開発者の顔が見える日本車と久しぶりに出会った。『S660』の開発メンバーはひとりひとりの個性的な風貌もさることながら、とにかくメンバー同士の仲がいいことに驚かされる。いや、仲がいいというだけでなく、お互いが深く結び付き、信頼し合っている。だからこそ、長い時間をかけてクルマのコンセプトを練り上げ、個々の開発領域の壁を乗り越えて「いままでにないマイクロスポーツカーを作ろう」という目標に向けて一致団結できた。これが、S660を成功作へと導く最大の理由になったと思う。そのコンセプトとは、「若者にも手に届きやすく、維持しやすいコストとすること」、「軽自動車という枠にとらわれない最高の走りを実現すること」、「上級者にしかできない高速コーナリングだけでなく、日常的なちょっとしたシーンでもスポーツカーの魅力を味わえること」、の3点に集約できる。今回試乗したのはS660のプロトタイプで、会場は袖ヶ浦フォレストレースウェイ。ただし「プロト」といっても実態は生産車とほとんど変わらないスペックのようだ。最初に驚かされるのは、オープンスポーツとは思えないボディ剛性の高さ。おかげで安心感と高級感がバツグンに高い。ちなみに捻り剛性は1999年にデビューした兄貴分の『S2000』を凌ぐという。これが走りと快適性の基盤となっていることは間違いない。ステアリングのフィーリングは取り付け剛性含めて良好。くわえて初期の操舵ゲインを高めに設定しているせいか、ちょい乗りでハンドルを少し切るだけでも俊敏なコーナリングを味わえる。それでいながら高速コーナーでは4輪がしなやかに路面と接地したまま、安定したコーナリングが楽しめるのだ。秀逸なのは、コーナリングの進入、中ほど、出口のそれぞれで、ドライバーの意識が前輪、四輪、そして最後は後輪と徐々に後ろにシフトしていくこと。つまり、S660はコーナーの各ステージで必要な情報をドライバーに的確に伝えることができるのだ。だからこそ、ドライバーは自信を持ってクルマの限界を引き出すことができる。この乗り手とクルマの間の信頼関係は、スポーツカーという乗り物にとって極めて重要なものだと思う。おかげで試乗中は存分に限界走行ができたが、タイヤのグリップレベルが高いため、大きくスライドさせながら走ることはできない。その点を開発者に問いただすと「メーカーとしてはまず安全性を確保するのが使命。あとは個々のオーナーの判断に任せたい」との主旨の答えが返ってきた。なるほど、それはメーカーとして当然の姿勢だ。あとは、腕の立つドライバーは勝手にグリップレベルの低いタイヤに履き替えて、自己責任の範疇で思いっきり振り回すドライビングをすればいい。基本性能が極めて高いS660であれば、そんなドライバーの期待にも難なく応えてくれることだろう。■5つ星評価パッケージング:★★★★インテリア/居住性:★★★パワーソース:★★★★フットワーク:★★★★★オススメ度:★★★★★大谷達也|自動車ライター元電気系エンジニアという経歴を持つせいか、最近は次世代エコカーとスーパースポーツカーという両極端なクルマを取材することが多い。いっぽうで「正確な知識に基づき、難しい話を平易な言葉で説明する」が執筆活動のテーマでもある。以前はCAR GRAPHIC編集部に20年間勤務し、副編集長を務めた。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本モータースポーツ記者会会長。
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