【ホンダ ヴェゼル 新型】気持ちにすっと入ってくる…エクステリアデザイナー[インタビュー]

ホンダ・ヴェゼル
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  • 本田技術研究所デザインセンターアドバンスデザイン室ビジュアライゼーションスタジオアシスタントチーフエンジニアデザイナーの阿子島大輔さん
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ホンダ『ヴェゼル』の次期型が公開された。そのデザインは大きく変化し、シンプルでありながら、ユーザーを引き立てられるようなスタイルを持ったクルマにしたいとデザインされたという。そこで、エクステリアデザイナーにその思いについて話を聞いた。本田技術研究所デザインセンターアドバンスデザイン室ビジュアライゼーションスタジオアシスタントチーフエンジニアデザイナーの阿子島大輔さん本田技術研究所デザインセンターアドバンスデザイン室ビジュアライゼーションスタジオアシスタントチーフエンジニアデザイナーの阿子島大輔さん

幅広いユーザーに向けて

----:はじめにヴェゼルのエクステリアデザインの担当が決まった時にどう思いましたか。

本田技術研究所デザインセンターアドバンスデザイン室ビジュアライゼーションスタジオアシスタントチーフエンジニアデザイナーの阿子島大輔さん(以下敬称略):実は少しの期間でしたが、先代ヴェゼルの先行開発に関わっていた時がありました。その後他の機種を担当して、最近は先行開発グループで新しい機種のデザイン検討をしていたのです。そこにこの話が来ました。

他のホンダ、例えば『アコード』や『シビック』のように何代も続いたクルマでは、どうしてもしっかりとアコードらしさ、シビックらしさを引き継いでいくことが大切になりますが、一方のヴェゼルは初代も新しい価値を持った商品を出したいという思いで作ったクルマでしたから、チャレンジが出来るクルマかなと思い、エキサイトしました。それまで先行開発で仕込んで来た様々な“価値”をお客様に実際に届けられるなと思い、最適な機種を担当させてもらえることになったとすごく楽しみでした。

----:『インサイト』は、ホンダとして訴求したい新たなハイブリッドシステムの価値を、その最適なボディタイプで提案するクルマというイメージがあります。ヴェゼルはハイブリッド専用車ではありませんが、ホンダとしての新しい価値を提案するクルマという意味で、近いポジショニングと感じるのですがいかがでしょう。

阿子島:ヴェゼルは新しい価値を提案しつつも、インサイトと違うのは、より幅広いお客様に向けた商品だというところです。初代ヴェゼルも割と初期の頃から、すごくニッチな商品というよりは、お客様に幅広く受け入れられていましたし、そのようなターゲットに向けて開発していました。そして新型もこの時代に合わせた新しいクロスオーバーSUVを提案しようという目的で、ある一定のお客様に向けた強いメッセージ性を持たせて(ユーザー層の)幅を狭めるのではなく、幅広いお客様に向けて新しい価値を提案していますので、インサイトとは違うかなと思います。ホンダ・ヴェゼルホンダ・ヴェゼル

見せるデザインに加え日々のシーンに馴染むように

----:阿子島さんの中でヴェゼルのイメージはどういうものですか。

阿子島:すごくバランスの良いクルマだと思います。パッケージや、デザインも良い意味でバランスが取れていて、ちょうど良い感じというのが受け入れられていたと思います。

ただ、私がこの話をもらう前に、これからの時代のヴェゼルはこうあると良いと自分なりに考えていことがありました。時代に沿って、ライフスタイルや価値観も変わってきていますし、ホンダは元々他社よりもお客様に近いブランドとしてラインナップを作っています。ヴェゼルはその中でも特にお客様の生活に根付いたクルマなのかなと考えていました。そうすると、表現手法としてもっとお客様に馴染むデザインになると、よりお客様に受け入れられるのではないかと思っていたのです。

例えば先代のエクステリアデザインは、割と“見せる”デザインで、それはそれでお客様にはクーペスタイルの美しさが提供出来ていました。しかし、そういった美しさがありながらも、さらにお客様の生活や日々のいろいろなシーンに馴染むクルマであったら、愛着をより深めて日々満足して乗ってもらえるのではないか。そういった点ではさらに改善がまだ出来るクルマではないかと考えていました。ホンダ・ヴェゼルホンダ・ヴェゼル

