スライドドアの便利さは、使ったらやみつきである。風の強い日や、雨でさっと傘をあけたいときなど、隣のクルマにドアパンチを食らわせる心配ゼロの安心感といったらない。ミラクルオープンドアで、特大の開口部をもつ『タント』は、運転席側の後部ドアもスライドに仕立ててきた。これを鬼に金棒と呼ばずしてなんとしよう。
タントの使いやすさは、ちびキッズの保護者だけでなくアウトドア志向の男性のハートもつかんだようだ。きりっとしたスタイルに乗りたいのならタント・カスタムに行けばいいと思うのは売る側の目論見であり、ユーザーの意向とは違う。ゆえに、今回のフルモデルチェンジでは男性目線も意識して、デザインは甘さをふりはらったシンプルさが垣間見えるようになった。しっかし、相変わらず広い。いや、さらに広くなった運転席まわりである。これまでのタントが「バスみたい」なら、今度は「宇宙船カプセル」である。わずかに湾曲して感じるフロントウィンドーが、クルマではない異次元の乗り物の雰囲気をかもし出している。フロントウィンドーから見える景色だけで、遊園地気分である。
新型タントで感じるのは、パワステのしっかり感だ。このところのダイハツは「軽く走れる」ではなく、「ちゃんと運転するクルマ」と思うところがあるのか、パワステもアクセルも手ごたえ感のある味付けが多い。乗り始めは重いと感じるやもしれないが、こうしたアタマでっかちで重心の高いクルマの場合、手ごたえのある方がふらつかず安心できる。
タントの車内の広さはボディの重さを産み、それで加速がにぶるというネガとして指摘されることも多かった。特にCVTだし。しかし、新型はトルクの出方がかなり改善された。アクセルを踏めばエンジン回転数は上がるものの、トルクがしっかり出ているので期待どおりに前へと加速していく。
けっこうがんばって加速するので、ついつい、もうひと息!と、欲が出そうになるが、それ以上は、ターボ付に任せるとして、いや、このくらいスムーズに速度がのれば十分だろう。なんたって、いやな振動もないし。振動軽減は、アイドリングストップからの再始動にも活かされ、オンオフが繰り返される街なか走行でも快適である。アイドリングストップ・タイムが、自動的に表示されるインパネも、可視化として成功している。
こういうクルマがどんどんブラッシュアップしてしまうと、とりあえず作るか、的なセダンはやっていられないと思う。日本のセダンの生き残りを左右するタントである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/エッセイスト
女性誌や一般誌を中心に活動。イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に精力的に取材中するほか、最近はノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。JAF理事。チャイルドシート指導員。国土交通省 安全基準検討会検討員他、委員を兼任。