【ホンダ N-WGN インタビュー】"軽"を意識せず、ホンダのいちばん小さな車をデザインした

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本田技研技研工業 インテリアデザイン担当 河内雄介氏(左)とエクステリアデザイン担当した江田敏行氏
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  • ホンダ N-WGN
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  • N-WGN カスタム
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『N-WGN』はNシリーズの中で、もっとも「乗用車らしさ」を表現した車種だ。ユーティリティ重視の『N-BOX』、スペシャリティ感覚とパーソナル感覚を重視した『N-ONE』という両極の間に位置し、総合的なバランスの高さが求められる。

N-WGNは軽のメインストリームであるハイトワゴンとして、どのようなデザインとなっているのだろうか。本田技術研究所 デザイン室の江田敏行さんと河内雄介さんに話を聞いた。

黄金比を持つプロポーション

エクステリアのデザインを担当した江田敏行さんは、まずN-BOX、N-ONEを含めたNシリーズ全体のデザインについてこう語る。「軽をデザインするという意識ではやっていません。ホンダの一番小さな車種をデザインするという意識です。軽という概念に囚われることなく、発想を自由に展開させています」。また「Nシリーズだから、こうしなければならない」という縛りもないという。手法を縛ると、発想が萎縮してしまうからだ。

それでは、N-WGNのエクステリアはどのようなデザインなのか。江田さんはまず、良好なプロポーションを挙げる。「厚みのある下半身にバランスのよい上半身を乗せ、どっしりとした安定感を出しました」という。N-WGNのロワーボディと全高の比率はおよそ1:1.6なのだが、これは「ミロのヴィーナス」に見出せる黄金比と同じ数値だ。

ただし最初から黄金比を意図してデザインしたわけではなく「バランスがよく頼りがいのある造形、安全性を確保したボンネット高などいろいろな要素を合わせていったら、このプロポーションになりました」とのこと。機能やスタイリングを追求、吟味した結果として「美しさ」の普遍的な基準のひとつにたどり着いたというのは興味深い。

室内の広さと安心感を伝えるエクステリア

頼りがいがある印象を与えるのは、プロポーションだけではない。その一例としてCピラーの処理が挙げられる。ピラーがリアフェンダーからルーフをそのまま繋ぐのではなく、Aピラー基部から勢い良く伸びるサイドウィンドウ下端のラインがCピラーを分断している。

これは「フェンダーとルーフをスムーズに繋ぐとガッチリした印象にはなるのですが、すごく重たそうに見えてしまう」という理由によるもの。さらに「前後方向の線の流れを強調することで、室内がすごく広いということを外観でも感じられるようにしたかったのです」と説明する。見た目におもしろいだけでなく、内部の特徴を外観でも表現した処理なのだ。

Cピラー前部を大きく傾けてピラー上部を太くしたのは、しっかりした感じを強調するため。ピラーのウィンドウと接する部分の角を「面取り」して厚み感を出しているのも同じ理由だ。また、このおかげでサイドウィンドウのグラフィックスが台形になり、セダンのような印象となった。「しっかりとした存在感がありながら重たく見えず、セダンのような優美さや伸びやかさを表現しました」

この「セダンらしさ」というのは、他の部分にも盛り込まれている。後部のナンバープレートがバンパーではなくハッチ中央部にあるのは「貨物車ではなく乗用車なんだ、という表現。プレートを中心として張りのある面構成にすることで、人が中心ということを示しつつ、乗用車としての上質感を狙ったものです」という。

表情が異なる2種類のフロントエンド

N-WGNは、他のモデルと同様にスタンダードとカスタムという2種類のモデルが設定されている。いずれもホンダ車共通の「ソリッドウィング・フェイス」を採用していながら、印象の異なる顔つきだ。スタンダードではその中にもうひとつグリルがあるような、個性的なフロントエンドとなっている。

実は開発途中でかなりの議論があった、と江田さん。「ベーシックモデルなのだから、ごく普通にバーを左右に通して、ヘッドランプも温和な印象にしたほうが…という声もありました。ですがベーシックであっても先進性を表現すべきだということで、このデザインに決定しました」とのこと。内側をつるりとした印象の艶やかなブラックにしたのは、N-ONEとの共通性を意識したものだという。