クルマのデザインだけが異質

----:さて、今回のターゲットは“ジェネレーションC”とのことですが、なぜこのようなターゲットを設定したのでしょうか。

阿子島:その理由は、どこかひとつの年齢層やライフスタイルを持った人たちだけではなく、世代に関わらず、例えばもう少し新しいものを取り入れたいとか、新しいチャレンジをしたいなどの、いわゆる先行層の方たちをイメージしたからで、自分たちの調査では、2030年に向けて全購入者層の中で40%くらいいるのではないかと予測を立てています。つまり、ヴェゼルは男性だけ、女性だけというよりも、幅広い層の中にいる人たちに、“ちょっと”プラスアルファ、半歩先の価値観を提供出来たらということで、ジェネレーションCをターゲットに設定しました。

----:今回のグランドコンセプトは、アンプ・アップ・ユア・ライフ、行動範囲を増幅させるというものです。それを踏まえ、ジェネレーションCが求める価値を、信頼、美しさ、気軽な楽しさと捉え、この3つをテーマにヴェゼルに反映させたと説明がありました。そこで、エクステリアとしてはどういうアピールが出来るか、どういう表現が出来ると考えましたか。

阿子島:新型も引き続きクロスオーバーのコンパクトSUVとうたっていますが、エクステリアのスタイルとしてはまずシンプルであること。しかし、お客様を引き立てられるようなスタイルを持ったクルマにしたいということが一番大きな狙いでした。

ここ10年ぐらいのトレンドを見ると、エクステリアはすごくアグレッシブ、ダイナミックなデザインが多く、自分はここにいると主義主張する傾向が見えています。しかし、建築や家具をはじめとした様々なプロダクトデザインを見渡すと、お客様に近いテイストのデザインが多く、クルマだけが異質に感じていました。確かに嗜好品ですし特別な存在ではあるのですが、もう少しお客様の生活に近寄ってもいいのではないかと感じていました。

そこでヴェゼルでは、そのあたり(お客様に近いテイスト)を引き立てながらも、シンプルでつまらなく、素っ気なく終わってしまうのではなく、逆に見飽きないどころか、日々見るごとにすごく考えられている。毎日見てもこのクルマは良いなと思ってもらえる見え方をたくさん持ったクルマにしたいとデザインしました。ホンダ・ヴェゼルホンダ・ヴェゼル

もっと出かけたくなるデザインを目指して

----:では、エクステリアデザインのコンセプトはどういうものですか。

阿子島:グランドコンセプトの3つのキーワード(信頼、美しさ、気軽な楽しさ)に合わせて、今回はエクステリアだけではなくクルマ1台でどういうあり方をデザイン出来るかが自分たちのテーマでした。先代ヴェゼルよりももっとお客様に寄り添うために、先代はもとより、最近のホンダのクルマ作りからどのように次の価値に持って行けるかを、グランドコンセプトのもとに内外装、カラー・マテリアル、クルマの性能までも含め、それぞれが別の表現をするのではなくクルマ全体としてそれぞれの垣根をどのようになくすことが出来るかを考えたのです。

例えば先代のエクステリアのデザインは、美しいクーペデザインと当時はされていましたが、後席に乗った時に閉塞感があったり、全体のパッケージングはすごくよく練られてはいましたが、リア周りではユーティリティー性が勝ち過ぎていて、他車と並んだ時に少し生活の色が出過ぎてしまっていました。

そういったところをどのようにすると、説明臭くなく自然にクルマ1台として上手くまとめることが出来るか。どうすればエクステリア、インテリア、カラーが同じ雰囲気で作れるか。そう考えると、それぞれが別々のコンセプトではなく、あくまでも同じコンセプトの3つのキーワードを踏まえて、その解釈のレベルでそれぞれ違うアプローチを取ろうとしたのです。そこで、アンプ・アップ・ユア・ライフ、日々のアンプ・アップ・パートナーとしていかにエクステリアをデザインすべきかがコンセプトだったわけです。

----:具体的にエクステリアデザインではどのように表現したのですか。

阿子島:まず信頼の部分ですが、他車と競合になった時に、先代は少し線が細いとか、相手の方がマッシブでマス感があるとか、力強く感じるというお客様が増えて来ていました。そこで、コンパクトで扱いやすいサイズをキープしながら、どうしたら安心感や、殊更周りを威嚇せずとも、しっかりと存在感を持った塊に出来るかを考えながらデザインしました。

また、いままでのSUVはどうしてもマスを感じて、ともすると出かけることが億劫になることもありました。しかし、新型ヴェゼルでは、エブリデイ・アンプ・アップ・パートナーとして、お客様がもっとポジティブな気持ちになり、能動的にいろいろなアクティビティをしたい、新しい発見をしたいと思ってもらえるような、軽快感や躍動感を持ったもとしようとしました。思い立ったらふと出かけたくなるような、そんな佇まいを持ったSUVの進化、クロスオーバーにしていきたいと考えたのです。

