【BMW M3ツーリング 新型試乗】ピュア内燃機関の存在意義、そこに“駆け抜ける歓び”がある…西村直人

BMW M3ツーリング(M3 Competition M xDrive ツーリング)
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◆見るからにただ者ではない、510psのスーパーワゴン

迫力満点の見た目から扱うのに苦労しそうな印象を抱いた。全長4805mm、全幅1905mm、全高1435mmと、数値上はちょっと幅広な『3シリーズ・ツーリング』だが、実車はグッと幅広で眼力いっそう強く、威圧感があるからだ。前後のひときわふくよかなブリスターフェンダーには、サーキット走行を前提にした前275/35R19:後285/30R20のワイド&大径タイヤが収まる。

こんなに細いスポークのホイールで510psのハイパワーを受け止めるのか……、と驚いた標準装着の「M 鍛造ホイール」(ダブルスポーク・スタイリング826M)。奥には金色に塗装されたキャリパーと組み合わされる「M カーボン・セラミック・ブレーキ」(107万5000円のオプション装備)が顔をのぞかせる。もっとも、立体式の駐車場ではパレットにガリッとやってしまう心配が先にくるが(トレッドは前1615mm、後1605mm)、いずれにしろただ者ではない雰囲気は十分だ。

BMW『M3ツーリング』のベースモデルはBMW 3シリーズ・ツーリング。現在、日本市場において直列4気筒2.0リットルガソリンターボ(「318i」として156ps/250Nm、「320i」として184ps/300Nm)、同ディーゼルターボ(190ps/400Nm)、直列6気筒3.0リットルガソリンターボ(387ps/500Nm)を用意する。そのスポーツモデルが今回のMモデルだ。

BMW M3ツーリング(M3 Competition M xDrive ツーリング)BMW M3ツーリング(M3 Competition M xDrive ツーリング)

今回試乗したのはステーションワゴンボディの「M3 Competition M xDrive ツーリング」で車両本体価格は1420万円。試乗車はこれに264万3000円のオプション装備品が加わり、しめて1684万3000円(車載スペックシート記載の税込価格)。

「S58B30A」型を名乗る搭載エンジンは直列6気筒3.0リットルガソリンターボ(510ps/650Nm)で、これに8速AT(8速Mステップトロニック・トランスミッション/Drivelogic付)を組み合わせ、xDriveを通じて4輪に駆動力を伝える。車両重量は1870kgとハイパワー化に伴い各部を補強したにもかかわらず、パノラマ・ガラス・サンルーフを装着した「M340i xDrive ツーリング」(1104万円/HP記載の価格)に対して僅か30kgの増加に留めた。

ちなみに同排気量のM340i xDrive ツーリングが搭載するのは「B58B30B」型でトランスミッションは標準の8速AT(スポーツ・オートマチック・トランスミッション ステップトロニック/シフト・パドル付)。ファイナルギヤの値は約11%ハイギヤード化され、1~3速までギヤ段の値をローギヤード化している。

◆3シリーズベースならではの親しみやすさ

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M3 Competition M xDrive ツーリングの周りとぐるりと確認する。「Mブルックリン・グレー(メタリック)」のボディカラーは明るめの色合いでボディの抑揚をしっかりとみせつつ、外光が弱くなると一転して深みのある色調を醸し出す。インテリアでは白と黒のハイコントラストが際立つ「レザー・メリノシルバーストーン/ブラック|ブラック」(オプションカラー)が選択されていたが、ボディカラーであるグレーカラーとの相性がとてもいい。

運転席に収まると第一印象で抱いた扱いにくさを感じることはなかった。幅広になったとはいえそこは3シリーズ。左前方向の見切りも良好だし、車幅感覚もつかみやすい。シフト操作部やディスプレイでの各種調整、ステアリングスイッチなどの操作性が高いこともハイパワースポーツモデルながら親近感がわく。

細かなことだが、エンジンをかけずともシート、ステアリング、ドアミラーの電動調整機構が働くのはありがたい。これはBMW(ブランド)の伝統で、他ブランドでも同じ傾向だが、未だドアミラーの鏡面調整にはエンジン始動を求める場合がほとんど。エコだ、SDGsだと謳うなら、こうした細かな配慮もほしい。

