【ボルボ V60 D4 3500km試乗 後編】「プレミアムD」に求められるプラスアルファの価値…井元康一郎

試乗記 輸入車
京北の蕎麦屋・京蕪庵にてボルボV60 D4 R-DESIGNと
  • 京北の蕎麦屋・京蕪庵にてボルボV60 D4 R-DESIGNと
  • 東京・増上寺近くのボルボ・カー・ジャパンにて。鹿児島に向けて出発。
  • 夜の国道1号線にて。インテリジェントライティングシステムが先行車を除けて照射しているのがわかる。
  • 国道477号丹波高地を駆ける。道は悪かったがアンジュレーション、ギャップ、低ミューなど路面を選ばず好パフォーマンスであった。
  • 国道477号線経由で京北に抜けた先で見かけた蕎麦屋「京蕪庵」で十割そばを食す。汁をつけなくとも甘みが口に広がる素晴らしい味だった。寄り道は一般道ツーリングの楽しみである。
  • 国道9号線鳥取砂丘の先、因幡の白兎伝説の残る小島が見えてきた。
  • 【ボルボ V60 D4 3500km試乗 後編】「プレミアムD」に求められるプラスアルファの価値…井元康一郎
  • 山陰自動車道琴浦パーキングエリアにて。

8月、新世代ターボディーゼル「D4」を搭載したボルボのミドルクラスステーションワゴン『V60 D4 R-DESIGN』で東京~鹿児島間を概ね市街地および郊外道7割、高速2割、山岳路1割という比率で3500kmドライブした。前編では主にパワートレインのエネルギー効率やパフォーマンスについてリポートした。後編では走り味、ツーリング感についてお伝えしたい。

V60 R-DESIGNはシリーズの中でも走りに振ったグレードという位置づけで、ロール剛性を高めているぶん乗り心地は固い。7月、セダンバージョンの『S60 D4 R-DESIGN』を短時間試乗した時はそのあまりの固さに驚き、一般向けではないとファーストインプレッションで記したほどだ。

今回のドライブではその印象は少なからず変わった。試乗車はスタート時、3300kmあまりの積算走行距離だったが、新車時に比べると乗り心地は明らかに丸みが出ており、おや? と思った。さらにマイレージを5000km、6000km・・・と伸ばすにつれ、体の慣れを差し引いても乗り心地は改善傾向にあった。ドライブを終えた時点でもまだハーシュネスの強さは残っていたが、1万kmないし2万km走行時にはさらに良くなるかもしれない。走行性能が良ければ多少の固さは気にしないというカスタマーであれば、避ける理由はないのではないかと思われた。

R-DESIGNはノーマルと異なり、高応答性を特徴とする「ド・カルボン式」と呼ばれる高圧ガス封入単筒型ショックアブゾーバーが使用されている。最近は新品時から滑らかな動きのものが多くなったが、美味しい動きを長期間維持させるには製造時にきつめに組んで走行段階でアタリを取るほうがいいというのが同形式の特徴でもある。若い頃、トヨタのAE86『スプリンタートレノ』にカヤバのド・カルボンダンパーを組んでいた筆者としては、「そういえば慣らし後に印象が激変したんだったな」などと懐かしさを覚えた次第だった。

◆V60 R-DESIGNを日本で楽しむ最高のステージとは

では本題のロングツーリングについて。東京~鹿児島の距離は瀬戸内回りで1400km台、山陰回りで1500km少々。“狭い日本、そんなに急いでどこへ行く”という言葉があるが、国土が細長いぶん面積のわりにマイレージは積み重なりやすい。広大な国土のアメリカでも1500kmといえば、サンフランシスコを出てネヴァダ州、最高速トライの名所ソフトフラッツのあるユタ州を越え、人口密度2人/km2台という過疎と大自然の州であるワイオミング州中部まで到達してしまうほどだ。

クルマの良し悪しのモノサシは価値観によってさまざまだが、今回のように片道1000km超の長距離ドライブの場合、チョイ乗りとは求めるものが自ずと違ってくる。重要項目はクルマの動きへの信頼感の高さ、運転することに飽きさせないドライブフィール、そして疲労の少なさだ。

V60 R-DESIGNは、それらツーリング好きの要求をきわめて高いレベルで満たすクルマであった。中でも特筆すべきは、クルマの動きへの信頼感の高さ。東京を出発後、静岡から愛知にまたがる長大なバイパス群や伊勢湾岸道をクルーズしているときはそもそもドラマなど起こりようもないのだが、その時点で結構いいのではないかという予感はあった。その感覚がどこから来るものなのかがある程度ハッキリしたのは、滋賀・草津で泊を取った後、丹波高地を経て山陰に向かう国道477号を走行したときだった。