そして、運転が楽しくなる、自信が持てるとしては、例えばフード周りやキャビン周りの視界はインテリアと共に取り組みました。室内から見えるフードのデザインや、このクルマだったら自信を持って運転が出来る、もっと運転したくなるという全体の気持ちに働きかけることなど、いろいろな思いが詰まった、ただエクステリアだけの表現ではない“心”を感じてもらいたいですね。ホンダ・ヴェゼルホンダ・ヴェゼル

素直に格好良い

----:いまのお話を伺うと人に寄り添って、もっとこうしたら快適だとか、どうしたら気持ち良いかという思いでデザインされているようですね。その一方で初代ヴェゼルはデザインコンシャスで尖っていたイメージもありますので、そこから今回のヴェゼルは大きく変わったという印象です。そこで初代ヴェゼルから今回のヴェゼルに引き継いでいるもの、アイデンティティのようなものはどう捉えれば良いのでしょうか。

阿子島:大きく考え方を変えたというのはその通りです。手法を引き継ぐというよりは、いまの生活にちょっと新しい、フレッシュな空気を届けるような新しい提案です。例えば先代ヴェゼルが出た時のことを覚えているのですが、このクルマに乗るといままで行かなかったところにちょっと行ってみたくなる。あるいは、当時のホンダ車はおしゃれなところに行きづらいというイメージもありましたが(笑)、そういうところにも行くことが出来るクルマだと感じました。

いま、お客様のライフスタイルも変わってきていますが、新しい生活の中でアクティビティや、こういうチャレンジをしたいという気持ちになってもらえるようなクルマというイメージは引き継いだつもりです。

先代が出た当時、他社にはないコンパクトでクーペスタイルを取り入れたSUVでしたから、パーソナル性があったクルマだったと思います。その後のエクステリアのトレンドはよりパーソナルな方向のプロポーションになって来ていますので、自分たちもお客様に他社と比べてこのクルマはSUVだけれどもミニバンぽいよねといわれないように、シンプルな気持ちで、素直に格好良いなという思いで乗ってもらえるようにまとめたかったのです。

その一方で他社のようなエクステリアのスタイリング優先のクルマにはしたくはありませんでした。前席も後席も、もっとこのクルマに乗っている時間を楽しんでもらえるような1台のあり方を突き詰めたいと、先代のスタイリング、エクステリアはクーペのスタイリング、インテリアは空間が広いというのではなく、外と中を連動させるように手法を変えることが必要かなと考えたのです。ホンダ・ヴェゼルホンダ・ヴェゼル

スーッと流れるように走り去る姿

----:そうすると今回一番意識したのは室内の広さをエクステリアでも感じさせたいということでしょうか。

阿子島:中に乗り込んだ時にこんなに広い空間なのかというよりは、外から見てなんだか快適そうだなというようなイメージで、例えば『アコードエアロデッキ』のような、長くてスクエアなキャビンによって、外から見てなんだかこのクルマは気持ち良さそうだなと感じてもらえるようにしたいと思いました。また、先代のリア席に長く乗っていると、もう少しショルダー周りが明るくなって欲しいとも感じていました。ホンダ アコードエアロデッキホンダ・アコードエアロデッキ

フロントについては、インテリアのピラー周りの段差(Aピラー周り)をなくすことで抜け感を出したいと感じていました。そこで、ショルダー部分からそのまま繋がっていくことで、意識が外に向かうような仕掛けをしたデザインになっています。ここからスーッと気持ち良さを感じてもらえますので、エクステリアでもそのような表現手法を取り入れました。

----:そのエクステリアではショルダー部分のキャラクターラインがクルマを1周しています。

阿子島:このショルダーのところは今回の見せどころだと思っています。全高を低全高化するとともに、下も切り上げる(車高を高く見せている)ことで、ここに意識を向けています。また、フロントの鼻先からリアのお尻のところいっぱいにまで使い切る(線を長く引く)ことで、水平基調をより強調したボリューム感となっています。ホンダ・ヴェゼルホンダ・ヴェゼル

----:そのキャラクターラインだけでも少しウエッジをかけたりをしようとは思わなかったのですか。

阿子島:なるべく表面的なデザインではなく、誠実なデザインというか、見た目通りに中の空間も感じてもらえるようにしたいと思ったのです。水平の基調を持った骨格をまず作って、その中で単調にならない動きをどのようにつけられるかと、面質やボリュームのコントロールをしていきました。少し離れたところでサイドビューを見てもらうと、意外と動きが感じられると思います。

