【WEC】ルマン2年連続2位の小林可夢偉…7号車おしくも逸勝の遠因は「予選でのバタバタした流れ」

左から小林可夢偉、中嶋一貴、GRパワートレーン推進部の加地雅哉部長。
  • 左から小林可夢偉、中嶋一貴、GRパワートレーン推進部の加地雅哉部長。
  • 小林可夢偉はおしくもルマン初優勝ならなかった。
  • トヨタ東京本社に小林可夢偉と中嶋一貴が“報告凱旋”。
  • 小林可夢偉と中嶋一貴。
  • 左から可夢偉、一貴、GRパワートレーン推進部の加地部長。
  • #7 トヨタはルマンで2年連続2位に。
  • #7 トヨタの(左から)ロペス、可夢偉、コンウェイ。

19日、ルマン24時間レースで2年連続1-2フィニッシュを達成したトヨタの日本人選手および陣営首脳が、WEC 2018/2019シーズンの報告会というかたちでトヨタ東京本社に凱旋。小林可夢偉らの7号車「TS050」が残り1時間でルマン優勝を逃すことになった“状況”も報告されている。

今年のルマンは、世界耐久選手権(WEC)2018/2019シーズンの最終戦。トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing=TGR)はWECの対象タイトル2冠の獲得を2014年シーズン以来4季ぶりに実現した。全8戦のうち、1-2ゴール後に失格した第3戦を除く7戦で勝利、うち6戦が1-2フィニッシュだった。

WEC最高峰クラス「LMP1」にハイブリッドマシンでメーカーが(いわゆる)ワークス参戦をしているのは現在トヨタだけ。そういう参戦状況を考えれば、傍目には「ルマンもWECも勝ってあたりまえ」と見られても仕方ない。しかしトヨタは、1-2を走る8号車と7号車を(最後の一線は越えないまでも)戦わせ続けた。それはドライバーやチームスタッフの気持ち、なによりファンのことを考えた姿勢であり、結果以上に内容を賞賛されて然るべきだろう。

今季の2冠獲得自体は最終戦の前に確定しており、あとは中嶋一貴組の8号車と可夢偉組の7号車、どちらがドライバー部門王座に就くかの争いが最終戦ルマンに持ち越されていた。ただ、ポイント状況は8号車が圧倒的優位。7号車がルマンで優勝しても、8号車がリタイア(に近いくらいの状況)に陥らない限り、逆転は難しかった。

だからということではなく、それ以前に両車ともルマンでまず目指すべきは、やはり「ルマン優勝の栄誉」である。昨年はトヨタが1-2で初制覇を達成したが、当時2位だった7号車(小林可夢偉/M.コンウェイ/J-M.ロペス)は今度こそ初優勝したいし、8号車(中嶋一貴/F.アロンソ/S.ブエミ)は2年連続優勝を狙いたい。今年のルマンでも、7号車と8号車は“寸止めガチンコバトル”を繰り広げた。

レースは7号車が主導権を取っての展開となる。8号車は「レース中は空力面での悩みがあり、その原因がドアが閉まりにくい状況にあったことに気づくのが遅れましたね」(一貴)ということもあり、僚機に対し今年のルマンでは速さの面で苦戦した。

しかし残り約1時間のところで、首位の7号車に緊急事態が発生する。ルーティン外の連続ピットインとその間のスロー走行で首位から陥落、7号車は今年も2位に甘んじることに(可夢偉個人は2年連続3回目の2位)。可夢偉が言う。「たぶん『壁』なんだろうな、と。あんなところでああいうことが起きるということは、まだまだルマンは僕たちには勝たせてくれないんだな、と受け入れるしかなかったですね」。

可夢偉と、メディア向け報告会に同席したGRパワートレーン推進部の加地雅哉部長の説明により、緊急事態の“状況”はかなりのところまで明らかになった。

まず、タイヤの空気圧センサーが「右フロントの異常」を告げてきた。そこで7号車(ドライバーはロペス)はピットへ。右フロントタイヤを交換して、コースへと戻る。ところが、ロペスが「コーションが消えていない」と情報をあげてきたという。彼は実際にどこかがまだパンクしている症状も感じ取っていた。そして、ピットでは外した右フロントタイヤの空気圧が落ちていないことが確認される。