R477は初めて通る道だったが、いざ行ってみると勾配はきつく、道幅は狭く、路面は舗装の破損やアンジュレーション(不整なうねり)だらけの険路。ツーリングマニアが使うスラングで言うところの“酷道”だった。ルート序盤では全幅1865mmという大柄なボディが邪魔になるのではないか、ルート選択を誤ったな~などと思ったのだが、通過後の印象はそれとは真逆で、そういう道こそV60 R-DESIGNを日本で楽しむのに最高のステージだと確信した。

◆まさにツアラーにうってつけの性格

標準装着のタイヤはミシュランのグランドツーリング用タイヤ「パイロットスポーツ3」。絶対的なグリップ力が十分に高いだけでなく、滑り出しが穏やかで、不整路面にもしなやかに張り付くという名品だ。R-DESIGNの足はそのPS3のアビリティをを目いっぱい引き出す絶妙なチューニングだった。ロール剛性自体は非常に高く取られているのだが、ロールの初期からフルロールまで引っかかりをほとんど感じさせない滑らかな動きで、変な突っ張りが皆無。結構深くロールしてるかなと思いはじめるところがタイヤの能力の7割くらいに設定されており、ある程度ペースを上げても無理をしない範囲を容易に見極められる。

険路で感心させられたもうひとつのポイントは、アンジュレーションや砂浮き、湧水によるウェットなどの路面変化に非常に強いということだった。R477は道が細く、路面が悪いのだが、制限速度は60km/hだ。きつい回り込みのコーナーに高速で進入したときに路上の大きな突起を踏んでも、ロールした外側のサスペンションがそこからさらに滑らかにストロークし、車体の姿勢が乱れない。まさにド・カルボンダンパーの面目躍如という感があった。

スムーズなロール特性は素直で正確なハンドリングを生む。結果、1865mmのワイドボディであるにもかかわらず、見通しの良いS字などでは狭い道幅の中でライン取りの選択ができてしまうほどで、その信頼感は抜群であった。ここで言う信頼感とは、動力性能やコーナリング性能に比例するものではなく、クルマの動きが自分の手の内にあると感じられることから生じるもの。高性能な高級車でも口ほどにもないというクルマも少なくないなかで、V60 R-DESIGNは道を選ばぬ走行性能への信頼感という点で最高峰に位置するBMW3シリーズ M Sportと比べても一歩も譲らないものがあった。

R477のような険路を含め、凹凸の激しいダートは別にして、地図上に表示されるどんな道路もひるむことなく通れるというのは、心を自由にする。熊本から鹿児島に向かうときも、八代が近づいたときに平家落人の里五家荘や旧五木村などの秘境スポットが散在する険路、国道445号の表示を見かけたときも、興味本位で迷うことなくそちらに鼻先を向けたくらいだ。まさにツアラーにうってつけの性格であった。

◆自然風景によく溶け込むボルボ

もう1点、素晴らしかったのは疲労の少なさだ。疲労度合いは単にシートが良い、揺れが少ない、車内が静かといった項目だけでは決まらない。パラメーターが膨大なため説明は難しいのだが、これまでの長距離運転の経験を踏まえてあえて一言で表現すれば、些細な違和感の蓄積が疲労につながる。疲労防止の性能が本当に良いかどうかは、実際に連続走行してみないとわからない。

鳥取砂丘を過ぎ、いかにも立秋頃の山陰らしい紫を帯びた夕刻の残照に染まった境港の水木しげるロードを訪ねた後、島根・出雲大社の先の大田付近を走行していたとき、道路案内板の「下関240km」の文字が目に飛び込んだ。「ええっ、このあたりまで来れば下関までそう遠くはないと思っていたのに240km??日本の広さをナメてたわ(笑)深夜には関門トンネルを通過して福岡の二日市まで到達するつもりだったのに」と思い、懸命に先を急いだ。

国道9号益田~津和野~山口の長大なワインディング区間を過ぎて下関の一歩手前、セメントの町として知られる山口・小野田のコンビニに立ち寄ったときには、連続走行時間は5時間をゆうに超えていた。長時間運転の疲れを実感するのはクルマを降りるときだ。水泳でプールや海から上がった時と同じで、運転中は大して疲れていないように思っていても、クルマを降りたときに体がずっしりと重く感じる。その重さの度合いがクルマのおおよその疲労耐性を教えてくれるのだ。果たしてV60 R-DESIGNから降りたときのずっしり感は、さまざまなDセグメントのライバルの中でも極小レベルで、小休止の後にすぐドライブを続ける気にさせられたほどだった。

