MaaSは“課題オリエンテッド”で…東日本旅客鉄道株式会社 技術イノベーション推進本部 MaaS事業推進部門 次長 鷲谷敦子氏[インタビュー]

MaaSは“課題オリエンテッド”で…東日本旅客鉄道株式会社 技術イノベーション推進本部 MaaS事業推進部門 次長 鷲谷敦子氏[インタビュー]
  • MaaSは“課題オリエンテッド”で…東日本旅客鉄道株式会社 技術イノベーション推進本部 MaaS事業推進部門 次長 鷲谷敦子氏[インタビュー]

国内外の事例を見るとMaaSの移動手段の中で鉄道が果たす役割は大きい。日本においてはJR各社の動きを必ず押さえる必要がある。中でも東日本旅客鉄道(JR東日本)は特に気になる。なぜJR東日本がMaaSに取組むようになったのか。

9月30日開催「JR東日本、西日本、四国のMaaS戦略」セミナーはこちら

自動運転の脅威

2016年9月のパリモーターショーでIoT、ビックデータ、AI時代を背景に自動車業界のこれからを象徴するワード “コネクト(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェア&サービス(Shared & Services)、電動化(Electric)の頭文字をとった「CASE (ケース)」” が飛び出した。

「自動車メーカーは自動車を作るって売るだけではなく、あらゆるサービスを提供しようとしている。"自動運転"になると自動車と公共交通がなくなってしまうかもしれない。この変化に対してJR東日本はどう動けばよいのか」という問いが"MaaS"に取組むきっかけだ。

この脅威に対応するため、JR東日本は技術革新中長期ビジョンを2016年11月に策定することになり、そこで参考になったのが2015年10月のフランスボルドーで行われたITS世界会議でフィンランドから提案されたMaaSの考え方だ。技術革新中長期ビジョンに盛り込まれたのが、解決が難しい社会課題や次代の公共交通について、交通事業者と各種の国内外企業、大学・研究機関などがつながりイノベーションを創出する"モビリティ変革コンソーシアム"で、JR東日本のMaaSアプリ「Ringo Pass(リンゴパス)」もそこから生まれた。

MaaSは駅を離れた後の連携に
お客さま視点で

JR東日本は総合生活サービス事業を駅を拠点に展開してきたが、今後は駅を離れた後の連携を強化する。そこでは駅からの移動手段や目的地をつなぐMaaSなどのツールが必須となる。またお客さま視点や豊かな生活や社会の実現を考えると1社では完結できないため、他社との“連携”が非常に大切だと考えている。

同社はこの考え方に基づきMaaSについて数多くの連携を試みてきた。これまで取組んでみての気づきについてJR東日本技術イノベーション推進本部MaaS事業推進部門次長の鷲谷敦子氏に聞いた。

9月30日開催「JR東日本、西日本、四国のMaaS戦略」セミナーはこちら

世界に誇る日本らしい連携も数多い

---;これまで数多くのMaaSに関する連携を進めてこられましたが、1年間取組まれてみての気づきは?

鷲谷氏;やってみて思うことは、ヨーロッパと日本では前提条件が違うということです。

“多様なサービスの連携”が重要である点は変わりません。しかし日本で公共交通を支えている多くは民間企業ですから、施策を進めるためには、 何を目指すのか、それによりお客さまに、そして自社にどんな利点があるのかといった点が明確になって初めて連携が可能になる、ということを感じました。

またよく考えてみると、特に都市部では、100%ではないものの民間鉄道会社各社は相互乗り入れや交通系ICカードなどで連携してきました。定期券や●●フリーパスといった、いわばサブスクリプションと言ってもいい商品もあります。それらを支えているのは先ほど申し上げたとおり各民間企業で、各社工夫を凝らして安全性向上やサービス改善に努め、複雑な都市の交通を担ってきました。

そういう意味では、ヨーロッパの事例を参考にしつつも、日本の特徴を踏まえて丁寧に進めていくことが大切なのではないかと感じています。

---;世界に誇る日本らしい民間鉄道同士の取組みがニーズに基づき事業ベースで改善が積み重ねられていますね。

MaaSはお客さまのため、地域のための施策

またMaaSは、お客さまのため、地域のための施策であることを忘れないようにしたいと思います。地域で困っていることに耳を傾けて課題解決を考える“課題オリエンテッド”で取組まなければ、残念ながら意味のないものになってしまうおそれがあります。MaaSはこうあるべき論から入ると絵に描いた餅になってしまう。

---;MaaSが注目キーワードになっているため「MaaSをするためにはどうしたらよいか」といったMaaSに取組むことが目的化したり、自動運転レベルと同じでMaaSレベルの高低や遅れている・いないの議論になりがちですね。

わかりやすいので「MaaS」という言葉を使いますけれど、要は「今、どんなサービスがあり、どんな課題があって、どう解決すればみんなが喜ぶのか」を考えてサービスを模索すること、“地域の思いを尊重”してどう寄り添っていくのか、が大切なのではないでしょうか。

日本らしいMaaSを考えたい

これからMaaSアプリがたくさん登場し、一種乱立のような形になるかもしれません。それを心配する方もおられるようですが、特定のエリア内で動く方にはそのエリアに詳しいMaaSアプリだけあればいいし、一方日本全国を飛び歩く方には1つのアプリが全国をカバーしているものの方がいい。つまり、お客さまによって、またその時の状況によって求めるものは異なりますから、いろいろなアプリがあることは決してマイナスではないのではないでしょうか。ただそれらがつながっていると便利だ、というのは事実でしょうから、アプリ同士の連携がカギになると考えます。このように「緩やかな集約の進展」が、日本においては自然である気がしています。

MaaSをきっかけに原点に返る

振り返ってみると、JR各社は「民間の知恵と工夫でエリアの実情に合った鉄道サービスを健全に提供していく」ことを目的として誕生しました。ですから私たちは、未来を見据えてエリアを元気にしていく、というミッションを背負っています。個人的には、MaaSに取組むことで、改めて原点に返る機会を得たと感じています。

9月30日開催「JR東日本、西日本、四国のMaaS戦略」セミナーはこちら

《楠田悦子》

編集部おすすめのニュース

特集