焼いてもらったピザの箱は膝の上、食料品の入ったエコバッグは足元の隙間にどうにか詰め込んで…。そんな過酷な状態でもスーパーからの帰り道に助手席に座ってもいいという、理解のある家族がいるなら、『S660』の実用性は決して0%ではない。
試乗に前後して『コペン』の取材があったが、やはりトランクスペースだけでなく室内スペースでも優位なのはアチラ。S660は体格により、ドライバーズシート背後に手持ちのブリーフケースすら置けない。実は助手席背面にシートバックポケットがあるが、助手席は生涯、最後端にしておかれそうだから、事実上、使われないのでは?
乗り降りも、サイドシルとインパネ端の隙間が小さく、足さばきにコツが要る。レーシングカーのドライバー交替のように、降りる際はシートを後端までスライドさせてからのほうが少しは楽だ。
楽といえば、実測値7.1kgの“ロールトップ”もコツをつかむと脱着がやりやすい。“脱”はロックレバーを外せばよいし、“着”は、ベッドのマットレスにボックスシーツをかける要領で左右から引っ張って(1人で作業なら片側ずつでよい)ピンを固定させれば、あとはレバーでパチッ!とロックをかけるだけだ。
リアルワールドで走らせて、このクルマのファンな走行性能も再認識した。クルマに身体が馴染んでくると、本当にクルマと一体になって山道もヒラヒラと気持ちよく走れる。「α」グレードの本革/ラックススエード表皮のシートは、サイズも十分で、ワインディングでも的確に身体を保持してくれた。
6速MT車で山道も思いのままに走っての燃費は19.0km/リットルだった(JC08モード燃費は21.2km/リットル)。燃料タンク容量は25リットルだから、足の長さを度外視すれば、気後れせず満タンにできる。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。 便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。