【プジョー 208 GTi 460km試乗】現代ならではのスポーティカー、かくあるべし…井元康一郎

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プジョー 208GTi 30thアニバーサリーエディション
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フランスの自動車メーカー、プジョーが往年の名ホットハッチ『205GTi』誕生30周年を記念してリリースしたスペシャルモデル、『208GTi 30thアニバーサリーエディション』で460kmほどドライブする機会を得た。

208GTiは、2012年にEU市場に投入された『208』の高性能バージョン。1.6リットル直噴ターボエンジンは、最新版では208ps/300Nmに引き上げられ、パフォーマンスが向上した。アニバーサリーエディションは、車高10mmダウンのハードサスペンション、伊ブレンボ社の対向4ピストンブレーキキャリパー、トルセンLSDなどでシャーシを徹底的にチューニング。その味付け役はサーキットレースやラリー競技などで勇名を馳せるプジョー・スポールであるという。

アニバーサリーエディションは日本においては6速MT、左ハンドルのみの設定であったが、欧州ではアニバーサリーエディションに準じた仕様の「208GTi by Peugeot Sport」がリリースされていることから、カスタマーの要望次第では今後、イギリス仕様と同じ右ハンドルが登場する可能性もある。高性能コンパクトスポーツの性能競争が激化している欧州ではライバルも多いが、パフォーマンス面では今年、ルノーが欧州でリリースした『クリオ(日本名ルーテシア) R.S. 220トロフィー』が同じフランス生まれということもあって一番の好敵手と言えそうだ。

◆ルーテシアR.S.に対する優位性は

ドライブルートは往路が東京・葛飾を出発して東京外環~関越自動車道を経由して渋川伊香保ICを下り、吾妻川沿いの長野原方面から軽井沢に至り、帰路が軽井沢から上信越自動車道、関越高速、東京外環を経由して出発地に戻るというもの。コンディションはウェット、常時2名乗車、エアコンON。

まずはプジョースポールの手が入ったという注目のシャシー性能。スポーティカーというと日本ではガチガチに固められた足というイメージが強く、また実際にそういう味付けのモデルが少なくないが、アニバーサリーエディションのサスペンションはロール剛性は極端に高められているわけではなく、しなやかに動く。ステアリング操作に対するボディの動きも過敏ではなく、きわめて素直であった。

乗り心地が滑らかなのも大きな特徴。スプリングレートが高められているため、大きなうねりや段差ではボディの上下動が出るのは避けられないが、車体の揺動を一発でふわりと受け止めるようなチューニングがなされており、不快感は最小限度に抑えられている。路面のざらつき感のカットは、205/40ZR18サイズのスポーツタイヤを履いているにもかかわらず、驚くほど良好だった。日本で直接競合すると思われるルーテシアR.S.のハードサスペンション版「シャシーカップ」仕様と比べると、乗り心地ではあらゆる局面でアニバーサリーエディションのほうが優越していた。

コーナリング性能は日本の公道では両者、優劣が到底つかないほど高い性能を有しているが、荒れた路面でのサスペンションの追従性ではアニバーサリーエディションのほうが優れていた。それに対してロール中の車両の姿勢のつかみやすさはルーテシアR.S.のほうが上。ルーテシアが複合コーナーでステアリングの切り足し、切り戻しを行っても、Gの変化にきっちり正比例するようにロール角が変わるのが伝わってきて安心感が高いのに対して、アニバーサリーエディションはデジタルライク。これはサスペンションセッティングの巧拙というより、シートやステアリングからのインフォメーションの伝わり方といった味付けの影響が大きいのではないかと思われた。

◆「萌え」要素はギアボックスにあり

次にパワートレイン。Maxで208ps/300Nmを発生するエンジンは、1200kgのボディをスポーツカーライクに走らせるには申し分のない性能を有していた。特徴的なのは1000rpm前半あたりのかなり低い回転域から、スロットル操作に対して俊敏かつリニアにブーストが立ち上がること。トップギアである6速に入れっぱなしで少々きつい勾配に差し掛かっても、スロットルを踏み込むだけで大排気量エンジンのようにぐいっと車体を加速させることができた。

エンジンサウンドは厳格化する欧州の騒音規制への対応のためか、過剰なくらいに静か。よく耳を澄ますと「ゴオォォ・・・」といういかにも爆圧の高そうなサウンドであることがわかるのだが、絶対的な音量が小さいため、全開加速時でもアドレナリンを分泌させるような要素は薄い。このあたりはアニバーサリーの起源である205GTiの勇ましいサウンドを知っているファンには少々寂しく感じられるかもしれない。

が、萌え要素は実はちゃんとある。それは6速手動ギアボックスの音で、1速、2速、3速・・・とシフトアップすると、ラリーやツーリングカーレースの車両の変速機を彷彿とさせる“ギュイィィ!ウィィィィ!シュイィィ!…”という感じのギアのうなり音がエンジン音に乗ってくる。そういえばデュアルクラッチ変速機のルーテシアR.S.もスポーツモードやレースモードでシフトチェンジすると“パン!パン!”というブリッピング音を立てていた。公道でスポーティカーに乗るカスタマーが何に萌えるのかということを開発陣が熟考している証左で、その手の演出は日本メーカーも大いに見習うべしと思われるポイントだった。

