【ダイハツ タントカスタム 800km 試乗】“欠点のなさ”が光るスーパーハイトワゴンの定番…井元康一郎

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タントカスタムのフロントビュー。先代と比べてもかなりボクシーな印象。
  • タントカスタムのフロントビュー。先代と比べてもかなりボクシーな印象。
  • タントカスタムのリアビュー。バックドア開口部の広さが見て取れる。
  • イカツイ印象のフロントマスク。
  • 風景を楽しめるワイドウインドウ。
  • インテリアは細部までよくデザインされている。
  • リアシートを最後端と最前端にスライドさせてみた。
  • カーゴスペース最大時。小さめのキャリアバッグだとスペースが余るほどだ。
  • 御前崎灯台にて。

新車販売の4割にまで比率が上昇した軽自動車。その軽自動車の中でも販売台数でトップをひた走るのは、ダイハツのスーパーハイトワゴン『タント』。昨年10月にデビューした第3世代モデルとなる現行タントを長距離試乗したのでリポートする。

◆カタログ燃費はカテゴリートップレベルの26km/リットル

試乗車はワル系にデコレーションされた「カスタムRS」。搭載エンジンは排気量658ccの3気筒ターボで、スペックは最高出力64ps、最大トルク9.4kgm。車両重量は960kgと、軽自動車としてはかなりの重量級だが、JC08モード燃費は50kg軽量なスズキ『スペーシアカスタム』のターボモデルと同じ26km/リットルを確保。ホンダ『N-BOXカスタム』ターボの23.4km/リットル、日産自動車『デイズ ルークス』/三菱自動車『eKスペース』の22.2km/リットルに対しては明確なアドバンテージを持つ。また試乗車には衝突軽減ブレーキや先行車発進お知らせ機能などを盛り込んだ安全装備「スマートアシスト」が実装されていた。

東京・葛飾を出発し、首都高速、横浜新道、西湘バイパス、箱根新道を越えて静岡に入り、バイパスを利用しつつ御前崎灯台、中部電力浜岡原子力発電所を訪問。その後、袋井から岡崎まで東名高速を走り、三河安城に到達。帰路は西湘バイパス、首都高のみ有料道路を使い、葛飾に帰着するというルートで、総走行距離は814.9km。うち高速・有料道路は4分の1強の218.7kmだが、一般道も流れの速いバイパスが過半を占め、高速ツーリングに近い状況だった。1名乗車で、エアコンは暖房に加え、降雨時にデフロスターを適宜使用した。

◆高速道路に乗って印象が激変、箱根のワインディングも苦にせず

まずは市街地における走行感から。タントカスタムはスタイリングこそ派手派手しいが、足回りのセッティングはノーマルタントのターボモデルと同じとのことだが、実際に走ってみたところ、思ったより固いというのが率直な感想だった。

不快な乗り味ではないのだが、舗装の荒れたところや道路の継ぎ目を通過した時など、その衝撃を素直に室内に伝えてくる。また、路面からの騒音、エンジン透過音もそれほど小さいというわけではない。スーパーハイトワゴンは操縦安定性を確保するためにサスペンションのロール剛性を高めにセッティングする必要があるのだが、もう少ししなやかさがあれば快適性は格段に高まるのにと、少々惜しく感じられた。

また、試乗車固有の問題である可能性もあるが、今日のクルマとしては、舗装が荒れ気味の場所を通過したときのドアトリムなどからのきしみ音が少し多めなのも惜しいポイント。別に立て付けが悪いというわけではなく、この種の音を黙らせるのは簡単なことなので、質感向上のために対策を施したほうがいいのではないかと思われた。

このように、市街地では可もなく不可もなくという印象だったのだが、高速道路や地方道のクルーズではそのイメージが激変する。とくに80~100km/hの巡航は、タントが最も生き生きとするシーンである。タントを開発したエンジニアによれば、新型は箱型ボディであるにもかかわらず空気抵抗係数を背の低いハッチバックモデルと同等に抑制したとのこと。実際に高いスピードで走ってみても風切り音はライバルに比べて明らかに小さめ。アクセルをゆるめた時の失速度合いが小さいことから、車両のエネルギーロスを減らす設計が徹底されていることがうかがえた。100km/h巡航時のエンジン回転数は2700rpmほどであった。

郊外走行時の操縦性の良さ、快適性の高さもタントの特色のひとつだ。首都高速や東名高速では市街地走行時のゴロゴロした感触は消え、四輪がしっとりと路面に張り付くようなクルーズ感。直進性も良好だった。また、箱根峠近辺のワインディングロードでの身のこなしも良かった。結構タイトなコーナーでも適度にロールを許しつつ、外側の車輪がしっかりと荷重を受け止めて綺麗に回り込むことができ、常識的な速度で走る限りにおいては高重心モデルながら不安を覚えるような動きはほとんど見せなかった。タントといえばママが子供をお迎えに行ったりするクルマというイメージが染み付いていたが、新型タントはむしろツーリング向きに仕上がっていると言える。

