常識を破り続けたコンパクト、ホンダ『シビック』が50周年 初代~タイプR投入までの革新とは

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  • ホンダ シビック 初代の発表会風景。赤坂プリンスホテルにて
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  • 1.5L CVCCエンジン(ホンダ シビック 初代)

ホンダが4輪車メーカーとして世界に認められる足場を築いたのが『シビック』である。車名のCIVICは「市民」や「庶民」の意味だ。1970年代を前にホンダは、自動車を取り巻く環境が大きく変わってきたことを敏感に感じ取った。自動車が出す排気ガスが大気汚染を引き起こし、自動車事故も増え続けている。また、省エネの風潮も強くなってきたから、ホンダは人と地球に優しいクルマづくりに設計方針を転換した。そして世界中の人々が充実したマイカー生活を送れるように、それまでなかった道具感覚のニューベーシックカーの開発に乗り出すのである。

初代:小さいながらも強い存在感(1972年~)

ホンダ シビック 初代ホンダ シビック 初代

常識破りのコンパクトカーのシビックが登場するのは1972年7月だ。ホンダは軽自動車の『N360』で前輪駆動のFF方式に先鞭をつけた。ボディタイプは2ボックスと呼ばれる台形フォルムを採用し、メカニズム部分をコンパクトに設計することによって広い室内空間を生み出している。シビックはN360と後継の『ライフ』が用いたFF方式とパッケージング手法に磨きをかけ、世界を相手にするために軽自動車よりボディサイズを大きくした。パワーユニットは快適な水冷方式の直列4気筒だ。排気量も高速道路を余裕で走れるように1.2リットルとしている。

シビックは親しみやすい愛嬌のあるフロントマスクにワイドスタンスの台形フォルムを組み合わせ、小さいながらも強い存在感を放っていた。コンパクトカーでも3ボックスデザインが多かったが、シビックは合理的な2ボックスとしている。また、独立したトランクを備えた2ドアモデルに加え、リアに跳ね上げ式ゲートを備えた3ドアモデルを設定したこともニュースだった。これ以降、2ドアにハッチゲートの組み合わせが、コンパクトカーのトレンドになっている。2ボックスは雨の日に水を巻き上げやすい。そこでリアガラスの水滴を拭き取るワイパーを装着した。これは日本で初めての試みだ。

ホンダ シビック 初代ホンダ シビック 初代

注目のパワーユニットは、軽量コンパクト設計のEB1型水冷直列4気筒SOHCである。実用域のトルクが豊かなロングストローク設計で、排気量は1169ccだ。最高出力は高性能を売りにするホンダらしからぬ控えめな数値に抑えられた。が、素性のいいエンジンで、扱いやすく燃費もいい。トランスミッションは4速MTだけの設定だったが、73年5月にスターレンジ付き2段AT(ホンダマチック)を追加している。この時代、AT車を設定するコンパクトカーは少なかった。高効率で運転しやすいホンダマチックは好評を博し、ファン層を増やすことに成功する。

ホイールベースを延ばし、使い勝手のいい4ドアとした1500シリーズを設定するのは、その年の12月だ。が、それ以上に衝撃を持って迎えられたのが、達成は不可能だろうと言われていたマスキー法を世界で初めてクリアしたことである。ホンダは副燃焼室付きCVCCエンジンを開発し、クリーンな排出ガスを実現した。シビックCVCCは世界中から注目を集め、内外の自動車メーカーはこぞって技術供与の話を持ちかけている。また、これとは逆に、74年秋にCVツインキャブ装着のホットハッチ、1200RSを送り込んだ。77年秋には5ドアのハッチバックも誕生した。

ホンダ シビック 1500 4ドアホンダ シビック 1500 4ドア

初代シビックは日本だけでなく海外でもヒットし、ホンダのイメージアップに大きく貢献。4輪メーカーとしてのポジションを揺るぎないものとしている。メカニズムを最小に、キャビン部分は最大に、というパッケージングのMM思想も確立した。それだけではない。CVCC開発で培った高度な燃焼や制御の技術は、80年代のF1エンジンの設計にも活かされ、開花するのである。

2代目:快適性を高めた「スーパーシビック」(1979年~)

ホンダ シビック 2代目「スーパーシビック」ホンダ シビック 2代目「スーパーシビック」

合理的な設計思想を掲げたシビックは、79年7月に初めてモデルチェンジを行った。2代目の愛称は「スーパーシビック」だ。デザインはキープコンセプトだったが、3ドア、5ドアともに快適性を高めている。また、80年1月にシビック初のワゴン、シビックカントリーを投入した。パワーユニットは、希薄燃焼方式を踏襲する1.3リットルと1.5リットルの改良型CVCCだ。だが、80年夏にドライバビリティを向上させたCVCCIIへと進化させている。この直後の9月に、トランクを備えた3ボックスデザインの4ドアセダンを設定した。

