのでしょうか?

間下氏: 2017年に、Society 5.0や、第4次産業革命という、IT革命の次の産業革命についての議論が起こる中で、新産業革命を進めるにあたって、規制が邪魔をする、また、規制が無いから前に進めないという課題が浮き彫りになりました。その課題を解決していくことがこの委員会の目的です。

また、2年前に創設された「規制のサンドボックス制度」のような規制改革スキームの活用推進も課題です。この制度は参加者や期間を限定することで、既存の規制の適用を受けることなく、新しい技術やビジネスモデルを実証することができる制度です。この制度を活用することで、認定を受けた会社は実証実験が可能となり、得られたデータはその後の規制改革の推進に活用することができます。

---:「規制・制度改革委員会」では過去どのような政策提言活動を行いましたか?

間下氏: 2018年の6月15日に施行された「住宅宿泊事業法(民泊新法)」では、民泊新法ができたことで、ルールの明確化が経済活動を阻害してしまった部分もあり、そこに対して見直すよう提言しました。他には、自立型ロボットに関するルールメイキングに関する報告の取りまとめや、オンライン診療・服薬指導の規制改革を求める提言を発表してきました。今後、経済同友会としては提言するだけで終わりではなく、具体的な行動を伴う必要があると考えています。

公共交通機関と協力する「日本版ライドシェア」の実現に向けて

---:モビリティに関して経済同友会から今後どのような提案を行う予定ですか?

間下氏: 今月、モビリティ、特にライドシェアに関する提言を公表する予定です。ご承知の通り、ライドシェアは日本では政府内で話すことすらタブー視されています。経済同友会はそれで良しとするのではなく、日本に合った形でのライドシェア、すなわち日本で現実的に実装可能なライドシェアとはどのような形であるべきかなどにしっかりと向き合って提言したいと考えています。

---:ライドシェア提案というと、新経済連盟も提言を繰り返していますがそことの違いはどこにありますか?

間下氏: 新経連のように、ライドシェアを一つの新しい産業と捉えて導入すべきとの提案とは全く異なります。タクシー業界も現在様々な課題を抱えています。ドライバーの人手不足や、タクシーの供給が足りない時間帯をどう埋めるかという問題、また地方では、そもそも車両数が足りていない地域があります。そのようなタクシーが抱えている交通課題に対してライドシェアをうまく活用して解決できないかと考えています。経済同友会ではタクシー会社が主導する形でのライドシェアを検討しています。

---:現在国交省とタクシー業界も、事前確定運賃制度の実装や、今年前半にはタクシーの相乗りを可能とする通達を出すなど、改革・改善案を打ち出していますが、そういった政府・業界のイニシアチブを推し進める提言になるということでしょうか?

間下氏: はい。今回の提言では、タクシー会社と社会がそれぞれ抱えている課題に対する現実的な解決策を提示しています。日本の制度にそぐわないライドシェア提言を行っても実現にはつながりません。現実的に一歩前に進めるための提言を行います。これによって、タクシー会社にとっては新しい収益源につながり、タクシー不足で困っている地域の課題解決にもつながります。海外のライドシェアが抱えている、低賃金や過当競争という問題を起こさない、日本版のライドシェアの実現を目指します。

日本の二次交通課題について

---:間下さんは今の日本の交通課題の現状についてはどう見ていますか?

間下氏: そもそも、地方と都市部では交通に関するニーズが根本的に異なります。先程も述べた通り、地方では人手不足がまずあり、タクシー運転手を本業とする方が減ってきています。しかし、タクシーに対する需要は、インバウンドの増加や高齢化社会、それに関連して運転免許証の自主返納が進むことで、今後ますます増えてきます。都市部でも二次交通が足りていない場所はあります。

---:現在の日本におけるタクシー配車アプリの状況についてはどう思われますか?

間下氏: インバウンドの移動手段を見ても、現状の日本の配車アプリだけだと厳しいと見ています。外国人が日常的に使用しているアプリがまだまだ日本では使えない。Uberもハイヤーやタクシーで使える地域はありますがまだ限定的です。

JapanTaxiは韓国のカカオタクシーや、東南アジアのGrabとの提携を行っていますので、そういった地域からの観光客にとっては使い勝手がよくなると思いますが、それもタクシーの供給不足に対する根本的な解決にはつながっていません。JapanTaxiと海外事業者の提携により、インバウンドの利用客が増えることで、今でもつかまりづらい状況にあるタクシーがもっとつかまらなくなります。

しかしドライバーを簡単に増やすことはできません。このように需要が供給を超える時には、正規雇用のドライバーではなく、パートタイムのドライバーを活用することで、あふれた需要を吸収できるのではないかと考えています。

---:現状のタクシーで追いつかない需要の部分をライドシェアでカバーするということですか?

