バッテリーやe-Axle部品の素材として、住友ベークライトの樹脂材がメリットを発揮する理由とは?…人とくるまのテクノロジー展2025

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「Composite Battery Module(CBM)コンセプト」
  • 「Composite Battery Module(CBM)コンセプト」
  • 「Composite Battery Module(CBM)コンセプト」
  • 住友ベークライトのフェノール樹脂成形材料
  • 「Composite Battery Module(CBM)コンセプト」
  • CBMコンセプトのエンドプレート(上)とセル接続と冷却機能を統合した一体プレート「ICCP」(下)
  • 「Composite Battery Module(CBM)コンセプト」
  • 「PM-5820」では耐火性を大幅に高めた
  • 住友ベークライト HPP技術開発研究所 複合材料部品開発研究部 グループリーダーの井川亮一氏

住友ベークライトは、「人とくるまのテクノロジー展2025 YOKOHAMA」(パシフィコ横浜、会期:5月21日~23日)に出展。「"樹脂化"新たな価値の創造をともに!」をテーマに、電動化・小型軽量化、運転支援、環境の展示を通して様々なソリューションを出展した。

電気自動車(EV)への流れに一服感が出ているとされる一方で、最終的には電動化が終着点となるというのは業界関係者の一致した見方だ。しかし、電動化を進めていくには様々な課題があるのも事実で、バッテリーによる重量増や耐火性も課題の一つとして立ちはだかる。そうした中で住友ベークライトは、その解決につなげるべく、この領域に得意の樹脂材を活用した様々なソリューションを提案している。

ここではその中から、注目の技術として、“電動化・小型軽量化”分野における「バッテリーソリューション」(CBMコンセプト)と「樹脂化e-Axleソリューション」(ロータ、ステータ)の2つを紹介したい。

住友ベークライトブース(人とくるまのテクノロジー展2025)住友ベークライトブース(人とくるまのテクノロジー展2025)

乗員の安全を守る耐火性に優れたフェノール樹脂成形材料

「Composite Battery Module(CBM)コンセプト」は、既存のEVバッテリーモジュールのハウジング設計を再評価し、熱硬化性樹脂複合材料を使用した代替構造を探索・提案することを目的に材料開発と実証が進められている。熱暴走に代表されるEVバッテリーの課題解決に貢献することが期待され、そのポイントは材料として火にさらされても融けることがない耐火性と耐燃焼性に優れたフェノール樹脂を活用していることにある。これにより、EVバッテリー内で熱暴走が発生した際にその進行を抑制する効果が期待できる。

「Composite Battery Module(CBM)コンセプト」「Composite Battery Module(CBM)コンセプト」

熱暴走とはバッテリー内部の温度が急上昇し、制御不能となる状態を指すもので、この状態になると最悪の場合、火災や爆発につながる。しかし、EVバッテリーは航続距離の延長を図るために大容量化が進み、さらに充電時間の短縮のために充電器の高出力への対応が図られている現状では、この発生リスクを一定程度、想定しておく必要があるとも言える。

同社HPP技術開発研究所 複合材料部品開発研究部 グループリーダーの井川亮一氏は、「熱暴走が発生すると抑えることは難しく、その対応策として最良なのは、いかに熱暴走の広がりを抑えて乗員が脱出できる時間を稼ぐかということ」と話す。

そして、「そのために役立つのが熱硬化性樹脂の優れた耐火性」(井川氏)だという。この素材は加熱しても融けることはないという特徴を持ち、住友ベークライトではこの材料として、フェノール樹脂や不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂を用いた成形材料を提案している。特に耐火性に優れたフェノール樹脂成形材料ではバッテリー部品専用とした「PM-5800」シリーズをラインナップし、すでに採用も広がっているそうだ。

住友ベークライト HPP技術開発研究所 複合材料部品開発研究部 グループリーダーの井川亮一氏住友ベークライト HPP技術開発研究所 複合材料部品開発研究部 グループリーダーの井川亮一氏

これを踏まえ、同社ではさらなる安全性向上に貢献するべく、耐火性を大幅に高めたフェノール樹脂成形材料「PM-5820」を開発。井川氏によれば「その耐火性は極めて高く、難燃性UL94V試験に用いられる標準バーナーよりも40倍以上強い火力のトーチバーナーで、連続約10分間にわたって火炎を浴びても材料の変形や灰下進行を抑制できる実力を示した」という。

また、フェノール樹脂成形材料のもう一つの特徴として挙げられるのが優れた射出成形性だ。これによって従来の材料では難しかった形状自由度の課題も解決でき、EVバッテリー部品の省スペース化や安全性向上にも貢献できるものとして期待される。

CBMコンセプトのエンドプレート(上)とセル接続と冷却機能を統合した一体プレート「ICCP」(下)CBMコンセプトのエンドプレート(上)とセル接続と冷却機能を統合した一体プレート「ICCP」(下)

会場では、このフェノール樹脂成形材料で培った技術をベースにドイツのFraunhofer研究機構と共同で開発したCBMコンセプトのモックアップを出展。熱暴走発生時に効果的な耐火シート&バーストバルブプレートやエンドプレートを組み合わせ、さらにはセル接続と冷却機能を統合した一体プレートを組み込んだ一例を紹介した。CBMコンセプトの動作試験は今夏にかけて実施し、動作試験によるデータを取得する計画としている。

ロータ磁石固定材料やステータ封止材料にエポキシ樹脂を活用

EVで使われる駆動用モーターの性能がアップしていく中で、表面化しつつあるのが熱損失による影響だ。これを放っておけばせっかくの駆動電圧800Vや高速回転化といったモーターの小型化技術のメリットが活かせなくなってしまう。そんな中で注目されているのが住友ベークライトが開発したエポキシ樹脂成形材料である。

