コロナ禍での応急手当、「人工呼吸」はどうする?【岩貞るみこの人道車医】

AED講習のイメージ
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クルマに事故はつきもの。目の前の傷病者へのバイスタンダー(そばにいる人)の対応で、救命率(後遺症も)は大きく変わる。今では運転免許取得時のカリキュラムに入っているほどだ。

しかし、コロナの今、外を歩く人ですらマスクをし、エアロゾル(ウイルスなどが浮遊した空気)対策で不織布マスクが推奨されているなか、だれかを助けるために人工呼吸もしなければいけないのか? 応急手当はどのようにすればいいのだろう。

そんななか、日本救急医療財団の心肺蘇生法委員会が「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生法について(指針)」を作成していた。これは東京消防庁の応急手当講習会でも採用しているので読者のみなさんと共有したい。

傷病者がコロナに感染している可能性

応急手当の流れの基本をおさらいしよう。

(1)倒れている人を発見

(2)自分がほかの事故に巻き込まれないよう、周囲の安全を確認

(3)両肩をたたき「わかりますか?」と呼びかける

(4)反応がなければ周囲に助けを求め、「119番通報してください」「AEDを持ってきてください」と、指名して頼む(単に大声で言うだけだけでは、ほかの誰かがやるだろうと感じて誰もやってくれないことになる)

(5)胸の動きを見ながら傷病者が呼吸しているか確認

(6)普段通りの呼吸をしていなければ、胸骨圧迫30回、人工呼吸2回のセットを繰り返す

(7)AEDが到着したら電源を入れ、パッドを貼り、AEDのメッセージ通りに行動(詳細省略)

(8)救急隊に引き継ぐか、傷病者の応答が出るまで上記の(6)と(7)を繰り返す

では、コロナの今、これがどのように変わるのか。基本は、目の前にいる傷病者はすべて、コロナに感染している可能性があると思って対応をすることである。となると、気を付けたいのは、(3)意識の確認で、傷病者の顔に自分の顔を近づけるとき。(5)普段通りの呼吸をしているかの確認。(6)人工呼吸をするとき。といった部分だ。そして当然、室内であれば換気も必要になってくる。

(3)の意識の確認では、傷病者の口元に耳を寄せて小さな声もしっかり聞き取ると学んだ。しかし、コロナ指針で顔同士を寄せることはよくない。助ける人は上体を起こしたままで顔を近づけず、できる限り傷病者の顔との距離を保って行うこととなっている。

そして、いる場所の換気。(4)では、「119番通報」「AEDの搬送」に加え、「あなたは窓を開けて換気をしてください」と伝えることが加わる(屋内のみ)。

人工呼吸はどうやるのか

(5)の呼吸確認も、助ける人は顔を近づけずに傷病者の胸の動きを観察となる。(6)人工呼吸はどうやるのか。

マウス・トゥ・マウス式の人工呼吸は、感染防止用のマウスシートを使うことになっているが、それでも口から吐き出される空気が直接かかるような状況を作ることは避けたい。指針では、意識のない「大人」には、人工呼吸を行わず、胸骨圧迫とAEDによる電気ショックを実施するとしている。

人工呼吸をしないと、酸素が足りなくなるのでは? と、思われがちだが、体内の血液には十分な酸素が含まれており、胸骨圧迫で心臓を動かしてあげるだけで、かなりの時間、効果があることが証明されている。

私が高校生のときに日本赤十字社の講習を受けた時代は、人工呼吸と胸骨圧迫は必ずセットと学んだが、今では「人工呼吸ができないときは、胸骨圧迫だけでよい」と変わっている。交通事故で口元が骨折している場合や、嘔吐などで喉がふさがれているときに人工呼吸はできないが、その場合でも胸骨圧迫だけは積極的に行おうとなったのである。

その胸骨圧迫。胸を押せば、肺のなかにある空気が傷病者の口元から出てくる。指針ではエアロゾルを浴びないよう、胸骨圧迫を行う前にハンカチやタオルなどを一枚、傷病者の口と鼻を覆うようにかぶせるようにせよとされている。

ここから後は、これまで通り。とにかく胸骨圧迫を、「約5cm沈むまで」「一分間に100~120のテンポで」「絶え間なく」続ける。そして、AEDを使用して「反応が出る」か「救急隊員に引き継ぐまで」がんばるのだ。

目の前の人の運命を握っているのは

一方、「子ども」に対しては、少し考え方が異なる。子どもの心停止は窒息や溺水などが多く、人工呼吸の必要性が高いことが多い。ゆえに、技術を身に着けていて、行う意志がある場合には、人工呼吸も実施するとなっている。

なお、AEDによっては、小児用のパッドなどが入っているが、ただしこの「小児」は「およそ6歳まで」。小学生の場合、電車では小児運賃が適用されるが、AEDでは大人用を使用しなければ効果が出ないことを覚えておきたい。もう10年以上、この紛らわしい表記は変えるべきと言われているが、対応が遅れているのが残念である。

コロナの感染拡大が最もひどかったこの夏、救急車の到着時間が遅れたことは、以前もこのコラムで書いたとおり。その間、目の前の人の運命を握っているのは、そばにいる人だ。「ずっと前にやったけれど、もう忘れちゃった」という人は、改めて手順をおさらいして、いざというときに備えてほしいと思う。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家

イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。

《岩貞るみこ》

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