【ホンダ シビックタイプR 試乗】これぞ日本が誇る最強ホットハッチだ!が「高過ぎる」…桂伸一

試乗記 国産車
ホンダ シビックタイプR(ホンダ鷹栖プルービンググランド試乗)
  • ホンダ シビックタイプR(ホンダ鷹栖プルービンググランド試乗)
  • ホンダ シビックタイプR(ホンダ鷹栖プルービンググランド試乗)
  • ホンダ シビックタイプRと桂伸一氏
  • ホンダ シビックタイプR(ホンダ鷹栖プルービンググランド試乗)
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こんな一台を世界のタイプRファン、ホットハッチファンは待ち望んでいたに違いない。まずはFF最強!! 驚愕の旋回能力を持つ鮮烈な走りに魅せられる!! 

過日、ホンダのジャーナリストの集いで、ショートコースをほんの数km試乗しただけだが、そこで新型『シビック タイプR』のシャーシ性能が並ではない事を明確に感じていた。

世界の新型車が行くテストコースの聖地、ドイツ・ニュルブルクリンク。そこで、新型シビック タイプRは先代を約7秒上回る7分43秒80(2017年4月現在)のFFモデル最速のラップタイムを刻んだ。1周約21km、コーナー数170を越え、高低差300mという登り下り、飛び、捩じれ、ブラインドコーナーにトップギヤ全開で“突入する”クルマにドライバーにも極めて厳しい、4つの村を駆け巡る世界一過酷なマウンテンサーキットである。

そのポイントとなるセクションを縮小してレイアウトした1周6.2kmのワインディングコースがホンダの北のテストコース「ホンダ鷹栖プルービンググランド」である。完成からすでに20数年。北海道の自然が寒さと雪で路面の舗装や地盤を変化させる。数年ぶりに走ると、その変化に驚いた。本家ニュルよりも路面の凹凸が激しく荒れているではないか!! そこで新型タイプRを全開試乗すると…。

従来のホンダ製FFとは明らかに違う次元の走り

タイヤを四隅に配置するロー&ワイドな新型プラットフォームがまず。最高速は270km/hに達する超高速直進安定性は、2700mmのロングホイールベースと、FFのハンドリングカーを造るため、リアの接地安定性の重要さに気付きリアサスをマルチリンク化するとともにトレッドを先代比65mm広げて、リアタイヤの接地性を高めた事が最大の成果。またフロントサスも新設のデュアルアクシス・ストラットが操舵したとおり正確に曲がるハンドリングを実現して、タイプRとしての走りも安定性も乗り味も一大変革した。

ボディはドア回りの開口部の接着方式を採用。捻り剛性を先代比38%引き上げ、重量はマイナス16kgを実現。これももちろん関係性大。

2リットルVTECターボに最大1.56barのブースト圧かけて炸裂した出力は先代の10psアップ、320ps/400Nm!! それを手漕ぎの6速MTで“操る楽しさ”。ショートストロークのシフトは、アップは通常、ダウン時は下のギアに自動で回転合わせを行なうレブマチックを搭載。達人レベルの“ヒール&トウ”はクルマ側が半分やってくれる。1速までやらないのは日産とポルシェに負けてるけど。

ターボトルクで前輪に強引に引っ張られながら、ステア操作した方向に吸込まれていくコーナリング!! これはもう癖になります!! 前輪に仕組まれたヘリカルLSDとアジャイルハンドリングが曲がる方向のイン側にブレーキ力を加える。それはもう、アンダーステアって何!? と思うほど素直にコーナーのインを舐めるように曲がる。

鷹栖はオープン前から走った(ホンダ技研のGr-Aシビックに乗っていた関係で)コースだが、数年ぶりに走ると、レコードラインはすぐに思い出すが、路面の凹凸の激しさは、いまや本家ニュルを凌ぐ荒れ方に驚く。全開走行すればうねりと凹凸、ジャンピングスポットに飛ばされタイヤ~サス~ボディ~乗員にナマの衝撃を伝えてくる極めてタフな状況下で攻め立てる。日本の、どのサーキットで試すよりも最適の場で全開体験できたことで、タイプRの神髄が引き出せたと思う。

日本仕様の最高速は187km/h

周囲には高速周回路もあり、最高速での操縦安定性もチェックできる。だが、メインはワインディングだ。何故か? 日本仕様ゆえに最高速は180km/hリミッターが作動する!? 何のためのテストコースなのか!! と喰い下がったが、吠えたところで何も変わらず。ホンダのルールだから仕方ないが、初めて試乗会に顔を出した八郷社長に直談判すべきだったかも…。

「社長がOKすれば我々は即リミッター解除します」とはパワートレイン開発責任者氏。彼らにしても最高速270km/hのタイプRの操縦安定性の高さを、安全な鷹栖の地で確認させたいのだ。

日本仕様の最高速187km/hは、感覚100km/h程度の安定性で、何事もなく直進性は矢のように真っ直ぐに。35度バンクを使ったスラロームで前後左右輪のタイヤの接地変化を確認するも、切れば曲がるフロント、リアはわずかにロールしながら路面を捉えて流れない!!

