【ホンダ ヴェゼルハイブリッド 1700km 試乗後編】優位性を感じられる走りの素性と、一体感に欠ける乗り心地…井元康一郎

試乗記 国産車
ホンダ ヴェゼルハイブリッド 1700km 試乗
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ホンダのコンパクトSUV『ヴェゼルハイブリッド』を1700kmにわたってテストドライブする機会があったのでリポートする。

◆クロスオーバーSUVの優位性が感じられる走り

最低地上高に余裕のあるクロスオーバーSUVという成り立ちのヴェゼルは、路面が荒れ気味の山岳路など、ちょっとした冒険心を味わえるドライブにはぴったりのクルマであった。試乗車はFWDモデルで、泥濘路や雪道などグリップがことさら失われやすい路面には強くはないのであろうが、テストドライブで走った荒れた舗装路、グラベル路(砂利道)などでは常に十分な駆動力を発揮した。

ゴールデンウィークの試乗時には山岳路もドライブしたが、荒れた道では普通の乗用車に対してプラス4cmという最低地上高の余裕は非常にありがたいものだ。走行ルートの中に、群馬県の御巣鷹山登山道へのアクセスロードがあったのだが、その時期は雪解けから間もないこともあって、路面は落石や折れた木の枝などが散乱している状態。もちろん大きな岩を乗り越えたりすることはできないが、乗用車なら上をまたぐのをためらってしまうくらいのサイズの落石があってもクロスオーバーSUVなら平気で通過できる。これはヴェゼルに限った特性ではないが、コンパクトクラスのクロスオーバーSUVの選択肢がまだ少ない現状では、アドバンテージと見ることができるだろう。

ハンドリングも重心の高いSUVとしては良好な部類に入る。サスペンションは比較的ハードなのだが、コーナー手前でブレーキを踏んだときのフロントの沈み込みはわりと素直。タイトコーナーが連続するワインディング区間でも前傾姿勢を使って鼻先をインに向かせることで、リズミカルに駆け抜けることができる。

◆クルマとドライバーの一体感に欠ける乗り心地

こうした美点を持つ半面で、欠点も少なからずある。最大のネガティブファクターは乗り心地の悪さだ。ハーシュネス(突き上げ)の吸収は劣悪で、道路の突起を踏むたびにガチンガチンという衝撃が直接的に伝わってくる。アンジュレーション(道路のうねり)に遭遇したときも上下に強く揺すられるなど、SUVらしい大船に乗ったような余裕は正直、まったく感じられない。

ヴェゼルのショックアブゾーバーはザックス製の「振幅感応ダンパー」というスペックの高いものがおごられているという。ホイールの上下幅が小さいときには柔らかく、ロールのような大きな振れ幅のときには固いという2つの特性を持たせることでスポーティな乗り味と良好な乗り心地を両立させるというのが謳い文句だったが、この種の非線形特性を持つショックアブゾーバーはチューニングの煮詰めが甘いと良さを発揮できない。こと、試乗したZグレードの乗り味はまるでテストコースで走り味を煮詰める前のプロトタイプのような悪さだった。

クルマのインフォメーションの伝わり方も良くない。たとえばワインディングロードでは、これくらいの半径のコーナーなら横Gはどのくらいかかり、ロール角はこのくらいか、といった予測をしながら運転するものだが、その予測と体感されるクルマの動きが常にズレている印象。ドライビングプレジャーの中核要素である、クルマとドライバーの一体感は著しく低いと言わざるを得ない。

乗り心地の悪さとインフォメーションの伝わり方のまずさが相まって、群馬~長野間の十石峠、八ヶ岳近くの麦草峠など、いくつもの峠越えを行ったゴールデンウィークの試乗時は、腰痛を発症してしまったほど。たかが1000km程度のドライブで腰痛になったのは初体験だった。この乗り味の悪さは現在も解消していない。ホンダのある有力ディーラーの幹部は「ヴェゼルとオデッセイは固い、柔らかい以前にしなやかさがない。それでかなりのお客様を逃した」とこぼしていた。本田技術研究所のエンジニアは独りよがりのチューニングをするのではなく、本当にいいものとは何かということを良く考えて(頭で勝手にイメージするのではなく)クルマの走りを仕上げるようにすべきだろう。

◆ライバルの登場で競争は激化

1回目の試乗では山岳路を多く含む1100km、2回目の試乗では栃木、茨城の比較的平坦なエリアを主体に600km走ったが、良路では乗り心地が破綻を来たしにくいため、後者のようなドライビングパターンの多いカスタマーがセダンや普通のハッチバックとは違うクルマを所有したいという場合、ヴェゼルは悪くない選択だ。車内は大人4人がゆとりをもって着座した状態でなお『フィット』と比べてはるかに広大な荷室が確保されているので、レジャーユースにも向く。

半面、ダートを含む林道や山岳路で遊ぶことの多いカスタマーにとっては、最低地上高に余裕がありながら、乗り心地が相当に悪化するため、ストレスの多いドライブを強いられることになる。ただ、ホンダのエンジニアもさすがに乗り心地軽視については少なからず反省せざるを得ない状況になっているという話も聞くので、今後、大幅な改良が施される可能性もある。そうなれば一転、ライトなオフロードユーザーにも進められるクルマになる素養は十分に持ち合わせている。

マーケットにおいては、これまでは直接的なライバルが少ないことにも助けられ、販売は結構好調なヴェゼル。カスタマーにとって今後気になるのは、マツダが2014年にリリースするとみられる『CX-3』の動向だろう。

CX-3はボディサイズや価格など、クラス的にヴェゼルとモロかぶりのモデルになる見通しで、パワートレインもハイブリッドはないがクリーンディーゼルを搭載する予定。ほか、トヨタもおいおい小型のクロスオーバーSUVを登場させる計画を持つなど、このジャンルもタフな販売競争が繰り広げられる公算が大だ。そのなかでホンダがヴェゼルをどのように熟成させ、商品としての魅力を強化していくか、興味深いところだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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