EV開発における攻めと守りのAI活用、新たな顧客体験やサービスからセキュリティまで…日本アイ・ビー・エム 鈴木のり子氏[インタビュー]

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IBMインスティテュート・フォー・ビジネス・バリュー自動車産業リーダーの鈴木のり子氏
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  • ソニー・ホンダモビリティとマイクロソフトが協業を発表(CES 2024)
  • メルセデスベンツはMBOSを発表(CES 2024)
  • またボッシュはドライバーレスで、駐車から充電まで完結するバレーパーキング機能を発表した(CES 2024)
  • CES 2024
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EV化が進む中、IT技術やAIの重要性がより一層高まっている。日本アイ・ビー・エム IBMインスティテュート・フォー・ビジネス・バリュー オートモーティブ&エレクトロニック・インダストリー グローバル・リサーチ・リーダーの鈴木のり子氏は、EV市場の現状と今後、またその開発におけるAI導入の傾向や可能性についてどう考えているか。

2月21日に開催されるオンラインセミナー「CES2024レビュー EVとAIから自動車産業の未来を探る」を前に、話を聞いた。

EV市場・開発投資の現状と今後の見通し

---:EV化が進んでIT技術の果たす割合が増える中で、昨今はAIへの関心が高まっています。IBMが昨年実施したスタディで、2030年までに全世界のEV販売シェアは40%と予測されていますが、今の市場概要をどう捉えますか。

鈴木のり子氏(以下敬称略) : コロナ禍以降、EV市場は伸びていくとの見通しでしたが、去年から北米や欧州市場ではEV販売の伸びがスローダウンするなど、揺り戻しが見られます。アメリカ市場でもEV販売が思っていたほど立ち上がらず、トヨタ『プリウス』に定価以上のプレミアムがついているほどです。ただ短期的な盛り上がりは下がったように見えますが、長期的な電動化の流れは続くでしょう。

---:では一時的に踊り場に差しかかっているとはいえ、電動化が止まるわけではない、と。

鈴木:自動車業界の方々と話していても、長期的視点での投資意欲は衰えていません。IBMの調査では、自動車メーカーは内燃機関への投資を減らし、その分EV投資を増やしていますが、現状ではメディアで出ている話と現実の間に多少の乖離があると感じます。

ミュンヘンのIAAモビリティショーなどでEVを積極的に発信しているドイツやアメリカの自動車メーカーも、EVへの投資が内燃機関を上回るのは2025年以降ですから、まだ投資配分では内燃機関の方が主流なんです。その辺りはドイツ勢をはじめ海外メーカーが、巧いコミュニケーションをしています。自動車産業の特徴として、テクノロジーを大手サプライヤが預かっている面もあります。ドイツでいうとプレミアブランドが、新しいテクノロジーを真っ先に導入してボリュームゾーンへと裾野が広がっていきます。

---:VWのような伝統的な大衆車ブランドの取り組み、そして日本の自動車メーカーのEV化の流れに遅れたという指摘については、どのように見ていますか?

鈴木:グループ内ではアウディというプレミアブランドがあるので、そこから電動に入って、ソフトウェア開発を担当するCARIAD(カリアド)も立ち上げるなど、急激にリソースのシフトを進める動きがありましたが、そう簡単にはいかないようです。日本車メーカーも遅れているとはいわれてきましたが、新しい予算はどんどんEVにいくという話は、お客さまから耳にします。投資から商品として世に出るには時間がかりますし、日本メーカーも攻勢に出るのではないでしょうか。最初のターゲットは日本市場ではなく北米など先行する市場だと思います。まだ巻き返しは十分可能だと考えます。

