12月15日、国土交通省航空局、全日本空輸(以下、ANA)、日本航空(以下、JAL)、豊田自動織機、AiROは、羽田空港および成田空港の制限区域内において、自動運転レベル4(特定条件下における完全無人運転)に対応したトーイングトラクターの実用化を開始したと発表しました。国内の主要空港で同時にレベル4の実用化が行われるのは初の事例となります。

今回の技術導入の背景には、深刻化する生産年齢人口の減少と、回復・拡大する航空需要への対応があります。政府は2030年に訪日外国人旅行者数6000万人という目標を掲げているものの、空港のグランドハンドリング業務は労働集約型産業であり、人手不足が懸念されています。ANAとJALは、従来人手に頼っていた搬送業務にAIとロボティクス技術を導入することで、省人化と業務効率化、およびEV車両による環境負荷低減を目指しています。

今回、導入された自動運転トーイングトラクターは、運転席に人が乗らない「レベル4」での運用を実現するため、高度なセンサーフュージョンとAIによる判断機能を搭載。JALが羽田および成田で導入したAiRO製(ベース車両はGuangtai製、システムはROBO-HI製)の車両には、自動運転コンピュータ「IZAC」が搭載されています。

車両には3箇所の3D-LiDAR(ライダー)、GNSS(衛星測位システム)、IMU(慣性計測装置)、および3台の自動運転用カメラを装備。これらのセンサーから得られるデータを統合し、AIが自己位置の推定と周囲の物体認識をおこないます。

あらかじめ取得した高精度の3次元マップと、走行中にLiDARが検知するリアルタイムの点群データを照合することで、車両は自己位置を正確に把握。また、AIは最大80メートル先の交通状況を広範囲に把握し、ほかの車両の動きを予測して、減速や車線変更の判断を自律的に行うことが可能とのこと。

一方、ANAが羽田空港で導入した豊田自動織機製の車両は、空港特有の環境課題を克服するために独自の自己位置推定技術を採用。空港の建物付近や屋内ではGNSSの信号が不安定になりやすく、また広大な駐機場では3Dスキャンに必要な特徴物が少ないという課題があります。

これに対し、同社は「路面パターンマッチング(RSPM)」技術を実用化。これは路面の微細な模様や凹凸をカメラで撮影し、事前に作成したデータベースとマッチングさせることで位置を特定する技術で、インフラへの依存度を下げつつ、屋内・屋外を問わないシームレスな走行を可能にしています。

さらに、3D-LiDARや2Dレーザースキャナなど計4種類のセンサーを組み合わせることでシステムの冗長性を確保し、AIが障害物を検知して停止する安全機能を備えているとのこと。

空港の制限区域内は、航空機や特殊車両が混在する複雑な環境で、車両単体のAIだけでなく、インフラ側の監視システムとの連携が不可欠。今回国土交通省は、自動運転車両の死角を補うため、共通インフラとして監視カメラ(VME:Vehicle Management Equipment)を設置(NECが構築)しています。
例えば、見通しの悪い交差点や建物の陰から合流する箇所では、車両搭載のセンサーだけでは検知困難な場合があります。これらの死角情報はVMEを通じて遠隔監視室へ送られ、安全確認に利用されます。
運行管理の中枢となるのが「FMS(Fleet Management System)」。FMSは、フライト情報に基づき各車両へ搬送指示を出すとともに、車両の位置情報や状態をリアルタイムで監視します。
特筆すべきは信号機との連携機能です。車両が交差点に接近すると、その情報がFMSを通じて信号制御システムに伝達。システムは自動運転車両の通過に合わせて信号を青に変えたり、交差する有人車両に対して赤信号を表示したりすることで、スムーズかつ安全な合流を実現しています。このように、車両側の自律判断AIと、全体を俯瞰して制御する管理システムAIが高度に連携することで、無人運転の安全性が担保されているわけです。

AIによる自動化は、現場スタッフの役割にも変化をもたらしています。これまでは運転操作を行っていたスタッフが、今後は「遠隔監視者」および「連結・切り離し作業者」としての役割を担うことになります。

遠隔監視室では、複数のモニターを通じて車両のカメラ映像やシステムの状態を常時監視。車両は基本的には自律走行しますが、異常時や緊急時には遠隔監視者がシステムを通じて停止措置を行ったり、ワイパーやヘッドライトの操作を行ったりすることが可能です。また、貨物エリアでは、車両の運転から解放された作業員が貨物の連結や切り離し作業に専念することで、作業効率の向上が図られます。

今回の実用化は通過点に過ず、ANAは2025年度中に羽田空港での導入台数を現在の3台から6台へ増車し、将来的には2030年までに50台規模への拡大を目指しているとのこと。JALも同様に、2025年夏までに羽田で2台を追加。成田では2025年度中に4台を追加する計画であり、5年後には50台規模の導入を視野に入れています。

今後の課題としては、導入コストの低減や、雨天・濃霧などの悪天候下におけるセンサー性能の維持などが挙げられます。今回の実用化にあたっても、雨粒を障害物として誤検知しないようフィルタリング調整が行われるなど、AIのチューニングが重ねられているとのこと。

また、現状ではJALとANAで異なるシステムを採用しているが、国土交通省は「空港DX技術実装推進会議(仮称)」の設置を表明しており、官民の枠を超えた技術協力や標準化が進むことが期待されています。
日本の空港における「グランドハンドリング業務のAI化・無人化」は、世界的な空港間競争における競争力確保のためにも重要なステップ。自動運転レベル4の実用化は、航空業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の象徴的な事例として、今後は国内他空港への導入など展開が注目されます。











