「トヨタたたき」は米国での出来事
トヨタ車の電子スロットルに関する米運輸省と米航空宇宙局(NASA)の調査結果により、米国内で同車の制御システムに向けられていたモヤモヤが晴れた。
日本のメディア各社もこの件を大きく報じたが、米当局やメディアによる「トヨタたたき」をあげつらう内容が多く、違和感がぬぐえない。1年前の今ごろ、米メディアと一緒に「暴走」していた自らを省みる論調は見当たらないのだ。
調査結果が発表された翌日の全国紙で「あの騒ぎは何だったのか」というタイトルの社説があった。「政治的なパフォーマンスでトヨタたたきが繰り広げられた」とし、米議会や政府に「反省を求めたい」と主張している。
返す刀で、日本政府の対応も米側に「冷静な対応を求めたりする姿勢は十分でなかった」と批判する。ここまでは良いとしても、騒ぎに身を投じていたメディアが今になって「何だったのか」と、他人ごとのように言い放つのはいかがなものか。
◆「誤解招く報道」は自らが検証を
1年前の日本では、リコールすることになった『プリウス』のブレーキの不具合問題が注目されていた。いくつかの民放テレビ局のニュースでは、千葉県松戸市の国道6号線で起きたプリウスによる追突事故の現場からのリポートも何度となく流された。
結局、この事故はリコールの対象となった不具合とは関係のないものだったが、因果関係の確認も不十分なまま、ブレーキの欠陥で事故が発生したかのように報じた。
視聴者に「プリウスは危ない」と、印象付けるには十分だった。その後、こうした報道はうやむやにされたままのようだ。リコール1年を機に、「誤解を招くような報道」についての検証や反省があってもよい。
トヨタ自動車にとっても、1年前の騒ぎを思い起こすのは、品質問題のみならずメディア対応を含め、反省すべき点を風化させないうえでも大切だ。
フロアマットがアクセルペダルにからむ問題や、限られた条件でアクセルペダルの戻りが悪くなる不具合でのリコールは、結果としてタイミングに遅れをとった。
◆重みを増す経営トップの初動対応
2010年版のアニュアルレポートでトヨタ自身も指摘しているが、一連のリコール問題はトヨタ車の品質に対する顧客の期待度と同社の認識の間に「ずれが生じてしまった」ことが大きな要因として考えられる。
リコール問題以降、豊田章男社長は「安全・安心なクルマづくり」を社内外で強調するようになった。世界で最も多く愛用されるクルマは「安全」はもとより、「安心」への期待度も高まるのである。
豊田社長は、コンビニのおにぎりは「安全」だが、母親の作ったおにぎりには「安心」も加わると、比喩している。
一方、メディア対応での教訓は、これは企業全般に共通することだが、メディアが群集心理的に一方向へ暴走を始めると、そのダメージを食い止めるのは容易でないということだ。それだけに、経営トップによる初動対応の重みが増すのである。