今回のワンポイント確認は、「航続可能距離559kmを謳うbZ4Xは、電気自動車苦手意識MAXの私の不安を払拭できるのか」である。
電気自動車(EV)に対する世間の心理的バリアが下がった昨今にあっても、私の不安は減らない。以前のトラウマ(電欠寸前で胃が縮んだ)が強く残っているからだ。なかなか試乗する勇気が出ないまま過ごしていたものの、今回は140km先に“確実に充電スポットがある場所(しかも屋根付き)”に目的地を設定することで安全を確保し、試乗へと繰り出した。トヨタ『bZ4X』の満充電での航続可能距離は、559km(「Z」の場合)。ふつうに考えればノー充電で十分往復できるはず、である。
試乗車を受け取ると、充電の表示は100%。しかし、インパネには航続可能距離は408kmとある。この数字は、私の前に試乗した人の走行パターンで算出しているため、き、き、きっと電費の悪い走行だったのだろう、た、た、たぶん私のそーっと走る運転なら大丈夫(すでに腰が引けている)と心を無理やり落ち着けて乗り込んだ。
◆なるほど、そうきたか。

まず、デザイン。ボディを構成しているのは、シャープで直線的なラインであるのに対し、全体のイメージはボリュームのある塊感。かなり目立つ存在感を放っている。シートは高級なソファのような座り心地。着座位置が高く、ついでに足元の床も高めだ。後席もゆったり広いのだがやはり床が高くて、床下にバッテリーなどの内蔵物が敷き詰められていることを感じさせる。
なにせ車両総重量は2t超えだ。走り出すと下半身の重量感が伝わってくる。もちろん、4WDゆえの重心の低さ感もあるだろう。しかし、走りはいたって軽やかでスムーズ。電気自動車=モーターなので当たり前なのだが、重さをものともしない躊躇のない加速感だ。電気自動車のなめらかな動きはやはり心地よく美しい。
ここでエアコンをオンにする。この日は春とはいえ寒の戻りの寒さで外気温は6度。電気消費量を温存するためにエアコンをオフ……では本末転倒ゆえ、いつもどおり快適な車内空間を保ちつつ走ることにして24度に設定した、のだがスイッチを入れたとたん、407kmだった航続可能距離が380kmに下がる。エアコンの電力消費分を加味すると走れるのはこの距離というわけだ。なるほど、そうきたか。

でも、私にとってはこれも想定内である。電化製品を使えば電気は消費するのだ。当たり前ではないか。ただ問題は、この数字があてにならないということである。正直に書こう。このあと、高速道路を使って北上していくと、実際の走行距離より約1.5倍の速さで航続可能距離が減っていくのである。そんなー。高速道路は回生ブレーキ(減速のたびに電力を回収して貯めこむ)を使う機会が少ないとはいえ、数十分も走れば「高速道路の走行パターン」を学べるのではないか。それを元に計算してくれればいいものを!
結局、140km先の目的地の到着したときは、電気残量は48%まで減り、航続可能距離は、185kmになっていた。185kmが宛てにならないことは、すでにわかっている。これでは、充電しないと戻ってこられないではないか。
◆QUICK充電はもう怖くはない

そして私は、人生2回目のQUICK充電(急速充電)を体験することになった。ただ、充電器がよくできていてお姉さん(注・おばちゃんではない)にでもわかるようにやり方を教えてくれる。恐れるな諸君。QUICK充電はもう怖くはない。でも、48%から満充電するまで、1時間45分かかるというのは、ちょっとつらい。
さらに、この場所で設定されていたのは一回の充電につき30分までということだ。その場にとどまるには長く、買い物をするには短い時間である。せめて1時間にしてくれたらいいのに。それも順番待ちができるから、むずかしいのか……。
今回は、商業施設の立体駐車場中だったので屋根があるからいいけれど、高速道路のサービスエリアではほとんど屋根がなく、やはり雨風のある日は絶対、やりたくないと思ってしまう。こう考えると、多くのガソリンスタンドはセルフであっても屋根のあるところが多い(都内は特に)ことに感謝である。

ちなみに、改めて思ったのは、ハンドル&シートヒーターの重要性である。bZ4Xは車内空間が広いこともあり、特に一人で乗るときは車内全体を温めるのは効率が悪い。でも、ハンドルやシートが温かければ、車内温度はそこそこでも快適なのだ。特に、末端冷え性&腰が冷えがちな女性にとっては、この機能はめちゃくちゃ利用価値が高いと思った。
◆せめて航続可能距離がもう少しリアルに表示してもらえたら
今回のワンポイント確認「航続可能距離559kmを謳うbZ4Xは、電気自動車苦手意識MAXの私の不安を払拭できるのか」は、自分のクルマの電力消費量を感覚的につかめるようになれば、かなり払拭できる。それに、一日の走行距離が100km程度(通勤とかね)なら十分に相棒として成り立つ。でも、ときに長距離という場合は、充電時間込みの移動時間や、どこで充電ストップするかの旅行計画がやたら面倒なのでまだまだ厳しい。
せめて航続可能距離がもう少しリアルに表示してもらえたら完全払拭なのに、であった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。