アウディがレクサスのミニバン『LM』の牙城に殴り込み?「アーバンスフィア」のねらいとは

自動運転&電動化時代を見据えた「スフィア・コンセプト」

これまでのアウディ的「アーバン」とは逆方向のアプローチ

本丸はインテリア、3列6人乗り仕様もあり

従来のアウディにないセグメント、レクサス『LM』は意識したか?

アウディ アーバンスフィア コンセプト
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去る4月7日、アウディはプレス向けのクローズド形式でオンラインにて、『アーバンスフィア コンセプト』を公開した。レベル4の自動運転化と電動化が進むことを前提に、車内空間とドライビング・エクスペリエンスが一新されるであろうことを念頭にデザインされた「スフィア・コンセプト」シリーズの第3弾だ。

自動運転&電動化時代を見据えた「スフィア・コンセプト」

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これまでに2シーターのオープン・ロードスターGTとなる『スカイスフィア』と、4シーターのラージ・サルーンである『グランドスフィア』が発表されてきた。いずれも「インサイド・アウト」を通奏低音に、インテリアからデザインを始めてエクステリアはそれに続くもの、というデザイン手法が採られている。とくに今回のアーバンスフィアはアウディには従来存在しなかったモノスペース的なシルエットが最大の特徴で、インテリアスペースの最適化を前面に押し出してきた。

というのも、オンライン発表会にはブランド・ストラテジー責任者とエクステリアとインテリアそれぞれのデザイナーらが登場したが、アウディ アーバンスフィア コンセプトは中国のメガシティ、つまり上海や北京など大都市圏で走る・使われることを想定して、自宅や職場の執務室に次ぐ第3のリビング・スぺース、ラウンジとして開発されたという。

本来は北京モーターショーでお披露目するはずが、世界を取り巻く状況により、やむなくオンライン発表となった形だが、アジアそして世界でもっとも巨大な市場となった中国メインのモデルで、北京のデザインスタジオとインゴルシュタット本社のデザイナーたちが緊密に連携しながら、中国の潜在的顧客も交えてニーズや経験をとり入れつつ、開発が進められたというのだ。

これまでのアウディ的「アーバン」とは逆方向のアプローチ

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これまで「アーバン」と名の付くコンセプトや市販車グレードのアウディといえば、小さなコンパクトカー。それこそが都市向けで、広々したスペースを確保したラージモデルはアウディ的「アーバン」とは逆方向でもある。それもステイタス、ブランドとしての主張を求める中国マーケットの要望に応じるためだ。

外寸はじつに、全長5.51×全幅2.01×全高1.78mにも達する。そんな巨大なモノスペースのシルエットをアウディらしく見せるのは、流麗でスリークなサイドビュー、ルーフラインを象るアルミニウムバー、オクタゴナル(八角形の)シングルフレームグリル、そして24インチもの大径ホイールゆえだろう。

アウディ アーバンスフィア コンセプトアウディ アーバンスフィア コンセプト

ただしフロントグリルはICEパワートレインの時代とは一線を画す。エアインテークとしての機能はなく、透明なバイザーの奥に、3D構造の動的ピクセルセグメントを発光させる。この広い面積を用いたアクティブな照明効果によって周囲の他車や自転車、歩行者に様々なシグナルを送ることができ、安全性を高めるという。

ヘッドライトユニットは無論、マトリクスLEDだが、日中走行灯として光軸を変化させたり、またダイナミックターンシグナル、いわゆる「流れるウインカー」機能も備え、視認性を高めたという。加えて、伝統的な中国の傘に想を得た「アウディライトアンブレラ」によって、進行方向を照らす以外にも、自分の存在を知らせたり、車外にいる際も自撮り用の照明に用いたりできるとか。

本丸はインテリア、3列6人乗り仕様もあり

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だがアーバンスフィアの本丸はインテリア内装にある。リアステア機能を備えるとはいえ、ホイールベースは何と3.40mもの長大さ。発表されたコンセプトでは2列4座の、ファーストクラスのようなレッグレスト付きのセパレートシートが奢られ、まるで豪華ヨットかラウンジのような水平基調かつ凹面の優美な曲線を多用した室内が、乗員を包み込むように広がる。ちなみにシートはリアの方が寸法も調整幅も広く、リラックスまたはエンターテイメントモードで最大60度もリクライニングが可能だ。ホスピタリティやソーシャル面という意味で、リアドアを開ける際にLEDライトによって、地面に赤く長く投影されるレッドカーペット効果も見逃せない。

