【D視点】ビッグマックの魅力…MINIクロスオーバー

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MINIクロスオーバー
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 お買い得感のある最強MINI

『MINI』のラインナップに新たに加わった「MINIクロスオーバー」は、MINI初の4枚ドアで、四輪駆動システムも選択できる欲張りモデル。しかも、高いシートポジションだけではなく、大きいボディを生かした面白小物置やシート組み合わせのおまけも付いている。

MINIのランプ類やグリルのアイコンを生かしているのでMINIの兄弟であることはわかる。しかし、基準車比較で全長365mm、全幅105mm、そして全高120mmと大きくなっているだけではなく、アイコンもSUVらしく厳つく変形されているので、MINIのビッグマック版のように見える。

MINIに比べて約45万円高となる車両価額は、全く新しいモデルで、しかも装備の充実を考えると、MINI(ハッチバック)に並ぶ主力車を意識した価額設定であることを伺わせる。しかし、お買い得感のあるMINIクロスオーバーのユーザーは、特大ハンバーガー好きなアメリカ人かニューカマーのMINI派に限られそうだ。


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 「やせたぶた」の夢

ローバーから『Mini』のブランドを買ったBMWは、車名表記をMiniからMINIに変えた。同時にローバーMiniのアイコンも積極的に利用したので、BMW MINIをローバーMiniの後継と捉える人と、似たところはあるけど全くの別物と言う人とに分かれた。

2代目のBMW MINIも、「変らない」というローバーMiniの伝統を引き継ぎ、イメージの変わることを極力抑えながらテクノロジーの充実を図った。しかしMINIクロスーバーが誕生したことにより、仕様だけではなく厳ついデザインディテールからもわかるように、“Miniとは全く別物”というMINIの本性が明らかになった。

総じてドイツの製品・文化・気質の印象は、何事につけても「融通のきかない堅物」で、ドキドキするような楽しさは無いが信頼感がとりえ、と言うことになる。MINIクロスオーバーのデザインでは、ドイツ軍の“シュタールヘルム型”鉄兜のようなルーフやボンネットの膨らみに、ドイツらしい頑強さがにじみ出ている。

MINIがイギリス生まれのMiniのゴーストから決別して、ドイツ車らしくなったのは喜ぶべきであろう。MINIを含めて、需要の創出に励むドイツ車は、いまや世界を席巻しそうな勢いだ。しかし自分にないものを求めた童話「やせたぶた」のような危うさを感じさせ、喜んでばかりはいられない。


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 「やせたぶた」が良い

ローバーMiniのミニマルな考え方は、インテリ層だけではなく富裕層にも広がり、40年以上のロングライフとなった。途中エンジンが拡大され「顔」の違った兄弟も生まれたが、4ドアや4WDを派生させるような欲張りな発想を潔く思わなかったのであろう。

ローバーMiniに限らず、イギリスのクルマの多くのブランドが外国に買われて新しいデザインを展開しているが、オリジナルのデザインがますます輝いて見える。物を大切にして、シンプルなデザインを好むイギリス人のライフスタイルが、再び脚光を浴びようとしている。

今の世界は経済成長率の指標に縛られ、人々は生産性の向上や需要の創出のために日夜奔走し、疲れている。このような状況に失望した若者は、田園での自作農に興味を示し始めている。近頃の若者のクルマ離れも、この流れだ。

「やせたぶた」は夢がかなって太った後、やはり、やせた豚でよかったと考える。そんな真に豊かな時代が到来したのだ。昔のイギリスにあったような、自分のスタイルを守るクルマの誕生についてメーカーも考えれば、クルマ作りはやり甲斐のある仕事になる。

D視点:
デザインの視点
筆者:松井孝晏(まつい・たかやす)---デザインジャーナリスト。元日産自動車。「ケンメリ」、「ジャパン」など『スカイライン』のデザインや、社会現象となった『Be-1』、2代目『マーチ』のプロデュースを担当した。東京造形大学教授を経てSTUDIO MATSUI主宰。【D視点】連載を1冊にまとめた『2007【D視点】2003 カーデザインの視点』を上梓した。
《松井孝晏》

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