【ヤマハ シグナス グリファス】NMAXとの違い、フラットフロアで実現した「スポーツ性」とは

ヤマハ シグナス グリファス
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2021年12月に発売が始まったヤマハの原付2種スクーターが『シグナス グリファス』だ。前編ではエンジンが空冷から水冷になった経緯や、それを搭載するためのフレームのことをお届けした。後編はハンドリングやデザインの話題を中心に関してお届けしよう。

【インタビュー参加メンバー】
望月 幹:プロジェクトリーダー CV開発部SC設計G
柳原 佑輝:カテゴリープロジェクトリーダー GB統括部コミューターグループ
勝山 祐紀:エンジン設計PC 第1PT設計部SC-PT設計G
藤原 雅司:エンジン実験PC 第1PT実験部SC-PT実験G

「シグナスらしさを残す」ということ

ヤマハ シグナス グリファスヤマハ シグナス グリファス

----:『シグナスX』がフルモデルチェンジを受けて、シグナス グリファスへと生まれ変わりました。最大の変更点は空冷エンジンが水冷になり、それに伴ってフレームも刷新されたことにあります。それは車体サイズの大型化、車重の増加との闘いでもあったかと思いますが、グリファスにはXのような軽快感や扱いやすさはあるのでしょうか?

望月:仰る通り、Xは長年シティコミューターとして愛されてきたモデルですから、水冷エンジンを搭載したからと言って、違う乗り物になってはいけません。このエンジンで開発を進めると決まった以上、いかに「らしさ」を残すかを、最初に徹底して議論しました。

柳原:エンジンの搭載位置やフレームの取り回しは前回お話した通りですが、他にもキャスターを立てたり(X:27度/グリファス:26.3度)、ホイールの設計変更で軽量化を進めたりと様々な手法でスポーティなハンドリングを継承しています。

----:確かにホイールは見た目にもスポークが細く、グッと軽やかな印象ですね。

柳原:ありがとうございます。実際、ホイールは前後合わせたアッセンブリー状態(タイヤやディスク含む)で、1.5kg軽くなっています。解析技術や製法の工夫を駆使しながら、めちゃくちゃがんばりました。

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----:前後12インチという小径ホイールでマイナス1.5kgはかなりのものですね。タイヤが10mmずつワイドになっていますからなおさら。幅を太くした理由と、だからと言って『NMAX』のように13インチを採用せず、12インチを踏襲したのはなぜですか?

柳原:幅を太くしたのは、向上したエンジンの出力によるものです。それによって、コーナリング時の安定性を引き上げています。12インチのままなのは、ハンドリングの軽さもさることながら、スペース効率を犠牲にしないためです。13インチにすると、シート下の収納容量にシワ寄せがくると判断しました。

----:全長、全高、ホイールベース、シート高といった数値は、Xに対してやや拡大されています。実際に乗った時の印象も異なるものでしょうか?

柳原:そこはぜひ訴求したいポイントのひとつです。ハンドルグリップ、シート座面、フットスペースを結ぶライディングポジションは、実はXとまったく同じになっています。シートが10mm高くなった分、その位置関係がわずかに上がっていますが、Xからお乗り換えのユーザーの皆様からは「違和感がない」、「これまでと同じ感覚で乗れる」という声を頂戴しています。

----:サスペンションに変更はありますか?

柳原:リヤサスペンションのプリロード調整が3段階から4段階になり、荷重に対する許容範囲が広がっています。

望月:軽量化と剛性アップのためにサスペンション本体をショート化しつつ、ホイールトラベルは犠牲にならないように配置し直すなど、かなり手を加えました。

フラットフロアで実現したスポーツ性

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----:NMAXと基本は同じ水冷エンジンを搭載していますが、グリファスならではの苦労というのはあったのでしょうか。

望月:センタートンネルがなく、しかも燃料タンクを床下に置こうとすると、やはり剛性としなりのバランスが難しくなるのですが、構造も材料も解析技術も見直すことによって最良のものができたと自負しています。

勝山:フラットフロアは、NMAXのようなセンターフロアとは空気の流れが違いますから、放熱のための構造変更に加え、エンジン本体でも対策しています。台湾での発売は日本よりも早い2020年のことですが、おかげさまでネガティブな声は届いておりません。

