「半導体封止剤・樹脂成形材料の巨人」住友ベークライトが自動車分野に見せる“野心”とは

フェノール樹脂成形材料を使用した住友ベークライトの半導体封止剤
  • フェノール樹脂成形材料を使用した住友ベークライトの半導体封止剤
  • パワーモジュールのNG品と
  • エポキシ樹脂成形材料を使用したICCP(Integrated Connection & Cooling Plate)
  • 開発中のピンフィン一体基盤と、18W/(m・k)級回路銅厚0.5mm基板
  • 樹脂化e-アクスル
  • ステーターコイル封止
  • ステーターコイル封止
  • トランスミッションコントロールユニット

9月初旬、都内で住友ベークライトが機関投資家、IRやプレス関係者に事業説明会を行った。フェノール樹脂をはじめとする高機能プラスチックや食品・医薬品に用いられるフィルム・シート、医療用のカテーテルやステントに産業機能性材料など、化学メーカーとして事業領域の多岐に渡る同社としては意外なようだが、この種の催しは初という。


◆“One Sumibe”で枠にとらわれない組織体制を

会頭の挨拶に立った藤原一彦代表取締役会長は、「事業計画を紹介するのは、自信があればこそ、顧客がいるからこそ。すべての商品に100%の期待をかける訳ではないが、社内で“One Sumibe”活動を進め、隣から学ぶ姿勢の大切さを強調しています」と述べた。“One Sumibe”活動とは、開発から提案まで、社内の有識者を集めて環境・社会課題・経済的合理性を統合しながら事業設計まで行う、既存枠にとらわれない組織体制を指す。

続いて鍛冶屋伸一代表取締役社長が事業戦略を説明。「ビジョン2030」をキーワードに、現状(2023年末期)の事業利益275億円・事業利益率9.6%・ROE 7.8%から、2026年中期に同400億円・11.5%・9.0%への成長を、2030年には同550億円・13.0%・10.0%を実現させ、2026年までに製品ポートフォリオ変革を実行、次期中期計画では事業ポートフォリオ変革にかかるという。

基本的には既存事業での収益力を強化しながらも、DXやGXのトレンドに沿って、発電から送電・変圧を含む電力系統、AIデータセンターやGPUボード、電動化とSDV化が進む車などのモビリティやロボットなどのエッジデバイスという3分野に注力し、中国やインドでの成長を重視する。

もちろん同時に2050年にネットゼロを目指すカーボンニュートラル化も加速させ、CO2排出量を2013年度比の46%減にするという2030年目標を2023年度、前倒しで達成している。多彩な素材や部材の需要の高まりのみならず、カーボンフットプリント低減やリサイクルまで含めたLCA(ライフサイクルアセスメント)の面でも寄与・関与する可能性が、同社のアドバンテージといえそうだ。

◆半導体関連材料に強み、急増する高熱伝導樹脂の需要

半導体封止剤では世界シェア首位を誇る通り、半導体関連材料は同社の得意とする領域だが、担当の倉知圭介専務取締役執行役員によれば、欧米の市況が芳しくない一方で中国市場の伸長は衰えず、台湾や東南アジアのスポット需要が回復し始めているという。

中国は半導体の半数以上をいまだ輸入に頼る状況ながら内製化は急拡大しており、同社が新たに建てた蘇州の新工場は立ち上がり好調で、年内フル稼働へと移行するそうだ。AI関連はロボット、ドローン、車載といったミッドティア用途が順調に拡大している中で、外部の大学や研究所との協業を強化しつつ、社内にパワー関連材料開発の専門チームを立ち上げ、顧客への提案力を強化している。


《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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