元々は半導体の封止材として使われてきた材料で、実は住友ベークライトはこの分野で世界3割のトップシェアを獲得している。本来、半導体は負荷に応じて熱を持ちやすくなるが、封止材は放熱にも役立つ。そこでこの技術を駆動用モーターのロータ磁石固定材に転用することにより、磁石で発生した熱を樹脂やコアを介して外部に逃がしやすくするのだ。中国のテルビウム・ジシプロシウムの輸出規制で重希土フリー磁石になる動きもあり、そうなると磁石のキュリー温度が下がる。その分の耐熱性補完として、磁石固定材で放熱することがメリットにつながる。

しかも、このロータ磁石固定材料に新規開発した易解体エポキシ樹脂材料を使うことで環境面でのメリットもある。これまでの樹脂は700~900度という高温で焼き切ってロータから磁石を取り出していたが、易解体エポキシ樹脂の場合、脱磁の際の300~400度程度の熱処理で、磁石が取り出しやすいよう樹脂にひび割れが生じる。これにより、貴重なネオジムなどの磁石をリサイクルしやすい状態にすることができ、環境対応にもつながるのだ。

ロータ磁石固定材料にエポキシ樹脂材料を使用(左)ロータ磁石固定材料にエポキシ樹脂材料を使用(左)

そして、今回、新たに住友ベークライトが提案するのが、ロータだけにとどまらず、ステータにもエポキシ樹脂成形材による封止を活用するというものだ。これまでステータには絶縁紙が数多く使われてきたが、絶縁紙は銅線コイルとコアの間に挟むことで絶縁性を確保する。住友ベークライト グローバルマーケティング本部 先進モビリティ部の松元颯太郎氏によれば、「絶縁紙には放熱性が低い弱点があり、隙間もできやすく空気が入ると熱がたまって熱損失が増える」という弱点を抱えていたという。

さらにこの絶縁紙をステータに挿入する際は、引っかかりができて不良発生の要因にもなる。これをエポキシ樹脂成形材に置き換えることで、空隙がなく表面平滑で均一な絶縁層ができ、これが高い放熱効果を生み出して「絶縁紙を使ったときよりも倍以上の効率化が狙える」(松元氏)という。次の工程であるワニス含侵でのコイル封止の代替材としても、このエポキシ樹脂成形材料は使用することができ、放熱性に加えて、使用材料が1つで済むこともメリットだ。

ステータにエポキシ樹脂成形材による封止を活用ステータにエポキシ樹脂成形材による封止を活用ステータにエポキシ樹脂成形材による封止を活用ステータにエポキシ樹脂成形材による封止を活用

エポキシ樹脂成形材は、e-Axleソリューション全体の軽量化につながるのは言うまでもなく、それは電動車の効率アップやユニットの小型化にも大きく貢献する。さらには効率が上がることで環境に対してもメリットをもたらす。その意味でも電動化が進んでいく中で、エポキシ樹脂成形材に対する期待度はきわめて大きいと言えるだろう。

会場ではロータ磁石固定材料やステータ封止材料など、樹脂化e-Axleソリューションに対応したエポキシ樹脂成形材の実物を展示していた。この実物に触ってみて実感したのは、樹脂材を通してコアの質感をそのまま伝えてくる一体成形の密度の高さだ。松元氏によれば、「メリットを感じていただいていて、市場に出ているものあり、現在も多くのメーカーで検討中」とし、ステータ封止にもエポキシ樹脂成形材が使われることへの期待を示した。

電動化材料として貢献する樹脂の開発に注力

今回の出展を踏まえ、住友ベークライトは樹脂による封止材をどのように発展させていくのだろうか。今後の展望を松元氏に聞いた。

まずEVの現状について松元氏は、「EV車の普及には一時的なトーンダウンが見られるものの、将来的には再び需要が高まると予想している」とした上で、そのためにも「弊社としては電動化材料として寄与できるように(これまで通り)樹脂の開発に注力していく方針」と話す。

その理由として松元氏は、「樹脂材料は軽量化や耐熱性以外の面でも、バッテリーセルの高温時の膨張を押さえつける役割や、高電圧化に対応するための絶縁材としても利用できる」ことを挙げ、熱暴走のリスクを抱える電動化を進めていく中で、樹脂材としての樹脂材料の優位性を強調。そのため、樹脂材は今後も需要が伸びていくと予想する。

次世代のバッテリーとして発火しにくい全個体電池への期待もあるが、松元氏は「安全性の高い全固体電池の量産化には時間がかかるであろうし、出力は上げにくいと聞いている」とし、むしろ「まだまだ現行のリチウムイオン電池が主流だろう」との考えを示した。

また松元氏は発火しにくいとされるリン酸鉄リチウムイオン電池が見直されている状況にも言及。「“リン酸鉄系バッテリー”は材料が確保しやすいことから普及が進み始めているが、バッテリーの特性としては三元系に優位性があるのは間違いない。しかも、リン酸鉄系にしろ、発火しないわけではない。なので、安全面を考慮すれば、仮にリン酸鉄系にシフトが始まっても樹脂材の需要がなくなることはない」との見方を示した。

住友ベークライト グローバルマーケティング本部先進モビリティ部 松元颯太郎氏住友ベークライト グローバルマーケティング本部先進モビリティ部 松元颯太郎氏

自動車の電動化が進む中で、住友ベークライトが進める樹脂材料は軽量化と耐火性、そして環境への貢献といった面で優位性を発揮する。半導体で培ったこれまでの経験が自動車の電動化においても貢献を果たしていくことに期待したい。

住友ベークライトのソリューション詳細はこちら
《会田肇》

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