「鷹栖ニュル」に話を戻そう。激しい上下動が繰り返されるなかで、シャーシ性能の高さはやはり本物だった。それはタイプRに限らず、今回シビックチームとして開発したセダン、ハッチバックも含めて言える事。

やはりトヨタは新プラットフォームのTNGAでリアをWウィッシュボーン化した。ホンダはマルチリンク化して操縦安定性と乗り味を改善した。

ただし従来のトーションビームがダメなのか、と言うとそうではない。日本メーカーが詰め切れていないだけだ。VW『ゴルフ』を見ればビームの悪さは何もないのだから。

ニュル以上の過酷なコースも平然と

さて、常に3速4速、5速全開で走行するため、勢いでギャップに飛ばされタイヤが路面離れる事はしょっちゅう。それでもサスペンションは凹凸を舐めるように激しい上下動を繰り返し、ヒターっと前後輪で路面を捉えに行く。

ワインディングの難所は下り左コーナーの通称三段腹。旋回しながら激しい上下動は接地性を失いやすく、舵が効かず外に飛ばされる。嘗て『NSX タイプR』ですら身構えたコーナーは、クルマの操縦安定性が高い現在、ただ上下動する荒れた道、程度。何も起らず平然と駆け抜ける。

その先、ニュルにもここまで強い逆バンクはないコーナーが2か所続くが、そこで見せるタイプRのステア操作どおりにノーズがスーッとインを向き、インを舐めながら迷わずアクセルを深々と踏み込み加速しても外へはらまず、リア外輪はグッと踏ん張り流れず姿勢を安定させてフロントの仕事を無駄にさせないそれはまるで良く曲がるタイプの4WDか!? とも言える。 

フロントのヘリカルLSDとアジァイルの制御がイン側のブレーキを掴みに行く効果である。

ジャンピングスポットは4速全開で飛ぶが、その前後の路面の荒れが酷い。飛ぶ事を含めて、駆動輪に加わる過酷な条件ときたら、駆動系を壊しに行くようなもの。つまり全開のまま荒れた路面で上下動し、飛ぶから全開で瞬間的に空転と接地を繰り返す。ドライブシャフトとジョイントを含めて空転から接地した瞬間にバキッ、と捻切れそう。この条件下で鍛え上げられるのだ、それはそれはタフなタイプRに仕上がるハズだ。

着地して下るとボトムに急角度で変化するギャップ。ニュルで言うと6km地点のフックスレーレ。サスがフルボトムするまで瞬時に縮められるソコはボディ全体に縦方向に入力が入る。もちろん生まれ故郷だ、剛体感たっぷりのボディはミシリとも言わず通過した。

悩んでいるなら背中をドカンと押すが…

187km/hでリミッター介入のため、タイプRの衣装であるエアロパーツの効果も体感できず。実際140km/h以上から路面にヒターッと接地感を増す感覚はダウンフォースなのだろうが、200km/hで30kgの下向きの力が発生するリアや、フロントスポイラーの威力を“体感”するには至らず。

本家ニュルの最高速は274km/hと公表値を越える。ともかく、日本が誇るホットハッチが世界のライバルと真っ向勝負できる逸材であることを、確かに感じられた事は間違いなく、誇らしい気持ちになる。そんな6代目タイプRは魅力満載。悩んでいるなら背中をドカンと押して差し上げる。  

がしかし、値段が高い。高過ぎる(編集部註:450万0360円)。例えば“こういう仕様”もあっていいが、タイプRとは本来もっと質素で安価なモデルだったハズ。そこをもう一度見直すべきだ。と、ユーザーに成り代わり、ホンダ様には申し上げたい。

桂 伸一|モータージャーナリスト/レーシングドライバー
1982年より自動車雑誌編集部にてレポーター活動を開始。幼少期から憧れだったレース活動を編集部時代に開始、「走れて」「書ける」はもちろんのこと、 読者目線で見た誰にでも判りやすいレポートを心掛けている。レーサーとしての活動は自動車開発の聖地、ニュルブルクリンク24時間レースにアストンマー ティン・ワークスから参戦。08年クラス優勝、09年クラス2位。11年クラス5位、13年は世界初の水素/ガソリンハイブリッドでクラス優勝。15年は、限定100台のGT12で出場するも初のリタイア。と、年一レーサー業も続行中。

《桂伸一》

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