【川崎大輔の流通大陸】女性社長がみる、タイの自動車ビジネス

幸長社長
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タイにある日系自動車部品会社、New-Era International。女性社長の幸長氏に、タイ自動車ビジネスの課題と魅力について話を聞いた。

内需拡大へと反転、タイの新車市場

2017年のタイの生産台数は前年比2.3%増の199万台。車種別では、乗用車が前年比1.7%増、商用車が2.7%の増となった。タイ新車販売台数は、2012年に過去最高の143万台を記録したが、その後、2013年から2016年まで4年連続で減少。しかし、2016年10月のプミポン前国王の死去に伴う買い控えが終わった2017年は前年比13.3%増の87万台と反転した。

タイの新車販売は各社自動車メーカーによる新モデルの投入や、ファーストカーバイヤープログラム(初めて自動車を購入した人が対象の税金還付制度)の消費者が、5年間の転売禁止期間終了に伴う買い替え需要、更にタイ経済の景気回復などの影響で好調だ。

トヨタ・モーター・タイランド(TMT)は18年上半期のタイの新車販売台数が前年同期比19.3%増の48万9118台だったと発表。乗用車が17.9%増の19万310台、商用車が20.2%増の29万8808台と軒並み好調で、通年の新車販売台数は12.4%増の98万台を見込み、年初見通し90万台から大幅に上方修正をしている。

デフレ圧力緩和などによる経済成長と中間所得の増加、更に2018年に予定される公共交通インフラプロジェクトとそれによる民間投資の促進。特に公共インフラプロジェクトにおいては中型トラックや大型トラック、ピックアップトラックの需要の刺激が期待されている。TMTの菅田社長は「タイ政府による景気刺激策などの影響で、自動車市場は前年同期と比較してより回復基調にある」と語っており、内需が拡大している。

20代で現地女性社長へ

日本企業New Eraの子会社であるNew-Era Internationalは、前述したように自動車市場の内需が拡大するタイで自動車用電装部品を生産し続けている。タイで生産した商品は全て日本の親会社に一度送り返すスキームで完全な生産拠点となっている。

New-Era International(タイ法人)の社長は幸長氏だ。彼女は2001年に高校を卒業してタイに留学。それ以降18年間、タイに住みビジネスをしている。10年前に偶然の縁によってNew-Era Internationalのタイ進出での工場立ち上げにかかわった。

当時、幸長氏が勤務していた自動車部品製造会社へ、日本のNew Eraの会長から相談がきた。相談の内容は「タイで製品のOEMの可能性を調査してくれないか?」という話だった。そこで幸長氏が調査をしてみると「自社で現地法人を作った方がOEMより良い」ということがわかった。その調査結果をNew Eraの会長へ提案したところ、プロジェクトチームが発足されオブザーバーとしてかかわることになった。

会社設立が決定した2009年にNew Eraの会長から現地社長を頼まれたと言う。幸長氏は「ちょっと無理ですと最初は断りました」と昔を回想しながら語ってくれた。更に「社内的にも『若造が突然社長?』と。あとは私自身の経験も不足していて自信がありませんでした」(幸長氏)。それでも最終的には「当時の会長から『海外は誰でもできるわけではない。サポートをするのでぜひやっていただきたい』と言われ、受けることにしました」。

現在、工場のスタッフは合計42名(男性6名、女性36名)で、工場に30名、管理部門に12名という体制だ。材料を調達して、生産して、月コンテナ4本ほどのボリュームの生産品を日本へ送る。アフターマーケット用の自動車部品として、最終的な商品は、タイを含め、フィリピン、ミャンマー、インドネシア、スリランカ、マレーシア、南米、中東、アフリカを始め世界各国へ送られている。

「新車の部品ではないため、新車の需要に左右されることはありません。そこがアフターマーケットの強みですね」と語る。更に「やはりトヨタが1番多いですが、そのほかにもホンダ、三菱、日野のトラック向けなどがあります。将来のリスクを分散する目処が立つ分、新車の部品よりも比較的安定した市場と言えます」(幸長氏)。タイの会社は10期目に入り生産量は安定的に増えている。

安心のブランドと定着するスタッフ

New-Era Internationalの差別化は、日本式の工場管理の下、日本レベル品質の商品を生産しているところにある。幸長氏は「電装部品ということでは、タイに中国製が出回ってきています。中国製はかなり安くコストは一般の3割くらいの安さ。値段にけっこう違いがあります。そんな中でもやって行けるのは先人が作ってくれたブランド力という差別化ができているためです。これによって、安心、信頼が確保できているのは非常に大きいと実感します」と指摘する。

「また、長く定着してくれるタイ人。和気藹々と家族的な雰囲気なのでタイ人が居着くのではないのでしょうか?タイ人の中間管理職のおかげです」と言う。タイ人定着の理由についても「タイ人への指導として『当たり前のことを当たり前に』言っています。あとは、コミュニケーションを密に取るようにしています。『今日はどう?』など何かしら声をかけるようにしています」(幸長氏)。

現状の体制が整っている中で、New Eraからの生産委託を確実にやることは前提で、今後は海外やタイ国内から小ロットでのアッセンブルの受注を目指したいと言う。更に将来はタイ人のスタッフが会社を運営できるような体制を目指す。現在、候補となるタイ人の女性マネージャーが2名いる。優秀な人材を抜擢して成長のステップにのせていく、そんな展望を女性社長は描いている。

自動車部品生産ビジネスの課題と今後の流れ

幸長氏は「タイでの課題は、ひとつつがコスト面です。材料費もそうですが、年々高騰する人件費への対応があります。もうひとつの課題は、人材育成です。技術力が高いモノも対応できるようにしていく必要があります。作業効率、品質も上げ不良品率を下げていく必要があります」と指摘する。

確かに、技術力が頭打ちにも関わらずコスト(人件費)だけが上がってしまっている状況では、このあとのタイの自動車産業が突き抜けることは難しい。また、タイはかなり大量生産が当たり前で、小ロットだとコストが高い。中国で作る方が安い。マレーシアやベトナムでも小ロットで対応してきている。そういった意味でも、ゼロからモノを作れる技術力の向上により生産の付加価値をつけていくことはタイにとって重要な課題だ。

大きな魅力としては、既にタイはアジアのデトロイトとしての自動車産業の集積地となっている。更に、サプライチェーンを確立し、メーカーはモノ作りがしやすい環境だ。「今後の流れとして、東南アジアのハブとしてタイの役割は強くなっていくでしょう。そこをしっかりと生かしていくのが良いと思います。周辺のミャンマー、ラオス、カンボジアから人が入ってきます。彼らとの連携も今後の課題となっていくと思います」(幸長氏)。

以前は自動車製造業のアセアン進出は、製造コスト削減が主たる目的であった。しかしそういった目的が減少し、アセアン市場での販売拡大にシフトして、獲得すべき市場として捉(とら)えられている。確かにタイも含め多くの課題は残る。ビジネスはそう簡単にはいかない。

しかし、このような転換期のアセアンにおける自動車市場の変化をしっかり見据える。そしてある程度成熟した自動車市場に新たな商品とサービスを提供していくことが、日系の中小企業にとってはチャンスとなる。特にアセアンでの自動車のアフターマーケットは、日本の中小企業にとって稼げる市場だ。長期的な視野を持ちアセアンでのビジネス展開に取り組むことが重要な意味を持つ。アセアン経済共同体(AEC)の発展とともにアセアンの自動車市場が大きく拡大していくことは間違いない。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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