2012年のパリサロン。ランボルギーニが新型車を出展、と聞いて、『ガヤルド』がついにチェンジした!と、思われた方も多かったことだろう。何しろ、デビューから早十年がたつ。そろそろ、であってもおかしくなかった。
実際に現れたのは、フロントとリアのデザインを変更した、化粧直し=マイナーチェンジの最終ガヤルドである。ナカミは一切、変更ナシ。兄弟車『R8』の進化(たとえばダブルクラッチ搭載)さえ注入されてはおらず、そのことがかえって、“モデルチェンジはもうすぐ”、を予感させた。
つまり。ガヤルドの生産は50周年を盛大に祝う今年までとして、モデルイヤー14年の半ばから、いよいよ後継モデルが登場、というのがサンタガタの描く青写真だろう。
さて、いよいよ日本市場にも上陸をはたした最後のガヤルド、“出がらし”もいいとこで旨味なんてまるでナシなの?と問われれば、否、と、即答できる。宮古島で試した熟成しきったスーパーカーの嗜みは、新型車の味見に優るとも劣らず楽しい経験だったからだ。
なんと言っても素晴らしいのは、アルミスペースフレームとディメンジョン、そしてパッケージングがもたらす一体感である。こればかりは、『アヴェンタドール』も敵わない。
560psというパワフルなエンジンをミドに積むとは思えない、それは“たなごころ”なライド感覚だ。乗り心地もずいぶんと湿り気をおび、低速域では快適ですらある。そして、ひとたびムチを入れれば、乾いた重層的大音量のV10エグゾーストが爆裂し、本格的なスポーツカーへと変身する。
昨年の夏、筆者はイタリアで、久しぶりにガヤルドの二駆・マニュアルミッションをドライブしたが、これが実に楽しかった。電子制御の600psオーバーが当り前の今となってみれば、21世紀デビューのガヤルドさえ、人の感覚により忠実な操縦感覚だと思えてきて、痛快のひとこと。その瞬間、50周年バッヂのついた最後のガヤルドを、MT仕様で乗ってみるのもいいな、と思ったものだ。
マニュアルミッションの大パワーミドシップスーパーカーは、おそらくこれで見納めだ。そうと気づいたスーパーカー好きが、最後のガヤルドに群がったらしい。50周年の節目に生産されるとあって、ガヤルドから最後のガヤルドへ、乗り換えたユーザーも多かったという。
十年の歴史は、ハンパじゃない。
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。精密機械工学部出身。