◆ハードな乗り味でも意外なほど疲れない

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駐車場から一般道路へ。ゆっくりとした日常走行領域での利便性がしっかり確保されている。シフトノブに配置されたシフトスケジュール変更モードでノーマル状態を選択すれば、ゆっくり走らせた際のギクシャク感もない。

乗り味はさすがにハードだが、ボディ本体の剛性とサスペンションの各部取り付け剛性が高く、さらにダンパーの高い減衰力もスッと立ち上がることから、乗り味に角がない。

もっとも、電子制御式の可変ダンパーシステムである「Mアダプティブ・サスペンション」のシャシー機能をコンフォートモードにしていても、段差の乗り越えでは「ダ、ダン」という前後ワイドタイヤが乗り越える衝撃音が車内に入り込むが、視線は大きく上下に乱されないから運転していて疲れない。

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低速域では若干、エキゾーストサウンドが大きいと感じたものの、車外で確認するとそれほどでもなかった。また、ステーションワゴンボディだから車内へのこもり音も気になるが、こちらはどのエンジン回転域でも抑えられていた。

最小回転半径は5.3mと取り回しも良好だ。標準ボディのM340i xDrive ツーリングは5.7m(前後19インチタイヤを装着)。これはボディのワイド化(1825mm→1905mm)によりタイヤの切れ角が増えていることに起因するようだ。

◆「緻密で高精度」これぞM3ツーリングの真骨頂

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本領を発揮するのはやはり高い車速域。高速道路の120km/h区間ではヒタッと路面にはりつく感覚が強くなる。標準ボディに対して大げさな空力パーツの追加はないが、標準ボディから250km/h以上での空力性能が考慮されていることから、路面が多少荒れていようとも直進安定性がともかく高い。精度の高さは、運転支援技術の車線中央維持機能を含む「ステアリング&レーン・コントロール・アシスト」を必要としないほどだ。

走行性能はたいしたものだ。じんわり踏み込んだだけですぐさま力強く加速を開始する。ツインターボユニットはターボラグをほぼ感じさず2750~5500回転の間で最大トルク値650Nmを発揮する。よって、登り勾配であってもクルージングのギヤ段のまま平坦路であるかように速度を淡々と上げていく。

個人的に良いなと感じたのは巡航時の速度維持がやりやすいことだ。当然ながらアダプティブ・クルーズ・コントロールを標準で装備するが、せっかくならみっちりと詰まったエンジンフィールを右足でコントロールしたくなる。そうした際も、ともかくトルクが豊かなので右足にシビアなアクセル調整を求めてこない。それでいて、少しだけ加速したい時には微妙な操作をちゃんと理解して応えてくれる。「緻密で高精度」、これがM3ツーリングの真骨頂だ。

長年、オルガン式のアクセルペダルを採用するBMWだが、実用モデルから今回のようなハイパワースポーツモデルにいたるまで操作系に時間をかけて開発してきたことが功を奏しているのだと改めて実感した。Mカーボン・セラミック・ブレーキも冷感時からコントロール性が良好で、ペダル踏力によるコントロール性もすばらしかった。

BMW M3ツーリング(M3 Competition M xDrive ツーリング)BMW M3ツーリング(M3 Competition M xDrive ツーリング)

◆ピュア内燃機関モデルの存在意義も忘れていない

今回の執筆にあたり、筆者は最新世代の『M2クーペ』、『M4クーペ』、そして今回のM3ツーリングを立て続けに試乗してきたが、ものすごく高い動力性能と市街地での乗りやすさの両立には一貫性がある。その上で、M2では軽快さを、M4クーペでは豪快さを、そしてM3ツーリングでは高い実用性があることも理解できた。

昨今のBMWはi/iXシリーズの大幅拡充にみられるようにBEV推しの一面をみせる。加えて電動車のひとつプラグインハイブリッド/マイルドハイブリッドなどもラインアップに加えているが、Mシリーズのようにピュア内燃機関モデルの存在意義も忘れていない。これは素直にうれしいことだ。

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西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

《西村直人@NAC》

西村直人@NAC

クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

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