トヨタがWECに参戦する意義【池田直渡の着眼大局】

トヨタ GR010 ハイブリッド 7号車、8号車(WEC 富士6時間耐久レース 2024)
  • トヨタ GR010 ハイブリッド 7号車、8号車(WEC 富士6時間耐久レース 2024)
  • FIA 世界耐久選手権(WEC) 富士6時間耐久レース 2024
  • FIA 世界耐久選手権(WEC) 富士6時間耐久レース 2024
  • トヨタ GR010 ハイブリッド 7号車(WEC 富士6時間耐久レース 2024)
  • トヨタ GR010 ハイブリッド 8号車(WEC 富士6時間耐久レース 2024)
  • トヨタ GR010 ハイブリッド 7号車(WEC 富士6時間耐久レース 2024)
  • トヨタ GR010 ハイブリッド 8号車(WEC 富士6時間耐久レース 2024)
  • トヨタ GR010 ハイブリッド 8号車(WEC 富士6時間耐久レース 2024)

トヨタが関わっているモータースポーツのカテゴリーは様々で、ラリー、WEC、スーパー耐久、スーパーGTなど多岐にわたる。ところが、モータースポーツのカテゴリーはいつの時代もややこしい。色んな例外があったり、サブカテゴリーが一緒に開催されたり、レギュレーションが変わったりを繰り返し、よっぽどの専門家でない限り正しくは理解できない。

競技としてのイコールコンディションを定めるという基本線に加えて、興行としてエントラントをたくさん集めるという商売の話、それに同じくちゃんと盛り上がるレースにして、その結果観客からお金が取れるという生々しい話が入り乱れて、厳格な割に矛盾も大いに孕んでいる複雑な事情が背景にあるのだ。

御多分に洩れず、レギュレーションについては、筆者も極めてざっくりとしかわかっていないが、仮にわかっていたとしても正確に書いたらほとんどの人が途中で読むのを投げ出してしまうくらい複雑である。改めてちょっと調べ直して、こりゃいかんと諦めた。多くの読者はおそらくさらにちんぷんかんぷんだと思われるので、多少乱暴であってもひとまず概要だけでもわかる程度の説を始めよう。レベルが低いとお怒りの向きもいるかも知れないが、初心者に向けた簡易的な解説も必要だと思うのだ。


複雑なレースの世界

国際自動車連盟(FIA)は世界最古のレースとされる「パリ-ルーアン」に端を発するグローバルなレースの胴元。1980年頃の筆者の古い記憶では、FIAの下部組織であったFISAのジャン=マリー・バレストルが、F1製造者組合であったFOCAのバーニー・エクレストンと主導権争いの抗争を繰り返すなど、さすがは興行の世界というややこしさを発揮した。ちなみにバレストルはフランス人、エクレストンはイギリス人で、対立構造としてはフランスの興行サイド対英国のコンストラクターと背景的にも確かに簡単にはまとまりそうもない。

時代を下るに連れ、戦国の様相は徐々に収まり、1991年にマックス・モズレーが両組織の会長に就任することで、一応の統一が図られた。このあたり細かく説明するともっと魑魅魍魎の世界なので簡単な説明でやめておく。

要するにレースの世界というのは、色々と金が掛かる。安全対策と各社が勝利を目指す結果の性能向上は、鰻登りに費用の増加を招き、そうなると資金力によって勝ち組と負け組にわかれて、勝てない人たちが参戦を諦めてエントラントが減るので、興行側としては大いに困る。あるいはレギュレーションが固定化すると毎回同じクルマが勝つようになってレースがつまらなくなる。耐久レースの歴史を紐解けば、特定の車種が勝ちまくってはレギュレーションが変わってきた歴史と言っても良い。

常勝チームの固定を嫌う興行側と、ルールが変わる度に新レギュレーションに合致する車両を開発しなければならなくなる自動車メーカー側(ややこしいがここも勝っている側と負けている側ではまた言い分が異なる)はルールをめぐって常に対立構造にあり、紛糾の元なのだ。現在も「BoP(バランス・オブ・パフォーマンス)*」と呼ばれるハンデの設定では毎度不満が吹き上がる。

ただし、この新しいレギュレーションであるBoPは、あらゆるハードウエアを超えて、レースが成立することを目指している。ただし、こういうレギュレーションはいつも課題を抱えており、本来イコールコンディションを保つことが目的のBoPだが、現実にはレース結果を左右するのはBoPのハンデ次第というところもあり、その公平性や決定過程に疑義が突きつけられるのもいつものことだ。

始めからネガティブな話だらけだったが、レースには常にそういう側面があって、全てのカテゴリーは様々な利益の調整で成り立っているのだ。

ルマンからWEC、世界選手権に参戦する意義

さて、FIAのカテゴリーは主に3つに分かれている。あくまでもざっくりとなのはご理解いただきたい。細かい話をするとキリがないのだ。

ひとつ目はF1に代表されるオープンホイールのフォーミュラカー。ふたつ目はWECのハイパーカーに代表される2座(まあ本当に2人座れるわけではないが)のプロトタイプスポーツカー。3つ目が市販車をベースにしたプロダクションカー、つまり市販車ベースの競技である。プロダクションカーはサーキットレースの他にラリーカテゴリーもある。さらにそれぞれのカテゴリーが細分化された規定がある。

さて今回のテーマはWECなので、そこを少し解説しよう。WECとはWorld Endurance Championshipの頭文字を取ったもので、FIAの定める最短6時間の耐久レースカテゴリーである。


《池田直渡》

池田直渡

自動車ジャーナリスト / 自動車経済評論家。1965年神奈川県生まれ。1988年ネコ・パブリッシング入社。2006年に退社後ビジネスニュースサイト編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。近年では、自動車メーカー各社の決算分析記事や、カーボンニュートラル対応、電動化戦略など、企業戦略軸と商品軸を重ねて分析する記事が多い。YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。著書に『スピリット・オブ・ザ・ロードスタ ー』(プレジデント社刊)、『EV(電気自動車)推進の罠「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス刊)がある。

+ 続きを読む

特集