どこかが、まだパンクしているのは確実だ。そこで7号車はバーストのリスクを避けてスロー走行し、再度ピットへ。今度は4輪交換してコース復帰、以降はまた速いペースで走れた。だが、この局面での2度目のピットイン目前に8号車に先行されており、勝敗は事実上、ここで決した。

レース後、「右フロントと右リヤのセンサーが配線上でスワップして(逆になって)いたことが分かりました」と加地部長。つまり、実際にパンクしていたのは「右リヤでした」。空気圧センサーは右前と右後、逆のタイヤをそれぞれ見ていたという。

なぜそんな状態になっていたのか、そこには“遠因”があった。可夢偉が語る。

「僕たち7号車は予選初日のアクシデントで、シャシー交換をしていたんです」。コンウェイのドライブ時に他クラスのマシンとの接触アクシデントが発生したためだった。それでもマシンは予選2日目にギリギリ間に合い、可夢偉がポールポジションランを決めている。しかし、通常はファクトリーで4日くらいかけてマシンを組み上げるというところを戦地で一晩の突貫作業となったため、思わぬ状態(ミスだろう)が生じてしまっていたようだ。

「(7号車には予選での)バタバタした流れがありましたからね。だからそういうことが起きるのかな、と思うところです」と可夢偉。これこそが、彼の言う『壁』なのかもしれない。速さも戻って、24時間レースでは「トラブルらしいトラブルなく走れた」が、レースウイーク全体を順調に過ごしたわけではない7号車に対してルマンの神様は牙をむいた、というところか。2台を戦わせるというTGRの高貴な姿勢もまた、遠因であったと考えられる。

加地部長は「2日目の予選開始直前に組み上がったマシンでポールタイムを出した可夢偉には感謝していますし、スタッフもよく作業してくれたと思います」とした上で、自分たち陣営首脳に対し厳しく言う。「7号車のみんなに申し訳ない。我々の、クルマのミスです。ルマンの神様が、ちゃんとしたクルマをつくれないお前たち(TGR)にはまだ(本当に)勝つ資格はないんだ、と言っているようでした」。

ここで思うのは、最初の緊急ピットイン時、ハナから4輪交換してしまえば良かったのでは、ということだ。加地部長は「タラレバでいえばそうかもしれません」としつつ、以下の旨を説明した。レース最終盤であり、タイヤには使用セット数の制限があるため、当然もう中古しか残っていなかった。だから、パンクしていないタイヤを、使い込んだ中古に換えるのにもリスクがある。ということで、陣営はセンサーが示す該当タイヤ1本だけを換える判断をしたのだ、と。「それ自体は正しい選択だったと思います」。

こういった悲劇には、やはり様々な要素が絡むものである。メディア向け報告会のあとに行なわれた、トヨタ東京本社で働く仲間への報告祝賀イベントで、可夢偉は「なんか僕たち(7号車)はドラマ担当になってますけど」と言って笑いを誘った。明るくふるまってはいても、その悔しさは察するにあまりあるところ。改良型TS050で再び競う来年のルマンで『壁』を打破することを期待したい(来季のドライバー編成は未発表)。

また、加地部長は「(2年連続ルマンを1-2で制しWEC王座を奪還しても)まだ足りない部分がある。継続改善していく」と、さらなるチーム力向上を誓いつつ、来季(2019/2020シーズン)、そして新たなハイパーカー規定で戦う再来季(2020/2021シーズン)への意気込みを語っている。

まず来季については、「レギュレーション次第で(ノンハイブリッドLMP1勢の)SMPレーシングやレベリオン・レーシングも速くなるでしょうから、我々だけが勝つとは限らない」との見方を加地部長を示し、さらにアストンマーティン・ヴァルキリーとハイパーカー規定で戦うことになる再来季に向けては、「彼らと真剣勝負できることが嬉しいですし、身が引き締まる思いです」との旨を話した。

トヨタのハイパーカーは、市販に向けて開発中のGRスーパースポーツ(仮称)をベースとするハイブリッド・プロトタイプ車両とされる。やはりWECに関しては今後、一足飛びに2020/2021シーズンの話題が注目を集めていきそうなムードである(富士スピードウェイで可夢偉も参加してのGRスーパースポーツ開発テストの模様がTGRの公式YouTube映像で公開中)。

《遠藤俊幸》

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