【井元康一郎のビフォーアフター】次回予告いまだ無し、東京モーターショーの今後

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東京モーターショー、次回開催は?

ジュネーブモーターショーが3月4日、開幕した。会場では地元欧州メーカーのみならず、日本、アメリカ、さらには中国最大のEVメーカーであるBYDやインドのタタモーターズなど、新興国勢も参加した。展示内容もEV、プラグインハイブリッドカー、コンパクトカーなどのエコカーから最高速度300km/hをはるかに超えるスーパーカーまで、多種多彩なものとなった。

一昨年秋のリーマンショック直後は開催も危ないという見方が広がっていたが、フタを開けてみれば、堂々たる国際モーターショーぶりをアピールした格好だ。今後、4月のニューヨークモーターショー、北京モーターショー、9月のパリモーターショーと、話題の国際モーターショーが続くが、モータリゼーションのトレンドの発信力をめぐり、丁々発止が続く。

その中で、未来戦略を描けずに苦しんでいるのが、東京モーターショーである。昨秋の第41回ショーの入場者数は61万人あまりと、目標の100万人に遠く及ばなかった。そればかりか、海外の大手自動車メーカーが一社も参加せず、国内メーカーの、それも気のない展示内容のブースが並ぶという悲惨なショーとなったのは記憶に新しい。

「あんなにひどい国際モーターショーは初めて見た。終わりの始まりとしか言いようがない」---クルマの設計に欠かせない3D CADソフト世界大手の幹部が会場で思わずこう漏らしたように、東京モーターショーはもはや、未来をどう切り拓くかではなく、存在意義を見いだせるかどうかという段階で苦悶している。

通常、ショー閉幕のときに次回のショーはいつ、どこで開かれるかという開催概要が発表されるのだが、2011年の第42回については、発表することすらできず「次回ショーの概要は、2010年春に発表する予定」とのコメントを出すのが精一杯だった。

今、まさにその春がやってきているわけだが、今だに発表の予定はない。東京モーターショーは隔年開催で、今年は休催年にあたるが、次回のショーが訪れるのはあっという間である。ショーを主催する日本自動車工業会関係者は「外部の有識者にも参加してもらって、モーターショーをどうしたらいいかということをゼロベースで議論しているが、妙案が出ない。5月くらいまでは春と思っていただけるのではないか」と、苦戦ぶりを明かした。

◆メーカーに“やる気”を

東京モーターショーの打つ手は、実はもう残り少ない。前回は「日本の自動車メーカーは環境技術をはじめ多くの技術を持っている。環境を軸に情報を世界に発信できる」(青木哲・自工会会長)と、今流行りのエコを前面に押し出して集客しようとしていた。

が、フタを開けてみると、ショーを支えなければならないはずの国内自動車メーカー各社はユーザーにアピールできる技術を積極的に見せるわけでもなく、単に電気エネルギー利用技術を使ったコンセプトカーなどを並べたり、ちょっと動かしたりする程度にとどまった。EVを飾ったり動かしたりしたところで、車体にタイヤ4つがくっついているという形状は変わらないため、展示への来場客の反応など知れたものである。

トヨタ自動車関係者の一人は、「日本で発表したいのはやまやまなんですが、結局市場があるところに重点を置かざるを得ない」と本音を漏らす。確かに、各社とも海外のショーでは気前よくコンセプトカーや将来の技術ロードマップを発表している。海外重視はトヨタに限らず、国内市場を主体とするダイハツ以外の全メーカーに共通する本音だ。

モーターショーの主催は自工会だが、各社の展示内容に口を差し挟む権限はなく、どのような展示を行うかは結局、メーカーごとの判断に委ねられている。「最先端技術が集められ、それらを会場で様々な形で体験できるようなショー」といったコンセプトを打ち出しても、メーカーによって思惑が異なるために足並みが揃わないという状況が変わらない限り、環境技術の発信が看板倒れに終わった今回の二の轍を踏むのは避けられないだろう。

◆東京モーターショー、キーはエンターテイメント

東京モーターショーの再生のためには、エコカー技術をはじめとするクルマのハイテク技術を見せればユーザーは驚き、感心するだろうという自動車業界の思い込みを消し去らなければならない。そこで考えられるもう一つの方向性が、エンターテインメント徹底重視のショーへの転換だ。

第41回のモーターショーでは、派手な舞台演出を“自粛”するという暗黙の了解があったという。そもそも世界のどこかで起こった不幸を鎮魂するわけでもないのに、経費を削減することを自粛と称すること自体おかしな話だが、演出なしという判断がそもそもショウビスのセオリーを踏み外しているという指摘もある。

アパレル業界のベテランジャーナリストは東京モーターショーについて、感想をこう述べる。

「演出なしなどとは的外れなことを。たとえばアパレル業界では水着ショーなど、有料のファッションショーがありますが、男の客は何も女の水着を買いにそこに行くわけじゃない。モデルがそれを着て、歩いたりポーズを取ったりするからわざわざ見に出かけるワケです。靴のショーだって、トータルコーディネートされた衣装の一部として靴を見せる。そういう演出がなければ、1300円を払って見に来てくれる客が少なくなるのは当たり前のこと」

エンターテインメント主体のショーというのは、EV技術を展示したり、試乗エリアを作ったりといったこれまでの文法でのものではない。もちろん、これまで東京モーターショーが比較的得意としてきたステージ演出だけでも足りない。たとえば会場の一部エリアに、そこで息をするだけで気持が良くなるような体験スポットを作ったり、プラネタリウムや3Dなどのオーサリングツールをダイナミックに使って来場者に次世代技術の革新性を強烈に疑似体験させるといった、新しい試みが必要だ。だが、こうした仮想体験の演出は日本のクリエイターが苦手とする分野でもあり、課題は残る。

筆者は2009年のショー会場で、来場客15組にショーの感想を聞いてみた。ふざけていると激怒していたユーザーを含め、つまらなかったと答えたのは13組で、楽しかったと答えたのは2組みだけ。しかもその2組はいずれも家族連れで、空いていたから子どもがクルマに触ることができてよかったと思ったにすぎない。そして、15組全員が、東京モーターショーに来るのは「これで最後でいいかな」と答えた。

15組の声だけで断定はできないが、並大抵のことではショーの地盤沈下を食い止めることは不可能ということは容易に想像がつく。1300円のチケットを買って来場してもらえるショーにするために、自工会はどのようなアイデアを出すのか。それ以上に、当事者である自動車メーカーにそもそもやる気があるのかどうか。廃止もやむなしという声すら聞こえてくる中、結論を出すまでのタイムリミットはもういくらも残っていない。“春の概要発表”に要注目である。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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