トヨタが今回のモーターショーで初公開する『86』のプロトタイプをテストコースでドライブした。専用設計の水平対向エンジンはビートの効いたサウンドをコクピットに響かせながら、スムーズに吹け上がっていく。シフトレバーは縦置きトランスミッションならではの確実なタッチ。パワーとトルクは持て余すことがなく、使い切れる楽しさが味わえる。
それ以上に印象的だったのがシャシーだった。サスペンションはガチガチではなく、しなやかな乗り心地を示す。でもステアリングを切ると、ノーズが自然にインを向き、ロールを感じさせず、路面にピタッと貼り付いたようにコーナーを抜けていく。適度なパワーと低重心ボディという素性の良さが、シャシーに最高の仕事をさせているようだ。
このハンドリングについて、製品企画本部でチーフエンジニアの多田哲哉氏は、次のように解説していた。
「開発がスタートした当初、スポーツカーはラップタイム至上主義でした。そのためターボ+4WD+ハイグリップタイヤという組み合わせが一般的になっていました。その結果価格が高くなって、クルマ離れが進んだんじゃないかと考えています。だからこそ、手の届く価格で自ら操って楽しいスポーツカーを作りたいと思った。それが自然吸気エンジンでFRで低重心という、タイヤに頼らないパッケージに結び付いたのです」
しかも限られた試乗時間内でさえ、アクセルやステアリング操作で車体の向きを自由に変えられるという、FRスポーツの醍醐味を味わえることも分かった。スペック追求に走りがちな日本の自動車メーカーが、ここまで感覚面を重視したスポーツカーを生み出せたことに驚かされた。ラップタイムなどの数字よりも、ドライバーの気持ち良さを追い求めたという多田氏の言葉は真実だった。