◆リアシート使用時の積載性でトールワゴン系に差を付ける

次にユーティリティ。軽自動車のなかでもスーパーハイトワゴンは室内の有効容積が大きいことから人気を博しているが、新型タントは単に広いばかりでなく、居住感の点でも非常に優れていた。1人ドライブであったため走行中のリアシートの居住性チェックはできなかったが、静止時に座ってみた限りではリアシートのヒップポイントが低すぎず、広いウインドウとあいまって十分にパノラミックな視界を楽しむことができそうだった。膝元空間はスーパーハイトワゴンの常としてだだっ広く、シートスライドを最前方に設定してもCセグメントのセダンと同じくらいのゆとりがあり、最後方ではリムジンのようだった。

スズキ『ワゴンR』やダイハツ『ムーヴ』など一段背が低い普通のトールワゴンも最新モデルの室内は豊かな居住空間を持っているが、顕著な違いを感じたのはリアシートを使用するときの荷物の積載性。今回のドライブで搭載したのはリュックサック、カメラバッグ、そして国際線の機内持ち込み上限の大きさのキャスター付きバッグの3つであったが、最も大きいキャリアバッグもリアシートスライドを最前方まで移動させずとも余裕で収容可能。カーゴルームをフルに使えば長期旅行用の大型トランクも余裕で積めるキャパシティがあり、旅立つ家族を国際空港まで送るといった用途にも十分使えそうだった。

フロントシートは女性ユーザーを意識しているのか、座面のサイズ、シートバックともやや小さい。ツーリングの冒頭では長距離には不向きなのではないかと思ったが、実際に長時間運転してみた結果、疲労感の少なさは軽自動車のなかで最良クラスとまではいかないが、平均点は十分にクリアしており、800kmあまりを走ってもドライブがイヤになるほどではなかった。なお、このシートは腰を深く沈めるより、ヒップポイントを若干前方に取ってややルーズに座ったほうが疲れが少ない。このあたりは深々と座らせることで疲労を抑制するホンダ、スズキのシートと性格がかなり異なっている。

◆トータル814.9km走行、燃費は19.87km/リットル

軽自動車ユーザーにとって関心事のひとつである経済性は、スーパーハイトワゴンとしては申し分ない高さであった。三河安城に達した後、帰路の浜松で1回めの給油。走行距離487.2km、うち高速道路、有料道路144.1kmという内訳であったが、給油量は22.35リットルで、満タン法による実燃費は21.8km。燃費計の数値も21.8kmであった。

次に給油したのは東京帰着時。途中から路面が冠水するほどの本降りの雨となり、走行抵抗の増大で燃費は少なからず落ちた。有料道路74.6kmを含む327.7kmを走り、給油量は18.65リットル。満タン法燃費は17.57km/リットルとなった。このときの表示は18.7km/リットルと、実燃費との乖離が大きくなった。浜松のスタンドがセルフでなく徹底給油がなされなかったことも一因かもしれない。オーバーオールでは814.9kmを走って給油量41リットル、実燃費19.87km/リットル。スーパーハイトワゴンとしては十分に良好な数値と言えよう。

なお、最後の給油からダイハツの広報車の借受場所である月島まで距離13kmの市街地ルートで、燃費アタックをやってみた。ツーリング中はクルマの運動エネルギー管理とCVTの動作に気を配る程度であったのに対し、信号見越しを徹底し、周囲の交通の流れに乗りながらも転がりを極力有効するなど神経を尖らせて運転した。ルートは結構混雑しており、平均車速は20km/hに満たなかったが、平均燃費計の数値は23.3kmをマーク。空気抵抗係数が『ミラ』並みとはいえ、全幅1475×全高1750mmと前面投影面積はCセグメント並みに大きいとあって、燃費的にはやはり低速のほうが有利なようであった。

◆バランスの良さでライバル凌ぐ…定番商品となるのも納得

新型タントを800kmあまりをドライブしてみた結果、最も印象的だったのは明らかに不満が出るようなポイントの少なさだった。フットワークはホンダのN-BOXが上回り、加速の軽快さや居住空間のルーミーさではスズキのスペーシアに後れを取るなど、要素ごとに切り分ければタントがライバルに負けているポイントは結構ある。が、ここは明確にダメだという部分がほとんどないというバランスの良さではタントがトップではないかと思われた。

顧客満足度というのは面白いもので、趣味的なモデルでは長所が評価され、生活必需品になればなるほど短所のなさが評価される傾向がある。タントは趣味性で買われるジャンルのクルマではないため、これを買ったのは間違いではなかったとカスタマーに思わせることが満足度のキモで、そのセオリーに忠実に商品企画がなされていると感じられた。もともとタントは前輪駆動のスーパーハイトワゴンの草分けとして登場し、他メーカーが追随したという経緯もあって、ユーザーのブランドへの信頼感は高い。定番商品となるのもむべなるかなというものであろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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