【アウディ Q8スポーツバックe-tron 新型試乗】ICEで備えていた美点を限りなく受け継いだBEVだ…南陽一浩

アウディ Q8スポーツバックe-tron 55クワトロSライン
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◆ICEシリーズとの統合1歩目を踏み出した

ファーストモデルの日本導入は確か2020年末だったから、今回の試乗会で実車を目の前にして、もうフェイスリフト?というか、まだ3年しか経っていないのに!? という感は否めなかった。2020年後半といえばコロナ禍の真っ最中だったから、アウディ初の純BEV市販モデルとして、満足のいくモデルライフを過ごしているとは言い難いのかもしれない。

ふり返れば、『e-tronスポーツバック』と名のっていた頃は、A、Q、S、SQにRSらに代表されるアウディのラインナップ・ロジックのどこにも属さないで「e-tron」であること、つまりBEVであることを強く主張している分、とっつきにくかった覚えがある。

でもメルセデスEQやBMWのiシリーズを見渡しても分かる通り、2023年の今や、ジャーマン・ハイエンド御三家が、純BEVのシリーズ名を単独で強調することは明らかに過去モードとなった。それはBEVの勢いや可能性がいちどきに衰えたのではない。

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アウディは2025年をICE生産モデルの最終年と捉え、2026年以降に新たにリリースする車種はすべてEVになると宣言している。2030年までに持続可能性と社会的責任、技術革新におけるリーダーとなるべく、電動化進めるというのが、その中長期戦略だ。逆に従来のICEシリーズと融合することで、BEVが最初からデフォルトの選択肢としてメインストリームに近づきつつある、その前兆といえるだろう。

とまれ、Q8シリーズは、主戦場のアメリカでは4リットル・V8ツインターボの『SQ8』も確実視されているが、日本市場では導入当初にあった3リットル・V6ツインターボTSFIの『Q8 55』がある意味、BEVに換骨奪胎されたといえるだろう。今回試乗したのはクーぺ版の『Q8スポーツバックe-tron 55クワトロSライン』で、いずれ旧来の「e-tronスポーツバック」はフェイスリフトを機に新たに「Q8スポーツバックe-tron」と名のり、ネーミング上の従属関係を変えつつ厳密にはe-tronシリーズの10車種めとなった。

◆「Q8」になって進化したポイントは

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そのQ8スポーツバックe-tronをあらためて眺めると、背負う荷の重さとこれまで培ったアウディらしさの間に挟まれつつ、上手くまとまったデザインだと思わされる。フェンダーアーチより上半分だけ見れば、Q8よりも『Q7スポーツバック』に通じる流麗な4ドアクーペの系譜が感じられるし、フロントでプレステージ性を強めるのは、ドイツ流ハイエンド車には定石といえるおなじみの手法だ。

Qシリーズ共通のオクタゴナル(八角形)のフロントグリルは、ライトに至る部分までブラックアウトされた上に、以前の格子グリルからハニカムに近いパターンに変更され、外枠の目立たないスポーツシック顔となった。もうひとつのハイライトは新CIを採用したロゴで、4連リングがフラットになっている。リア側のセンシング・モジュールを兼ねないエンブレムも、リング部分も重なり部分も2次元的な4連リングとなった。またSライン仕立てを主張するアウディスポーツの赤いロゴも文字をのせない、赤い平行四辺形だけとシンプルな仕立てだ。

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プラットフォームはBEV専用のMLEエボで、「55」モデルのバッテリー容量は従前の95kWhから114kWhへと増した。最大トルク・出力は664Nm・300kw(408ps)、1回充電あたりの最大航続距離は+23%向上してWLTPモードで501kmと、500kmの大台に辛くものせてきた。これは、スタック式で余白を削ることによって密度を増したバッテリー容量だけでなく、空力やモーターや制御の改良によるところも大きい。具体的にはフロントにエアカーテンを採用し、スポーツバックは0.01ほどCd値が向上している。駆動モーターの改良点は、コイルが12巻きから14巻きを採用したことで、必要な出力をこれまでより低い電力で得られるようになった。

ちなみに「50」については、これまでの55用バッテリー(=95kWh容量)を採用し、最大出力を230kW(約312ps)から250kW(340ps)に改良しながらも、71kWh時代から+34%上乗せした424kmの最大レンジを備えるに至った。

◆走り出してわかる「いつものアウディらしさ」

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ドライバーズシートからの眺めは、BEVだからといって新奇に過ぎるところは何一つない。視認性のいい2連メーターと表示を切り替えても優先順位のはっきりしたインストルメンタルパネルのロジックは明快だ。冬場にハンドクリームが必須の人だと、艶のあるブラックパネルの多用が気になるかもしれないが、折り目正しく端正で質感の高い、いつものアウディらしさだ。他にも細かなところでは、内装の起毛素材がリサイクル使用率の高いダイナミカに変更され、シートベルトのバックル部分は再生可能素材となった。

柔らかだが節度感のあるフロアシフトをDに入れ、走り出す。すると低速域では拍子抜けするほどに軽やかなステアリングフィールと、それでもフワつきがなくて車両感覚を掴みやすい、これまたいつものアウディらしさに感じ入るところがある。決して頼りないほど軽いのではなく、あくまで軽やかだが節度感のあるフィールだ。だから走り出すまでは大きいだろうと感じていた全長4915×全幅1935×全高1620mmの巨体が、手の内にスルリと収まって来る。最小回転半径5.7mは、さすがにリアステアを効かせるメルセデスEQ辺りと比べたら厳しい。

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とはいえ、この手のBEVに乗る人は、試乗会が行われた横浜みなとみらいではないが、再開発の行き届いた平滑な数車線道路が主たる生活ステージだろうし、日常的にも最初から平置きの駐車場しか目指さないことを思えば、不足はないのかもしれない。おおよその航続レンジはBEVでもICEでもどんな車でも限られている以上、乗り方や使用状況が前提として決まっていれば、リミットやリスクが生じてくるのは当然だが、スマートに乗りこなせることと、何にでもツブしが利くこととはもちろん異なる。

プレミアムであるアウディが、サステナブルな目標実現に近づきながら、前者を目指すのはロジックでもある。BEVだと途端に、不慣れとか不案内なもの敬遠されやすいのは、慣れの力によるところが大きいのかもしれないが、Q8スポーツバックe-tronは限りなくアウディがICEで備えていた美点をBEVに受け継いでいると感じさせる。

◆アウディのフラッグシップEVとしてふさわしい姿

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BEVならではの静粛性とスムーズさは、オプションのアコースティックガラスによってブーストがかかっているところはあるが、クワトロ4WDによる盤石の直進安定性、それでいて速度域を上げてもすっきりと一貫したハンドリングの正確さまで、先述の「節度感」とブレなく重なり合い、一点に収束してくる。

節度感でもうひとつ感心したのは、ラゲッジルームのトノカバーが、近頃はペナペナの型押しウールを紐で吊るした車が多いところを、あえてクックッと節度感のあるセミハードの蓋カバーになっているところ。もうひとつ、充電口はフロントフェンダーの両側、右に急速充電、左に普通充電と分けられており、ボタンを押すとスライド開閉するこれまた節度感あるタッチは、日々触れて味わえるハイテク感だと思う。

こういう道具感・ツールとしての優秀さは、些細なことだが、やはり静的質感で一世を風靡したアウディらしさと映る。きもちアグレッシブでクールに見える外観とは裏腹に、日常域に溶け込む使い勝手の優しさは、アウディのフラッグシップEVとしてふさわしい姿なのだろう。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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