【ヤマハ SR400 ファイナルエディション 試乗】景色が違って見えた、あぁ青春のSR…佐川健太郎

ヤマハSR400 Final Edition
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ついに終わってしまうのか……。「SR」の43年におよぶ歴史が幕を閉じようとしている今、長い間お疲れ様という感謝の気持ちとともに、もう新車では買えないのかという焦りも入り混じった複雑な感情が湧きあがる。多くのライダーが同じ気持ちではないだろうか。

『SR400』が登場したのは1978年。記憶が曖昧だが自分が高校に入った頃のことで、失礼ながら当時はあまり話題になっていなかったと思う。今でこそレトロ感がお洒落でシングルエンジンの鼓動は心地良いものだが、70年代後半は2気筒から4気筒へと多気筒・高出力化が急速に進んだ時代でもあり、SRは空冷単気筒のベーシックなエンジンを積んだ「普通のバイク」といった感じだった。

さらに言うと、その当時でさえメカ的にもデザイン的にもレトロな感じがしたのだ。今流に言えば当時からネオクラシックであり、そのまま約半世紀を経てSRは本物のクラシックになってしまった。

景色が違って見えた、青春のSR

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バイクというのは不思議な存在だ。若き日の記憶はその頃に乗っていたバイクとセットになって心のひだに定着している。自分ではSRを所有したことがないが、40年近いバイク歴の中ではもちろん何度かは乗ったことがある。記憶に残るのは濃紺と白のツートンカラーが美しかった83年型。自分の中ではこのカラーとグラフィックが最高のSRだ。大学の先輩が乗るそのSRをちょっとお借りして、明治通りを渋谷から新宿へ。代々木公園の辺りをトコトコとSRで散歩した。

当時、自分が所有していた水冷直4マシン『XJ400Z』とはまるで異なる小気味よいサウンドとふわっとした優しい乗り味が新鮮で、街を流しているだけでポップな気分になった。ちょうど今ぐらいの季節だったかもしれない。新緑が美しく燃え、グレーがかった都会の景色がいつもとは違って見えたことを覚えている。

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80年代中盤はSRのカッコ良さがようやく認知され始めて、ツー好みの大人が乗るちょっとお洒落なバイクになっていた。SR専門のカスタムショップなども出始めて、ピカピカのアルミタンクにセパハンでキメたカフェ仕様なども若者の街でよく見かけるように。パリダカにも参戦したビッグオフ、『XT500』譲りのタフで信頼性の高いエンジンは、その生まれからして軽量・コンパクトで見た目にも美しく、シンプルな車体構造とケレン味のないデザインはカスタムの土台としても最適だったのだろう。

今思えば、SRは最初から素性の良さが際立っていたのだ。だからこそ43年もの間、世代を超えて多くの人々に愛され続けてきたわけだ。

久々に乗るSRは、やはりSRだった

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前置きが長くなったが、今あらためてファイナルエディション(FE)に乗ってみて思ったのは、こんな乗りやすかったっけ?という意外さ。もちろん、SR名物のキックスタートは慣れないと難しいし、中途半端なキックでケッチンを食らえば敗北感を味わうが、それでも始動性は昔と比べてかなり良くなっている。インジェクション仕様になったこともあると思うが、圧縮を抜くためのデコンプレバーを引かなくてもキック一発でかかるほどだ。

数時間、都内を流しただけだが、久々に乗るSRはやはりSRだった。今のバイクに比べるとびっくりするほどスリムでタイヤも細いが、乗り味は穏やかでゆったりしていて、鉄でできた昔からのバイクらしい重厚感もある。一般的にシングルエンジン=鼓動感の図式があるが、SRのそれは意図的なドコドコ感の演出ではない自然さがあり、円やかでさえある。度重なる排ガス規制に対応してきたことで、キャブ仕様の頃のパルス感はやや影を潜めた感はあるが、でもそれは生き残るために仕方がないことだ。

有終の美に拍手を送りつつも復活を期待

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それよりもSRがSRたる素晴らしさは、その隙のない造形美にあると思う。世界一美しいと言われる単気筒エンジンはもちろんのこと、ガラス製ヘッドライトやクロスワイヤーで編まれた前後18インチホイール、繊細なRを描くクロームメッキのマフラーなど、ほぼすべての構成パーツが初代から変わっていないのだ。改良を重ねて今の形に落ち着いたのではなく、最初からSRとして存在していたという事実こそが素晴らしいと思う。まさにタイムレス。その意味で自分にとってのSRは、過去と現在を行き来するタイムマシンのような存在だ。

はたと気付いたのだが、FEのグラフィックはあの青春の83年型にそっくりだ。ヤマハが何でそれを選んだのか知らないが、なんという巡り合わせ! FEの開発者と心が通じた気がした。有終の美を飾るSRに惜しみない拍手を送りつつも、名残惜しい気持ちになかなか整理はつけられない。いつかまた復活の日を期待してしまうのだ。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★★
扱いやすさ:★★★★★
快適性:★★★★★
オススメ度:★★★★★

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佐川健太郎|モーターサイクルジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。(株)モト・マニアックス代表。バイク動画ジャーナル『MOTOCOM』編集長。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。

《佐川健太郎》

佐川健太郎

早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。メーカーやディーラーのアドバイザーも務める。(株)モト・マニアックス代表。「Yahoo!ニュース個人」オーサー。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。

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