柳原:台湾のユーザーはスクーターでタンデムツーリングに出掛けたり、ワインディングでコーナリングを楽しんだり、スクーターレースも盛んだったりと、日本よりもかなり負荷の掛かる環境なのですが、結果的にスポーツ性が磨かれることになりました。

----:バンク角の確保が重要な要素になっているようですね。

藤原:排ガス規制をクリアするには、触媒をエンジンの近くに配置したり、大型のものを装着すれば比較的簡単です。ただし、そうするとバンク角が犠牲になり、ユーザーが求めるスポーツ性が削がれます。そうした要求に応えるきめ細やかな積み重ねに、しっかり時間を掛けたつもりです。

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----:ブレーキに関してですが、新しくUBS(ユニファイドブレーキシステム)が採用されました。このブレーキに関してご説明ください。

柳原:一般的なスクーターのブレーキは、ハンドル右側のレバーでフロントブレーキ、左側でリヤブレーキを作動させますが、弊社のUBS装着車の場合、左側ブレーキを握ると、その力に応じて制動力をフロントブレーキにも配分。車体の挙動を安定させ、より短い距離で安全に減速できるシステムになっています。自然なフィーリングになるように作り込んでいますから、ご体感頂きたい機能のひとつですね。

----:台湾仕様には、UBSだけでなく、ABS(アンチロックブレーキシステム)装着車もラインナップされていると聞きました。これが日本に導入されなかったのはなぜでしょう?

柳原:現在、日本の原付2種クラスは、UBSかABSのどちらかが装着義務になっています。それぞれのメリットとデメリットを踏まえ、日常で扱いやすく、車重もコスト(車体価格は数万円上昇する)も抑えられるUBSを採用することにしました。

NMAXとの違い、進化のポイントは

ヤマハ シグナス グリファス(日本専用色のグレー)ヤマハ シグナス グリファス(日本専用色のグレー)

----:他に台湾仕様と日本仕様で異なる点はありますか?

望月:色の設定が大きな違いですね。日本では定番のブラックやホワイトに加えて、ブルーやグレーを専用色として用意しています。特にグレーにはオレンジのホイールを組み合わせ、他のモデルとは一線を画しているのではないでしょうか。

----:このクラスのライバルに比べ、確かにスポーティなイメージですね。Xもシャープなデザインでしたが、グリファスはアグレッシブさが増しています。

柳原:プロポーションのコンセプトは、獲物を狙う肉食獣の姿勢をモチーフにしました。フロントマスクで睨みをきかせ、リヤでは跳躍するようなキレを表現。停車中だとしても今にも動き出しそうな躍動感を与えています。ハンドルからフロントアクスルにかけて縦基調のロゴを配し、こうしたところからもアジリティ(機敏性)を感じて頂けるのではないでしょうか。

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----:なるほど。そういう意味では、シックなNMAXとは明確に差別化が図られているように思いますが、価格には大きな開きがない(NMAXが1万1000円高い)のも事実。ユーザーがグリファスとNMAXを比較した場合、何を決め手にすればいいでしょうか?

望月:どちらも自信を持ってお勧めできるモデルではありますが、グリファスとの大きな違いはやはりフロア形状ですね。NMAXにはセンタートンネルがあり、ライディングポジションにゆとりがある一方、フラットなグリファスは乗降のしやすさに分があります。ハンドリングや取り回しも軽く、キビキビとした走りを求めるユーザーにはグリファスがふさわしいかと。収納スペースにも余裕があるため、使われるシチュエーションに照らし合わせながらご検討いただければと思います。

ヤマハ シグナス グリファスヤマハ シグナス グリファス

----:Xからの乗り換えを想定した場合、最も分かりやすい進化のポイントはどこでしょうか?

勝山:この水冷エンジンには、VVAと呼ばれる吸気バルブの可変機構を採用しています。低回転時は力強いローカム、中高回転時ではスムーズに回転が上昇するハイカムに切り換わる機構ですが、これがもたらす心地よさや爽快なパワーフィーリングを楽しんで頂きたいですね。

柳原:走りだけでなく、USBポートや大型フル液晶ディスプレイの装備など、利便性や質感の面でも作り込んでいますから、新時代のシグナスをぜひお楽しみください。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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