ボディ構造はBピラーレスの観音開きドアで、3列目シートによる6人仕様も検討しているという。シート回転による対面着座など、乗り手のニーズに合わせてシートアレンジは可能だ。移動中に各自のプライバシーを尊重するなら、ヘッドレスト後方のプライバシースクリーンによって空間は緩やかに仕切られつつ、ヘッドレスト内蔵スピーカーによる独自のサウンドゾーンにより、突然の通話なども快適に対応する。フロントのシートバックには無論、大型ディスプレイも備わる。これとは別に、1列目と2列目シートの間の天井から、大型の透明OLEDスクリーンをルーフエリアから引っ張り出すこともできる。リアシート乗員が2人同時に、オンライン・ミーティングに参加することも可能である一方、格納時もルーフエリアの透明さと開放感を保つ。

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前列シートのドライビング環境も独特だ。計器類がはめ込まれたインストルメンタルパネルやバーチャルディスプレイのブラックスクリーンもなく、ダッシュボードといわれる部分は目や手で素材感を楽しめるウッドパネルで覆われている。そこにメーター類の表示が高解像度で映し出されるのだ。以前のスフィアシリーズと同様、「レス・イズ・モア」を全面に押し出した、極度にシンプルな意匠だ。しかしアイトラッキングやジェスチャーコントロール、ボイスコントロールなど、ノータッチ領域のインターフェイスを駆使し、タッチ機能やダイヤル式ドアスイッチと合わせてユーザーの好みを学習するという。かくしてドライバーを含む乗員は、シートをリクライニングさせたまた主だった操作ができるため、車内で過ごす移動体験がまったく異なるものに変わるというのだ。

フル充電で700kmの航続を謳うEVクワトロ

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肝心のランニングコンポーネンツに関しては、テクノロジープラットフォームとしてEV専用のPPE(プレミアムプラットフォームエレクトリック)に基づき、約120kWhのバッテリーを前後車軸の間にフラットに収めているという。800V充電テクノロジーにより、最大270kW出力での急速充電が可能で、300kmのレンジを回復するのにたったの5分、1回のフル充電で700km(WLTP基準)の航続距離を謳っている。2基の電気モーターを前後に搭載し、合計出力は295kW、690Nmに達する。

当然クワトロシステムによる4輪駆動で、必要に応じて前車軸側モーターを停止したりコースティングを行う。足回りは、軽量なアルミニウム製マルチリンク式で、「アウディ アダプティブエアサスペンション」というシングルチャンバーエアサスペンション。4輪の接地を最適化するセミアクティブ・ダンパーコントロールを行う。

従来のアウディにないセグメント、レクサス『LM』は意識したか?

レクサスの高級ミニバン『LM』レクサスの高級ミニバン『LM』

広々とした快適スペースと機能性、主張の強いデザインとステイタス性を重視するユーザーには、アジア市場ではレクサス『LM』が当然先行している。開発にあたって既存の競合車種やベンチマークとして何を想定していたか、Q&Aの際に尋ねてみたが、アウディの登壇者らが他社の車種名をはっきりと挙げることはなかった。しかしアーバンスフィアが従来のアウディとは異なる新しいセグメントであり、自分たち自身ではない世界から、カスタマーニーズをベースに開発したことは、認めた。

アウディ アーバンスフィア コンセプトは、非攻撃的なデザインを心がけつつ、ビジネス用途をも強く意識しつつ、EVとしてより大きく広く、をオルタナティブ的に強調してきたように見える。ミ二バンどころかインターミディエートすら超えるフルサイズ・モノスペースだが、アジア市場の大都市圏で直近の次世代高級車として、趣味嗜好の好みにおいても、ドイツ車的アプローチがどのぐらい食い込んでくるか?

面白い争いになりそうだ。

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《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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