【井元康一郎のビフォーアフター】原発のピンチで日本のEV普及に暗雲…?

エコカー EV
リーフ
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  • i-MiEV
  • 高速道路に設置された急速充電器
■原子力発電をアテにしていたEV

三菱自動車『i-MiEV』、日産自動車『リーフ』と、相次いで登場した本格EV(電気自動車)。次世代エコカーの有力技術のひとつとして注目を集めていたそれらEVに、やおら暗雲が漂いはじめた。原因は言わずもがな、東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所の大事故である。

「EVを走らせるには、大量の電気エネルギーが必要です。また、その電気エネルギーは低コストかつクリーンなものでなければならない。カギを握るのは、やはり原子力発電だと思います」

i-MiEVの開発に携わった三菱の橋本徹氏は09年にリース販売を開始する直前、EVのエネルギーソースについてこう語っていた。EVは太陽光や風力などの再生可能エネルギーとセットで語られることが多い。が、現実にはエネルギー源としてアテにしていたのは、非石油系エネルギー中、圧倒的な出力を誇る原子力発電だったのだ。

その原発がピンチとあっては、EVの立場は半ば失われてしまったも同然である。福島第一原発の事故は現在進行形の問題であり、事故そのものについて現時点で最終的な評価を下すことは妥当ではない。が、ひとつだけ明確になったことがある。それは災害列島との異名を取る日本で今後、原発増設を進めるのはほぼ不可能になったということだ。過去に原発政策に関わっていたある核物理学者は次のように語る。

「原子力発電は脱石油をはかる最も現実的な技術だと今でも思っています。しかし、中越地震の柏崎刈羽原発、今回の福島第一原発と、こうも自然災害でいちいち停止し、あまつさえ放射能漏洩で廃炉などという事態に追い込まれるようでは、原発の善悪論を云々する以前に、日本で原発を推進するのはコスト面で到底合わなくなってしまう。経済的な合理性を失うということは、エネルギー産業としては致命的なんです」

これまでも原発を建てるには、建設のための用地収容をはじめ、高いハードルを越えなければならなかった。新規に建設するための土地の確保は困難をきわめるため、能力増強はもっぱら既存の原発の土地に原子炉を増設することで行われていた。「今後はその原子炉増強計画すら、大半がキャンセルを余儀なくされるだろう」(経産省外郭団体幹部)


■原発、増やせる国と増やせない国

新興国の経済成長で原油の需要は増大する一方、生産のほうは次第に細っている。昨年のメキシコ湾深海油田の事故は、掘削困難な場所にも資源を求めなければならなくなっていることを象徴するような出来事だった。その中で、原発が石油エネルギーからの脱却を図るための次世代エネルギーという地位から陥落するならば、その影響は深刻だ。

問題は、その課題を負うのが日本など、震災多発国に限られていることだ。今回の原発事故に端を発し、世界的に原発見直し論が飛び交っている。アメリカのスリーマイル島原発事故、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故などを経験していることから、欧米諸国には根強い原発アレルギーがあるからだ。が、前出の経産省外郭団体幹部は、脱原発論は長続きしないとみている。

「欧米諸国はもともと地震の少ない場所がたくさんある。中央ヨーロッパ平原からシベリアにかけては地殻がとても安定していて、地震がほとんどない。アメリカも(地震の多い)環太平洋造山帯に属する西海岸はダメだが、中部から東部にかけては震災を気にしなくていい場所が山ほどある。冷静さを取り戻せば、再び原発をクリーンエネルギーの主役に据える公算が高い。日本とは根本的に事情が違うんです」

今後のエネルギー需給は、原発を安全に運用できる国とそうでない国に二分され、後者は常にタイトなエネルギー需給を強いられる可能性がきわめて高まったと言える。日本はもちろん後者だ。

EV化政策の進めやすさも、原発を増やせる国と増やせない国で全くことなってくる。今後、長期間にわたって電力不足に陥る可能性が高い日本では、EV導入は当面、社会実験的な規模にとどまらざるを得ない。が、それでEVがダメになると決まったわけではない。電力を豊富に有する国では、EVの技術進化や導入のニーズが消えることはないからだ。


■新たな“ガラパゴス”の種を抱えた日本のEV

EVを市販している三菱、日産は、現時点ではグローバルでのEV販売台数などの基本戦略に変更なしとしている。日本市場での導入見込みが狂うことが確実な情勢では半分強がりとも受け取れるが、グローバルでは脱石油のトレンドが大きく変わることはないとみているのも事実だ。

とはいえ、日本の脱石油は当面、代替エネルギー技術から石油エネルギーの使用量を減らす技術へとシフトせざるをえない。クルマで言えばEVではなく、ハイブリッドカーやアイドリングストップ車など、燃料消費量の少ないクルマが相当長期にわたって主役であり続けることだろう。EVが脚光を浴びるのは、喉元過ぎて熱さを忘れ原発を増設する空気が出てきたり、高温岩体発電や次世代太陽電池(超高効率な色素増感太陽電池など)が実用化され、再生可能エネルギーである程度まとまった電力量を確保できるメドが立った時になろう。

ホームグラウンドたる日本市場でまたまた新たな“ガラパゴス”のタネを抱えてしまった格好の日本の自動車業界だが、それが逆風になるかどうかはまだ未知数だ。現時点ではEVが蓄電技術など、様々な面で生煮えもいいところで、各国のEV普及政策はその現実を無視してゴリ押ししているところがある。数十年後はともかく、現時点でのEV普及は社会的に失敗する可能性も決して低くない。EVの技術が思ったように進歩しなかった場合、性能の低い第1世代のEV本体やインフラなどに余計な投資をせずにすむという見方も成立するのだ。

長期的に見れば、内燃機関から電力への転換というトレンドは変わることはないだろう。が、それに備えた技術の蓄積はハイブリッドカーやレンジエクステンダーで十分にできる。今こそ自動車メーカーや政府は、落ち着いて次世代の道路交通システムの構想を練り直すべきだ。
《井元康一郎》

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