またグリルがヘッドランプに食い込んでいるように見えるのは、ワイド感を強調するための工夫。全幅が限られている軽では、寸法以上に幅広く感じることが「しっかりしていて安全そう」という安心感に大きく貢献する。このためカスタムでも、グリルのスリットをヘッドランプ内部にも連続させた造形としている。ソリッドウィング・フェイス全体の輪郭はスタンダードとカスタムで共通ながら、それぞれ異なる手法で個性とワイド感を演出しているわけだ。

カスタム系のフロントエンドといえば、とかくメッキパーツを多用して迫力を出す方向になりがち。しかしN-WGNでは、グリルを横断して左右ヘッドランプを繋ぐバーのみがメッキパーツ。ホンダ車らしい顔つきとワイド感、それに洗練された雰囲気のすべてがバランスよく表現されたデザインだ。

乗員全員が受ける「おもてなし」

さて次は、インテリアに目を移そう。「日常生活の中で使い倒されるクルマだから、期待を超える便利さを持たせたかった」と語ると同時に「日常的だけれども、生活感あふれるものではなく上質な空間にしたかった」と説明するのはインテリアのデザインを手がけた河内雄介さん。「お客さんが来るときは部屋を綺麗に片付けたりしますよね。そういうときのような、自分の生活がひとつ格上になったような、そういうインテリアにしたかったんです」。

デザイン開発ではまず「日常での便利さ」に主眼が置かれ、後席も含めたインテリア全体での使い勝手を追求することからスタートしたという。その結果生み出されたのが、数々の収納スペースだ。「どの席に座っても同じ“おもてなし”が受けられるインテリアが目標でした」と河内さん。

たとえば、引き出せばハンバーガーとポテトのセットが置けるインパネ中央のスライドセンタートレー、それに濡れた傘や靴などでも気軽に置ける後席座面下の巨大なトレーなどは、広大な室内空間を存分に活用した装備といえる。「軽だから」と妥協しない姿勢だから実現したアイデアといえるだろう。

また後席用ドリンクホルダーがアームレスト先端にあるのは、ゆったり座った姿勢のまま腕を前に伸ばすだけで掴めるようにするため。この部分だけドア内側の鋼板を切り欠いた設計とすることで、ドリンクホルダーが設置できる空間を生み出したという。「おもてなし」を重視した、という言葉にも納得のデザインだ。

乗用車として上質な空間

エクステリアで追求された「乗用車らしさ」は、インテリアでも同様だ。「N-BOXは広さ感、N-ONEはパーソナル感を強調したインテリアです。これらの両方を取り込んだデザインを考えました」と河内さん。

それが顕著なのはインパネ形状だろう。N-WGNのインパネのアッパー部分は、左右両端へゆくにしたがって細くなる造形になっている。これは上下の線が交差する消失点が左右の車外にあることを意識させ、実際の寸法よりも幅広く感じさせる処理。遠近法を用いた視覚トリックでワイド感を強調し、快適性の向上に繋げているわけだ。

いっぽうドアハンドルを囲むグラフィックスは、線の勢いがインパネのロワー部分に繋がって、ぐるりと乗員を取り囲むようなイメージ。「適度なボリューム感と、線の“抜け”があることでもたらされる広さ感を大事にしました」とのこと。これは他の部分にも見ることができる。たとえばアームレストは単体で完結するのではなく、前後に抜けるようなグラフィックスが与えられ、室内の長さをいっそう印象づけるものになっている。

Nシリーズのプラットフォームで可能になる広大な室内空間を、どのようにアピールするか。N-BOXは「広さ」をそのまま魅力にし、N-ONEではスペシャリティ感覚を盛り込んだ。そしてN-WGNでは「乗員全員が享受できる、乗用車としての快適性」を追求したものといえるだろう。河内さんは「プラットフォームをしゃぶりつくすデザインです」と語ったが、これはNシリーズ全車に共通した魅力といえるだろう。

《古庄 速人》

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