◆高速~ワインディング性能を試す

さて、そのアニバーサリーエディション、燃料を満タンにした後にまず試したのは、距離にして140kmほどの高速クルーズ。前述のように通常の208GTiに対してさらに引き締められた脚を持っているが、乗り心地が悪くないため、クルーズ感はなかなか良好だ。日本の速度レンジでは追い越しを含めた加減速はすべて6速に入れっぱなしでもすぐさま終わらせることができる。6速・100km/h巡航時のエンジン回転数はおよそ2300rpm。

高速でポジティブに感じられたもうひとつのポイントは直進性の良さ。エッジが切り立つようなショルダー部を持つ205/40ZR18サイズのスポーツタイヤを履くため、老朽路面のわだちなどではステアリングが取られるような動きが出るのではないかと思ったが、実際には路面が少々悪いところでも修正をほとんど必要としなかった。また、往路の前半は本降りの雨でヘビーウェットのコンディションだったが、水溜りを踏んでも姿勢の乱れはほとんどなく、安心感は高い。

高速を降りた後は、将来はダム湖に沈んでしまう運命にある紅葉の一大名所、吾妻渓谷沿いを走り、長野原の先から軽井沢へ向かう。浅間山麓までの区間は登坂車線を伴う急勾配だが、高負荷領域で生きたのは、やはりエンジンの柔軟性の高さ。最大トルク300Nmの発生回転数は3000rpmだが、1400rpm以上であれば急勾配でもスロットルを踏み込むだけでずいっと加速する。5速固定のずぼら運転も可能なほどで、GTiの看板どおり、グランドツーリング的なドライブにとても適していると感じられた。

鬼押ハイウェイ入口から旧軽井沢へのショートカットルート、白糸ハイランドウェイは、有料道路であることを忘れさせられるくらいに路面大荒れのワインディングロード。ここは本来、208GTiのようなコンパクトスポーツが最も本領を発揮できるところで、アニバーサリーエディションもギャップやうねりでも接地性を失わないサスペンションを生かしたパワードライブが可能である。が、難点は左ハンドルということ。すれ違い側でなく路肩側に運転席があると、左側通行では右コーナーの見越しはいいのだが、左コーナーは常にブラインドコーナーとなるため、右ハンドルに比べると緊張を強いられる局面が多く、楽しさ、気持ち良さがスポイルされてしまう。英国仕様のアニバーサリーエディションは右ハンドルだったようで、日本仕様も右にしてほしかったところだ。

ワインディングや下り急勾配で素晴らしかったのは、ブレンボ社製4ポッドキャリパーと大径ディスクを組み合わせたフロントブレーキがもたらすストッピングパワー。1200kgの車重には過剰とも思えるスペックで、ブレーキングフォースは強大かつコントローラブル。峠道を軽く流す程度では温度でタッチが変わるようなことはまったくない。パフォーマンス的にはクローズドコースでこそ真価を発揮するのだろうが、普通にブレーキをかけるだけでも剛性感、精度感が伝わってきて、ハイパフォーマンスカーに乗っているという実感を持てるのは、オーナーにとっては嬉しいポイントだろう。

◆燃費性能も犠牲にしない、現代のスポーティモデル

現代のスポーティモデルらしく、省エネルギー性もなかなか良好だった。460kmを走り終えた結果、満タン法で15.6km/リットル。これは5月、1700kmを走ったルーテシアR.S.の実測値と奇しくも同じであった。どちらもエコランを意識せず、いろいろ試しながら走っての数値で、200ps級のパフォーマンスを考えると悪くない。

もっとも、エンジンの個性は両者、結構異なっていた。瞬間燃費計の挙動を見ていると、空いた地方道を低負荷で走っているときの平均的な燃料消費率はプジョーのほうが断然優れていた。ちょっとエコランを意識すれば20km/リットル超えもたやすいことだろう。それに対して高負荷域を多用したパワードライブ時の燃費の落ち込みはルノーのほうが明確に小さかった。両者とも日本ではハイオク仕様ということで、燃料代がレギュラー仕様に比べると数パーセント高いが、燃料代でスポーティカーの所有を諦めるには及ばずというレベルは十分クリアしていると言えそうだった。

総じて、プジョー208GTi 30thアニバーサリーエディションは、欧州メーカーのレース部門が手を入れたコンプリートモデルに乗ってみたいというカスタマーにとっては十分以上に満足のいくモデルに仕上がっているように思われた。いっぽう、いにしえの205GTiのような荒々しさは微塵もないので、ノスタルジーを求めるカスタマーは素直に昔のモデルをレストアしたほうが満足度は高そうだ。

日本には欧州のステルビオ峠やヌーフェネン峠のように存分に腕試しできる制限速度90~100km/hの峻険なワインディングロードがあるわけではないので、性能を持て余してしまいがちになることは想像に難くない。が、それでも紀伊や南信濃、九州山地など、ワインディングロードが何十kmも続くようなエリアでは、ハンドリングの良いクルマのほうが運転が圧倒的に楽なので、まったく無意味というわけでもない。アニバーサリーエディションはすでに完売しているが、すでに欧州ではプジョースポール版がカタログに加わっており、右ハンドルモデルが日本に導入されたあかつきにはスポーツカーファンにとって狙い目モデルのひとつになるのではないか。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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