走り抜ける姿を見ると、他のクルマはウエッジがついていて突っ込んでいくように走るのとは違い、スーッと流れるように走りますので、その姿も是非見てもらいたいですね。スーッと走り去っていく身軽さ、軽快さの表現が出来たらいいなと思い今回デザインしました。ホンダ・ヴェゼルホンダ・ヴェゼル

----:また、フロントのボンネットとフェンダーの合わせあたりは少し削ぎ面にすることでよりフェンダーが出ているように見せていますね。

阿子島:そうです。フェンダー単体でぽこっと出すよりは、長いスパンで見せようとしました。ボンネット上面左右の線も気持ちねじりながら内側に入れていますので、そこまでがフェンダーとして見えつつ、さらに、このラインを決めたのはドライバー席からの見え方です。気持ちの良いノイズレスな視界をと考えた時にどれくらいのところで線が消えていくと良いかなども考えました。

ホンダらしさとは

----:今回はホンダらしさを表現したいというお話も伺いました。

阿子島:ホンダらしさを表現した一番のポイントはサイドビューの佇まいです。基本に立ち返り、ホンダ伝統のスリークなプロポーション、外からでも室内の爽快さが感じられる水平基調のベルトラインと、長さをしっかりと取ったキャビンシルエット。そしてその立体をクリーンなサーフェシングで包み、シンプルにまとめ上げました。その結果ヴェゼルは他社にないホンダならではのパッケージングによるユニークな佇まいを持ったデザインとなっています。望遠レンズで引き気味に眺めていただければ、よりその特徴を感じていただけるデザインです。

----:フロントグリルも特徴的ですね。

阿子島:ホンダは長らくソリッドウィングフェイスをアイデンティティとしてきましたが、お客様の生活に寄り添うデザインを目指すホンダとして、新型『フィット』やマイナーチェンジした『フリード』等にグリルレスデザインを採用した、シンプルかつ親和性のあるフロントフェイスデザインの展開を行っています。

今回のヴェゼルにおいてもこのホンダの新しいフロントフェイスデザインをベースとし、ホンダらしいスマートさ、より身近に感じていただける親和性を持ったデザインとしながら、そこにヴェゼル(=エブリデイ・アンプ・アップ・パートナー)として相応しい、お客様に日々の活力やインスピレーションを感じてもらえる、精悍で、個性的な表情をプラスしデザインしました。

具体的にはフロントセンター部のボリュームの押し出しを強め、より立体的で存在感を増した造形としながら、その立体上に、フレームをなくし、ボディ同色化した“シームレスグリルデザイン”を一体化させることで、力強さとクリーンさを両立した、ユニークな顔周りのデザインとしました。またグリル中央(Hマーク付近)で上下のセクションを分けながら、鼻先からヘッドライトへの造形を連続させることで、ホンダらしいワイド基調を感じさせるデザインとなっています。ホンダ・ヴェゼルホンダ・ヴェゼル

こだわりのサイドビュー

----:そのほかにエクステリアデザインとしてこだわったところを教えてください。

阿子島:やはり一番はサイドビューです。ちょうどショルダーのところが浮かび上がって来て、リズム感が感じられると思います。単調にただ前に前に進むのではなく、人の気持ちに寄り添い、心地よい強弱をつけたいと思い、それを表現したのがエクステリアとしてのアンプ・アップ・ユア・ライフを踏まえた勢いを増していくサイドビューなのです。

またディメンション的にもキープサイズでしたので、コンパクトサイズをしっかり守った上で、しかし先代よりもしっかりと大きく、長いと感じてもらえるようなスケール感を出している点もこだわりました。実際にこのヴェゼルを初めて見た人は絶対に大きくなっているといわれます。

----:では最後に今回デザインするにあたっての思いなどを教えてください。

阿子島:今回は内外装などを含めてクルマ1台としてデザインしたわけですが、どう作意を残さずに務めてシンプルに出来るかが本当にチャレンジでした。例えばどこかのラインを動かすと全部のバランスを取り直しになりますので、今回はそういったところを早い段階で方向性を決めて、その後の熟成、作り込みをしっかり時間をかけて行いました。その結果、どこか気になる、破綻しているなというものがないデザインになりました。そういった意味で気持ちにすっと入ってくるデザインだといってもらえると一番嬉しいですね。
そのインテリアはグランドコンセプト、“アンプ・アップ・ユア・ライフ”をもとに広々とした世界観を表現している。そこで、そのこだわりについてインテリアデザイナーに話……

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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