間下氏: はい。そういったピーク時に時間帯を限定することで、本業のタクシー事業者とのコンフリクトは避けます。パートタイムのドライバーにはあくまでも副業としてやっていただくため、Uberのような正規雇用に準拠した低賃金の問題も未然に防くことができます。

地方ではタクシーとタクシー運転手の双方が足りていません。タクシーを呼んでもなかなか来ない地域や夜中に一台も走っていない地域もあります。インバウンド観光客の目的地はどんどんディープな地域に向かっています。

例えば、先日、私は野沢温泉に行ったのですが、周りに日本人観光客はいませんでした。このように、インバウンド観光客はどんどん日本のディープな場所に向かっています。そうなるとそういった場所にはタクシーがいないため、結果白タクのようなものに頼るようになります。それ以外の手段がないためです。このミスマッチをどう解決していくかが重要です。

ディスラプトは解決策ではない

---:経済同友会が提案する日本版ライドシェアは業界との協調が前提ということですね。

間下氏: はい。業界の理解を得ながら進めます。経済同友会の提案に賛成いただいているタクシー会社も既にあります。この提言はタクシー会社の仕事を奪うものではなく、タクシー会社と一緒になって社会課題・経営課題を解決するための提言です。

既存の業界をディスラプトすることが新産業革命の全てではありません。むしろ、規制業種ではディスラプトできることは少ないと考えています。経済同友会が考える「日本版ライドシェア」は世界で導入されているライドシェアとは異なる方向性です。

間下氏が見るMaaSとは

---:経済同友会は今後の日本のMaaS・モビリティのあり方をどう見ていますか?

間下氏: 経済同友会としての見解はまだ取りまとめられていないため、個人の意見を申し上げたいと思いますが、MaaSが提供する価値とはなんでしょうか?

ユーザー側からすると交通空白地域の交通課題の解決を含む、利便性の向上という観点があります。経営側からすると、経営効率をどう向上するか、エコノミクスをどう回すかという観点があります。日本ではそれぞれの公共交通機関のレベルは高い。その高いレベルのものをどうオープンにして、横で連携していけるかが課題だと考えています。オープンな方向性を保ちつつ、イノベーションをどう生み出していけるかが重要です。

---:おっしゃるように日本の公共交通機関のレベルは他と比べても高いという特徴があります。

間下氏: レベルの高さに加えて、公共交通機関が日本ほど普及している国は他にあまりありません。日本には新しいサービスをつくる土壌はあるのですが、スピードが遅すぎるので、そこを国・地方公共団体がどのようにリードできるのかが鍵です。日本の公共交通機関は正確性が非常に高いのも特徴です。レベルの高い日本の公共交通が今後どうなっていくか、個人的にも非常に楽しみにしています。

ただ、MaaSが機能するには、公共交通機関がしっかりと整備されている必要があります。そうなると、最後はドライバーや車が足りない問題が出てきますので、その解決のためにも「日本版ライドシェア」は必要だと考えています。ただし、その実現にはしっかりとした安全・安心対策が必要です。そういった観点からも、交通系の会社がしっかりと安全・安心を担保した上で、ライドシェアを可能とする、利便性と安全・安心を両立した仕組みを作らなければいけません。

自動車の価値が変わっていく中で自動車業界はどのようにして生き残りを図るべきか

---:ありがとうございます。最後に、変革を迎えている時代を支えている自動車業界の方へのアドバイスなどありますか?

間下氏: 既に起こっていることですが、自動車の存在意義がどんどん変わってきています。そして今後ももっと変わっていきます。趣味としてのクルマ。所有することに喜びをもつ文化を残している国はアジアなどにまだありますが、先進国ではそのような価値は無くなっていきます。

そうすると、自動車の中の空間をどう考えていくかが重要になります。既に車内空間の活用に取り組まれているメーカーも出てきていますが、まさにその方向性だと思います。自動車がどんどん家電化していく中で、移動できる空間をどう活用できるかを考え、会社としても投資していく必要があると思います。

日本の最後の砦だった自動車産業が砦ではなくなります。自動車が家電化、コモディティ化する未来では自動車産業の縮小は避けられません。ただし、東南アジア諸国などまだ自動車の持つポテンシャルが高いマーケットもあります。このように、自動車を持ちたい人は海外にはまだ多くいます。シンガポールでも自動車の販売価格は日本の2~3倍するにも関わらず、欲しい人は多くいます。こういった市場をしっかりと取りに行くことも生き残るためには重要です。

---:クルマを移動手段ではなく、移動する空間と捉えるということですね。

間下氏: はい。クルマを足が生えている空間と考えると色々と面白いアイデアは出てくると思います。日本はこの領域で世界に先駆けて取り組める可能性は十分にあります。日本は自動車産業としては成熟したマーケットです。一方、世界ではまだ成熟していないマーケットも多いです。つまり、自家用車が欲しい人たちが多くいるということです。

クルマという空間は、その空間の価値はもちろん、人や物も運べます。今必要なのは、クルマを再定義していくことだと思います。移動や所有の価値は無くなったとしても、空間は無くなりません。

自社ではテレキューブという個室ブースのサービスを提供していますが、プライベート空間に対するニーズは非常に高いです。クルマがこのプライベート空間を代用するケースもあります。例えば、会議室代わりに車を駐車場に止めて使う用途も既にあります。クルマが空間の価値を再定義する、そういった時代を今迎えています。この領域にはこれからも日本企業が活躍できる可能性はまだまだあると思います。

間下氏が登壇する 1月30日開催セミナー【MaaS2020】陸・海・空~ネットワーキングセミナー~はこちら。

《安永修章》

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