熊本の菊池温泉で渓谷沿いの露天風呂を気持ちよくいただいた後、先に述べた九州山地を縦貫する秘境国道445号線を通過した。菊池では38度という炎暑だったのだが、標高1100mの二本杉峠では湿度100%でなければ100mごとに1度気温が下がるという気象上の計算とほぼ一致する28度。スライディングルーフを開けて走ると、エアコンいらずの気持ち良さだった。峠には昔はなかった茶店ができており、作りたての地鶏の串焼き(これが極上レベルの美味さ)やヤマメ定食などを食べられるようになっていた。今回は時間が遅めだったのでチャンスを逸したが、九州山地は純粋なヤマメが豊富に生息するエリアだけに、立ち寄る機会がある人にはぜひヤマメ料理を味わっていただきたいところである。

二本杉峠からは延々、五木の子守唄で知られる五木村へと降下するワインディング。その途中、平家落人の里五家荘に立ち寄る。紅葉の時季などごく一時期を除けば、観光客もまばらな閑静な山間で、道も改良が進んでいるところもあるが、悪いところは本当に悪い。そこで感じたのは、ボルボのデザインは自然風景によく溶け込むということだった。

筆者の知人でスウェーデンのお隣ノルウェー人が以前、「スカンジナヴィアは都市を出ると果てしなく荒々しい自然が広がる場所で、そこに人工的なものを置くのを好まないという気質がある。北欧調とよく言われるが、明確なデザインメソッドがあるわけではない。基盤があるとすれば、自然の中で人工物を目立たせたくないというスピリットだ」と言っていたのを思い出した。ボルボは押しの強いデザインだった『740』の時代も、ボディカラーは何故かアイボリーやブルーグレーといった保護色のようなものが多かったが、それも景観の中に溶け込ませるためだったのかな、などと思われた。

◆プラスアルファの価値を提供できている「プレミアムD」

東京~鹿児島の往復+鹿児島県内の移動で計3500km、年間1万kmを走るカスタマーの4か月分に相当する距離を乗ってみて最も印象に残ったのは、ドライビングに夢中にさせるファントゥドライブ性の高さだった。もともと今回の長距離ドライブの車種セレクトは、ボルボとデンソーが共同開発したという新鋭ディーゼルがどの程度のものか試してみようという動機だった。エンジンはパワフルで、とくにスポーツモードに入れたときの動力性能はプレミアムセグメントのカスタマーのわがままな加速要求にも存分に応えるものだと思われたのだが、そのパワートレインより、またボルボが伝統的に売りにしている安全性能より、シャシー性能の高さ(これもゼロ次安全のファクターではあるが)のほうがインパクトははるかに上であった。

もちろん安全装備がたくさんついているのは安心感を高めるのに一役買っているのと同時に、面白みも提供する。夜間走行中、自動ハイビームが装備されていることに気づいて作動させてみたら、先行車両や対向車をよけて配光されるのが見えて「Dセグなのにインテリジェントライティングなのか!かっこいい」などと、ちょっと萌えたりした。

ネガティブファクターとして挙げられるのは、小規模メーカーの大らかさに起因するのか、質感でつまらない取りこぼしが見られたこと。たとえば運転中、どこからかビビり音が聞こえてきて、どの部分がビリついているんだろうと内装材を探った結果、助手席側シートベルトの金具がリリースされているときの位置が悪くて音を立てていたり。ちょっとストッパーの位置を変えれば鳴らないのだから、プレミアムセグメントを名乗るのであれば几帳面に作ってほしいところだ。

機構面では前編でも指摘したことだが、スタートストップ(アイドルストップ機構)が気温30度を超えると作動しないというのも、夏に猛暑となることが多い日本では弱点になる。北国生まれとはいえ冷却性能自体に問題は見られなかったので、せめて35度に作動範囲を広げていただきたい。そうすれば堅牢な機械というイメージがもっと上がるだろう。

クルマ本体以外の部分で弱点だったのはカーナビ。渋滞を考慮して経路誘導するダイナミックルートガイダンスのためのデータを情報が正確でなく使えないインフラと化している国道交通省のVICSに頼っているため、動かないくらいの渋滞にむざむざと捕まるシーンが何度もあった。また、それを割り引いても経路誘導自体の組み立ても良くない。いっそホンダのインターナビやGoogleMapと提携したほうが顧客満足度が上がるのではないかと思ったりも。

が、気になったところはこのくらいで、後の細かい部分はまあ気にしなければいいやと思う程度のものだった。運転に熱中させられるというV60 R-DESIGNのテイストは、冒険ドライブ好きなカスタマーにとって圧倒的にポジティブなものに感じられるのではないか。ロングツーリングパフォーマンスの高さは絶対性能の高さやセグメントやプレミアム、ノンプレミアムといった区分けとはあまり一致しないもので、高級車よりむしろスズキ『スイフト』、ホンダ『グレイス』、フォード『フィエスタ』、ルノー『カングー』等々、大衆車クラスに面白みのあるものが多い。それらの良心的な仕立てを超えるプラスアルファの価値を提供できているプレミアムDとして、V60 R-DESIGNはBMW『320d M Sport』と並び称される存在であると感じられた。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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