VWの電動車とガソリン車を両立させる事業戦略は中国でも…上海モーターショー2023

VW タル(上海モーターショー2023)
  • VW タル(上海モーターショー2023)
  • VW ID.7 VIZZION(上海モーターショー2023)
  • VW販売トップ(CEO of the VW Passenger Cars brand in China, Head of Group Sales at VW Group China)のStefan Mecha氏
  • VW乗用車ブランドCEO(CEO of VW Passenger Cars)のThomas Schäfer氏
  • VWブース(上海モーターショー2023)
  • VW ID.7 VIZZION(上海モーターショー2023)
  • VW ID.7 VIZZION(上海モーターショー2023)
  • VW タル(上海モーターショー2023)

VWブランドはBEV車種のラインナップを増やし、電動化へと移行しつつあるが、同時にガソリン車も性能を高めて、継続的に訴求している。今回の上海モーターショーでは、ID.ファミリーの新型BEVフラッグシップモデル『ID.7 VIZZION』がワールドプレミア。新型モデル『タル(Tharu)』などの計25車種を展示した。

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モーターショー開催初日のトップのメディア発表がその特徴を表わしていた。VW乗用車ブランドCEO(CEO of VW Passenger Cars)のThomas Schäfer氏は、「取締役会レベルで『ユーザー委員会』を新設した。中国でも創設した。我々はユーザーの真のニーズに真摯に耳を傾け、それを新車種に迅速に適用して、VWブランドをより人気のあるブランドにする」「『ユーザー至上』の理念を長期的に実現するために全力を尽くして取り組んでいく」と述べた。

また、中国のVW乗用車ブランドトップで、VW販売トップ(CEO of the VW Passenger Cars brand in China, Head of Group Sales at VW Group China)のStefan Mecha氏は、「VWブランドは中国に40年近く根付いており、我々は長期的なパートナーである上汽VWと一汽VWと協力して、4000万以上のユーザーの愛車と信頼を獲得した。次の40年を展望すると、VWブランドは技術と大衆化を同時進行させ、ユーザーに優れた体験をもたらし、すべてのモビリティをより安全で、より快適で、より楽しいものにする」「また、アクセレレート戦略(モビリティブランドへと移行するVWの中期コーポレート戦略)に基づいて、商品攻勢を加速し、中国のユーザーの多様なニーズに対応する。ID.7 VIZZIONと新型THARUはいずれもVWの電動車とガソリン車の両立という事業戦略路線を示している」とスピーチした。

ID.7 VIZZIONは、ID.ファミリーをBセグメント(中型車)へとラインナップ拡大する新型BEVのフラッグシップモデルで、一汽VWにて今年の下半期に販売を開始する予定(ID.7は23年中に欧州、24年中に北米での販売も計画)。VWのBEV専用プラットフォームであるMEB(Modular electric drive matrix)を活用することで、上級のCセグメント(大型車)に匹敵するスペースを確保した。また、最新の電気駆動ユニットである「APP550」を搭載する初めてのモデルで、最高出力が210kWと、シリーズの中では最もパワフルだ(航続距離は700km)。装備も最新機種が充実しており、「SkyViewスマートライトセンシングパノラマ」「Smart Air隠蔽スマートエアコン」「15インチスマート2K浮遊式スクリーン」などが装備され、ユーザーからの意見をもとに開発・改良してきた。

ブースの中央には新型のタルが展示される(開催初日のメディアデー)。新型タルは新しい1.5リットルターボエンジンを搭載し、従来の1.4リットルターボよりもパワーを7%以上向上させ、燃費は9%近く低下させた。販売元の上汽VW販売会社トップの兪経民氏は、「92号ガソリン(レギュラーガソリンに相当)を入れることができ、100kmの燃費はわずか5.9リットルで、環境に配慮して経済的」だと実用性をアピールしている。ボディカラーは8種類ものオプションを用意し、若い世代の個性的なニーズを満たそうとしているほか、「今年中に全国200のカスタマーセンターを開設する予定で、個性的な改造をサポートする」(同)という。

コンセプトモデルは市販化が近いイメージの車種である『ID.ネクスト』を配置した。ID.ネクストは上汽VWが作成した新しいハイエンドBEVセダン。外観デザインは「優雅で魅力的で、人と車、クルマと環境がマッチングする姿を現している」(会場内スタッフの説明)。内装も「優雅な生活感のあるコックピットを設計し、視覚的に無駄のない、自然に近い上品な生活美を醸成する」(同)という。

市販モデルで注目を集めているのは、ID.ファミリーの2023年イヤーモデルとしてアップグレードされた『ID.4X』と『ID.6X』。両モデルはID.シリーズのBEVモデルとして先駆的な位置付けであり、今後も主力モデルとして位置付けていくものと思われ、フレッシュ&シックなボディーカラーで登場させた。

今回、市販化に近いコンセプトカーを含めて、市場を意識したモデルの出展が多い。特に電動車のID.シリーズと、ガソリン車のフルラインナップ化を加速させている印象で、ユーザーの選択をより確実なものにしようとする姿勢が見受けられる。各社が電動化を進め、ガソリン車を作らない方向にある中で、VWはその道を宣言しない主な要因は、中国では1~3級都市では電動化が進むが、今後の潜在市場の4~5級都市ではそのニーズが異なるという理解にあるためである。「中国に進出して40年、4000万以上のユーザーを愛車化」した実績は根強いネットワークを構築しているだけでなく、その社会的、経済的役割は大きい。

《八杉理@現代文化研究所》

八杉理@現代文化研究所

八杉理|トヨタ自動車が全額出資する現代文化研究所・上席主任研究員。トヨタグループ各社をはじめ、日本の自動車業界のグローバルな事業戦略策定に参画。長く中国に居住し、各地の高度成長を肌で感じてきた。この経験から、現在でも現場主義に拘り、考察を続けている。また、クルマ好きで、世界の多様なモビリティを乗り歩く。著書に、『巨大化する中国自動車産業』日刊自動車新聞社、『東アジア地域協力の共同設計』ミネルヴァ書房等分担執筆のほか、業界団体や企業内でのセミナーも実施。専門業務分野は、中国・東アジアのモビリティ先端動向調査(CASE・MaaS、部品、炭素中立、SDGs)、ブランディング戦略、バリューチェーン事業化戦略、自動車ユーザー購買行動・イメージ・商品嗜好性分析、新興企業・競合企業の分析、これらに関する業界諸課題や市場参入へのアドバイザリー業務。

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