4 | 新型アウディTTクーペ…デザインは継承、企画は新規 |
新型アウディTTクーペもクルマとしての「美」を、アウディの「個性」という枠のなかで見事に達成したハイレベルな自動車デザインである。
デザインの検証をする前に、この車全体のコンセプト、商品コンセプトについて少し検討したい。私は新型の商品コンセプトが、旧型とは大きく異なるように思う。旧型はクルマらしさといった既成概念や、「高級」などの価値観に囚われないモダンなデザインを目指していた。新型は「ラグジュアリー・スポーティ車」に生まれ変わったのだ。
クルマを開発するに当たって真っ先に決めなければならないのが商品計画であり、中でも重要なのが商品コンセプトである。つまり、ターゲットとした顧客に対してどのような価値を持った車がふさわしいかを、テイストから質感に至るまで細かく、しかも的確に描き出さなければならない。
新型では、造形の骨格こそ旧型を踏襲するが、それ以外は高性能車の評価基準で開発されている。つまり洗練された走行感や、基本的な運動性能での上質を実現している。
それに合わせてエクステリアデザインも、クルマらしい質感のある面造形や、「威厳」や「精悍」という言葉がふさわしいフロント周りに表情が改められている。インテリアも同様に、これまで高級車や他のスポーツカーに乗っていた人が顧客になっても、違和感が無く満足できる「永続性のある高級」をテーマにしたデザインに改められている。
5 | 複雑な面構成が生み出す存在感 |
エクステリアデザインを特徴付けているのが、鷲の顔のように鋭い表情の、フロント周りのデザインである。そして豊かな丸みのあるボンネットを引き立たたせているのが、シャープなキャラクターラインとネガティブ面なのだ。
新型TTの造形はドラマチックに自然光を反射し、展示室内のスポットライトでもメリハリのある存在感を照らし出す。
これらはBMWがすでに手がけている造形手法だが、こうした精悍さの表現や、くどいくらいの存在感はフランス車や日本車と比べ威圧感があり、いかにもドイツ的な美意識といえるだろう。
このようにフランスとドイツから最近相次いで発売された2車には、デザインにおいて明確なスタンスの違いがあった。しかし興味深い共通点も見つかった。それは両者ともグローバルデザインとは正反対の、独自の美意識を自信をもって貫いている点だ。
フランス、ドイツから始まった「デザインにおける民族の主張」は、どこまで発展を見せるのだろうか。そして日本車のゆくえは?