---:とはいえ今年は大統領選挙、そして米中関係の冷え込みといった外的要因があります。その辺りはどのように考えますか。

鈴木 : 北米市場は面白い市場で、カリフォルニア州をはじめ北東部など環境規制が厳しい州や都市部には、政府補助金を使いこなすホワイトカラーや高収入層が集中しています。そういう地域でEV化が進む一方で、その他90%以上の広い地域では相変わらず燃費が悪いピックアップトラックが売れていて米国メーカーの収益源だったりします。バイデン政権が続くのなら、インフレ抑制法の力でインフラ整備が進むでしょうし、連邦政府、州政府レベルのインセンティブも増えていくでしょう。それらの恩恵に預かる大都市は多々あります。

それでも、大統領選の帰趨によってひっくり返されるリスクはあります。中国の話題については、IAAモビリティやジャパンモビリティショーでは攻勢をかける意志を見せましたが、CES 2024にBYDなどが不在だったことは驚きです。米中関係という政治状況は影響しているとはいえ、中国は電池材料となるリチウム生産で世界3位で、市場としても先行しており、EVトレンドの動向のひとつとして見逃せません。

SDVにAIはどう活用・搭載されるか? CESでの注目トピックスは

---:では商品とサービスの観点から、これまでもSDVの重要性が盛んにいわれてきましたが、AIによる高度な機能は、どのようなところに用いられ、搭載されていくのでしょう。

鈴木 : 調査の結果で、まず上位に入ったのは自動運転とパーソナライズ機能。そしてOTAによるアップデートと、より高度なモビリティサービス、遠隔診断やセキュリティといった順です。電動化が進み、従来に比べてソフトウェアで制御される部分が大幅に増え、いわば車自体が電子部品の塊となることで可能になってくる機能といえるでしょう。ソフトウェアプラットフォームを基盤に、AIやクラウドを通じて、これまでなかった機能を実装していくようになります。

---:これまでになかった機能というところで、今回のCES 2024から気になったところを教えてください。

鈴木 : 気になったところでは、まず車載の生成AIアシスタント。これまでの音声認識操作によるインフォテインメントではなく、車の中で対話できる機能、コンシェルジュ的になったものです。ソニー・ホンダモビリティがマイクロソフトと協業を発表したり、メルセデスベンツがMBOSを発表しました。Alexaに代表されるような、家の中で喋ると電気を点けてくれるようなアシスタント機能が、車載されたイメージです。またボッシュはドライバーレスで、駐車から充電まで完結するバレーパーキング機能を発表しましたが、どれもAI無しでは成り立たない技術です。

---:ガソリン車の時代から顧客体験がインフォテインメントやエンターテインメント領域だけでなく、根本的なところから変わるということでしょうか。

鈴木 : そうです。EVになると、これまでガソリンスタンドに行っていた代わりに、自宅や出先で充電が必要になりますよね。するとどんな情報が必要か。車の電池残量、最適な充電スポット、ステーションの空き状況、費用、充電器の互換性、そして充電器が壊れていないか。場合によっては天気の状況を踏まえ、着くまでに電池残量がどれだけ残っているかなど。使用状況や需要予測を判断するAIを活用することでこれらが最適化できます。また、自動運転の本格普及はこれからですが、AIは基盤技術となっています。加えて、パーソナライズ機能のOTAアップグレード、高度なモビリティサービス、遠隔診断、セキュリティなどの高付加価値機能といった、EV時代の重要要素を実装する上で、AIやクラウド、オートメーションのような先端技術を使いこなす必要があります。

周辺サービスや管理領域における生成AIの可能性

---:EV化とAI導入によって、車の購入や乗り換えに関する周辺サービスでは、どのような変化が見込まれますか。

鈴木 : IBMの調査では、2030年に個人所有EVの3割以上はサブスクになると予測しています。2030年にはEV全体の半分がタクシー、レンタカーや配送車などのフリート用途、残り半分が個人使用と予測されています。個人使用のEVは、購入、リース、サブスクがおよそ3分の1ずつです。現在の所有形態はほとんど購入です。サブスクによるEVが増えると、多くの車の所有者が個人から企業になります。多数のEVの使用状況、メンテナンス、修理状況の管理も、AIなしでは効率的な運用は難しいでしょう。