ホンダ シビックカントリーホンダ シビックカントリー

2代目シビックにスポーツグレードはなかったが、ワンメイクレースを開催し、走りのよさをアピールしている。また、最大のマーケットであるアメリカでインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。クリーンな排ガス性能に加え、燃費のよさも高く評価されている。大陸横断燃費テストで輸入車部門の1位に輝いたのは、その証だ。

3代目:「ワンダーシビック」スタイリッシュな3ドアハッチ(1983年~)

ホンダ シビック 3代目ホンダ シビック 3代目

83年9月、3代目を送り込んでいる。ニックネームは「ワンダーシビック」だ。前例のないロングルーフを採用し、全高を低く抑えたスタイリッシュな3ドアHBを主役の座に就け、話題をまいた。4ドアセダンは手堅いデザインだったが、新たに5ドアのマルチパーパスワゴン、「シャトル」を投入する。パワーユニットも新設計だ。1.3リットルと1.5リットルの排気量は変わらないが、進歩的なSOHC3バルブ方式として高性能化を図っている。キャブレター仕様に加え、電子制御燃料噴射装置のPGM-FI装着車も登場した。

ホンダ シビック 3代目 シャトルホンダ シビック 3代目 シャトル

キャビンもスポーティな仕立てだ。ロングスライド機構とリクライニング機構を加えたことにより後席の快適性も向上している。ファッショナブルでスポーティなルックスを武器に、シビックは好調に販売を伸ばしていった。そして84年秋、ついに真打ちがベールを脱いだ。クラス最強を誇る1.6リットルのDOHC4バルブエンジンを搭載したSiである。ワインディングロードで痛快な走りを見せ、グループAカーによるレースなどでも驚異的な速さと強さを披露した。

4代目:「グランドシビック」サイズアップ&エンジン一新(1987年~)

ホンダ シビック 4代目ホンダ シビック 4代目

第4世代は、87年秋に登場した「グランドシビック」だ。ボディサイズはひと回り大きくなり、4輪にダブルウイッシュボーン/コイルスプリングのサスペンションを奢っている。ファミリー系のエンジンも一新した。SOHC4バルブにセンタープラグ方式の「ハイパー16バルブ」エンジンを採用し、1クラス上の力強い加速と優れた燃費性能を手に入れている。

スポーツグレードのSiも用意されたが、89年秋以降の主役は可変バルブタイミング・リフト機構のDOHC・VTECを積むSiRだ。ターボ並みの高性能を誇り、レーシングエンジンのように高回転を得意とする。ビスカスカップリング採用のリアルタイム4WDを設定したのも、この4代目だ。

5代目:上下開きのツインゲートを採用した「スポーツシビック」(1991年~)

ツインゲート(ホンダ シビック 5代目)ツインゲート(ホンダ シビック 5代目)

91年9月、5代目の「スポーツシビック」が誕生した。3ドアモデルは「ワンルーム&ツインゲート」をテーマに開発され、大胆にも上下開きのツインゲートを採用している。4ドアセダンには「フェリオ」のサブネームを与えたが、シャトルは整理された。ただし、93年にホンダ・オブ・アメリカで生産しているシビック・クーペを逆輸入の形で販売する。

ファミリー系の主役は、SOHC4バルブにVTECの1.5リットル直列4気筒とした。SiRは1.6リットルのDOHC4バルブにVTECの組み合わせだ。電子制御燃料噴射装置のPGM-FIも採用車を増やしている。また、希薄燃焼を行い、吸気バルブを休止させて燃費の悪化を防ぐVTEC-Eも設定した。5代目は安定して売れ続け、95年5月には生産累計1000万台の偉業を達成している。

6代目:「ミラクルシビック」タイプRも投入(1995年~)

ホンダ シビック 6代目ホンダ シビック 6代目

これに続く6代目が「ミラクルシビック」だ。95年9月、キープコンセプトで登場したが、3ドアはホイールベースを延ばして広くて快適なキャビンを実現した。メカニズムのハイライトは、VTEC機構を3ステージVTECに進化させたことだ。湿式多板クラッチを用いたホンダ初の電子制御CVT(マルチマチック)も話題をまいている。

97年8月、専用チューニングを施し、エンジン型式まで変えたB16B型DOHC・VTECエンジンを積む「タイプR」を投入した。リットルあたりの出力は116psで、その気になれば5速MTを駆使して8400回転まで使い切ることが可能だ。シャシーを補強し、サスペンションもハードな味付けとしている。これ以降、タイプRがシビックのイメージリーダーの座に就いた。

ホンダ シビックタイプR(1997年)ホンダ シビックタイプR(1997年)
《片岡英明》

片岡英明

片岡英明│モータージャーナリスト 自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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