【池原照雄の単眼複眼】期待値を超えるトヨタのインド向け廉価車

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トヨタのインド専用車エティオス(写真はハッチバックのエティオス・リーバ)
  • トヨタのインド専用車エティオス(写真はハッチバックのエティオス・リーバ)
  • 池原氏による試乗。エティオスはトルクのある力強い走りを見せる。
  • エティオス(左)とエティオス・リーバ(右)
  • エティオス(左)とエティオス・リーバ(右)
  • トヨタ エティオス
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  • トヨタ エティオス
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軽自動車の売れ筋価格帯を下回る

トヨタ自動車が新興国向けエントリーモデルとして2010年末からインドで生産・販売を開始した『エティオス』に試乗した。開発着手からラインオフまで5年を要しただけに、販売価格からイメージしていた水準を上回る走行性能や質感、さらにインドならではの装備などお買い得感たっぷりの仕上がりだ。

エティオスは現在建設中のブラジル新工場でも12年後半から生産し、同国をはじめとする南米諸国に投入される。インド、ブラジルと成長力が極めて高い新興2国で低シェアのトヨタが、ようやく攻めの態勢を整えた。

エティオスは昨年末にセダン(1.5リットル)、今年6月下旬からハッチバックの『エティオス・リーバ』(1.2リットル)を発売した。いずれも手動5速で、エアコンや運転席・助手席エアバッグなどを標準装備している。価格はセダンが約92万円から、ハッチバックは約73万円からと、日本の軽自動車の売れ筋価格帯を下回っている。

◆「常識は非常識」からスタート

エティオスの試乗は、トヨタが静岡県に保有する安全運転講習施設内の特設コースが会場だったが、高速やスラローム走行などにより性能確認には十分だった。エンジンは新開発の16バルブDOHCで、1.5リットル、1.2リットルともボアピッチ(各ピストン中心部間の長さ)を同じにし、大部分を共用化している。

いずれも3000rpm付近で最大トルクが発生する設定なので、低速域から力強さが伝わってくる。定員を上回る乗車が日常的なインドでの使われ方を配慮したエンジン特性としている。セダンよりホイールベースを90mm短くしたハッチバック(但し室内空間はセダンとほぼ同一)は、若年層も狙ったモデルであり、操舵へのきびきびした反応はセダンとまったく異なる味付けとなっている。

試乗にはヘビーデューティーな輸入車をマイカーとするレスポンスの宮崎壮人記者と同乗し交互に運転した。今どき希少なクルマ好き男子の宮崎記者による評価は静粛性などを含めて高く、「日本にもってきても通用する『良品廉価』モデル」と、2人の意見は一致した。

開発に5年も要したのは、現地での使われ方を徹底的に再調査するとともに、トヨタには未経験の価格領域の実現に向け現地調達先の発掘などに取り組んだためだ。開発に着手した当時の担当副社長であった岡本一雄氏(現日野自動車会長)は「これまでのクルマ造りの常識は非常識と否定するとことろから始めよう」と、強調していた。

◆派生車展開や販売網拡充にスピード必要

エティオスの6月末までの累計受注は4万台弱であり、東日本大震災によってハッチバックの投入が2か月遅れるアクシデントはあったものの、初年度7万台という計画はクリアする勢いだ。6月のインドでのトヨタ車販売は、エティオス効果により前年同月比で94%増と、ほぼ倍増した。

同シリーズの好調を受け、インドでの生産能力も12年前半までに2工場合計(『カローラ』など他モデル含む)で、現状の15万台から21万台に引き上げることを決めている。これでエティオスの増産に素早く対応できる態勢を整える。

ただし、トヨタの新興市場での反転攻勢は緒についたばかりだ。ブラジルへの「横展開」を成功させるとともに、ミニバンなどの派生車種展開や「インド市場では不可欠なディーゼル車」(開発担当の則武義則チーフエンジニア)の投入など商品面での2の矢、3の矢が欠かせない。さらに販売網の拡充も急務だ。これらの市場ではチャレンジャーとしてのスピードが何より求められている。

《池原照雄》

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