---:制御のみならず管理ツールとしてのAIという側面ですね。

鈴木 : 実は生成AI活用に関する調査で、自動車業界が優先的に検討している適用分野はセキュリティ、IT業務、商品開発、規制対応・リスク管理なんです。大量の車がコネクテッドで繋がりソフトウェアアップデートがOTA更新になると、サイバー攻撃のリスクも上がりますから、セキュリティ監視をするにはAIの力に頼るしかありません。また商品開発では、各国ごとに異なる規制を把握し、商品開発に反映させ、プロダクトライフサイクルを維持するための仕組み作りや工数が、大きな課題になっています。規制情報の更新、市場に出た車の不具合情報などを素早く開発にフィードバックするには、人手に頼っていたのでは難しく、AIの力が活用できるはずです。

---:企業のオペレーションにAIを活用する必要があるということですか。

鈴木 : ええ。IBMの調査では、自動車業界経営層の79%が、AI導入するためにはまずアプリをモダナイズしなければ、と回答していますが、これも卵とニワトリの関係で、アプリのモダナイズに生成AIを使う、という考え方に転換できます。例えば、企業のレガシーになっている基幹業務には数十年前に作られて修正を重ねながら使ってきたシステムが現役だったりします。複雑化しすぎてモダナイズのハードルが高過ぎた領域も、生成AIによって着手できる部分が増えていくと期待されています。

サプライチェーンや生産管理だけでなく製造業務そのもの、生産オペレーションに関わるシステムのモダナイズも、工場を止められない分、まだ手つかずの企業が多いと思います。また、ソフトウェアの管理は物理的な部品と異なり、コードのバグ修正やセキュリティパッチなど常に変化していきます。ですから設計から製造、アフターセールスのOTAまでのライフサイクルを、従来の部品表の考え方で管理するのは困難で、車載ソフトウェア開発における要求管理や変更管理、ソースそのものの管理など、ソフトウェア開発の知見やAIが役立つ場面があると考えます。

IBMインスティテュート・フォー・ビジネス・バリュー自動車産業リーダーの鈴木のり子氏IBMインスティテュート・フォー・ビジネス・バリュー自動車産業リーダーの鈴木のり子氏

オンラインセミナー「CES2024レビュー EVとAIから自動車産業の未来を探る」

無料オンラインセミナー「CES2024レビュー EVとAIから自動車産業の未来を探る」は、2月21日に開催。鈴木氏は、CES 2024から見たEVの現状と今後の流れや米国、欧州、中国などの市場動向の考察、EV化におけるIT技術&AIの役割、日本のOEM、サプライヤーにとっての勝ち筋とは、などをテーマとしたパネルディスカッションに登壇する。

その他、当日は日本アイ・ビー・エム IBMコンサルティング事業本部 オートモーティブコンピテンシーセンター 自動車産業担当CTO 川島善之氏による「技術者から見たCES2024最新動向とEV開発を支える要素技術」、日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネージャー 程塚正史氏による「広がる裾野と深まる内面-CES2024に見る自動車産業の方向性-」といった講演も予定している。

セミナー申込締切は2月19日12時。

無料オンラインセミナーの詳細・お申し込みはこちらから

<参考リンク>
IBMのEV調査:https://www.ibm.com/thought-leadership/institute-business-value/jp-ja/report/sustainable-mobility

生成AI活用:https://www.ibm.com/thought-leadership/institute-business-value/jp-ja/technology/generative-ai

コネクテッドカーセキュリティ:https://www.ibm.com/thought-leadership/institute-business-value/en-us/report/data-story-connected-vehicles-security


本インタビューは、2024年1月に顧客、パートナーとの共創を推進する目的で虎ノ門ヒルズに開設した日本IBMの新本社内、Innovation Studioで行われた。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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